多くの女性が「隠れ我慢」を抱えているといわれています。「隠れ我慢」とは、不調を我慢して仕事や家事をしてしまうこと。ツムラが実施した調査では、全国20~50代女性の約8割が「隠れ我慢」を抱えながら日々過ごしていることが分かりました。
吸水ショーツのブランド「Period.」を手掛ける寺尾彩加さんは、吸水ショーツとの出会いが、自身の「隠れ我慢」解消のきっかけだったと言います。
「隠れ我慢」がなくなった。吸水ショーツとの出会い
──「隠れ我慢」という言葉を聞いて、思い浮かぶシーンはありますか?
私の場合の「隠れ我慢」は、意識的にしているのではなくて「気づかないうちにしてしまっていた」ものですね。今となっては「あれは我慢していた」と思えるのですが、当時は「仕方ないこと、しょうがないこと」として片付けてしまっていたんです。
例えば私は、生理の前後でナプキンをつけるタイミングに悩むタイプで、生理がきそうかどうかが分かりづらく、急にきて下着を汚してしまうことが小さなストレスになっていました。あとはPMSもひどかったり。
でも自分でどうにかできるとは思っていませんでした。仕方ないこと、耐えることなんだと思い込んでしまっていました。
──そうした無意識的な隠れ我慢に「気づいた」瞬間があった、ということですよね?
はい、考えが変わるきっかけとなったのが「吸水ショーツ」との出会いでした。海外の吸水ショーツを1枚買って使ってみたら、全然モレなくて感激したんです。まさに私のストレスだった、ナプキンをつけるタイミングの問題も解消されました。
生理は毎月くる憂鬱なものでしたが、ショーツを買ってからは次に生理がくるのが楽しみになったくらいです。
吸水ショーツとの出会いで、生理にまつわるいろんな価値観が変わると思いましたし、気づかないうちに我慢していたことも分かり、「あらゆる我慢はなくしたり取り除いたりできることだ」という気づきを得ました。
また、以前はPMSがひどくて、でもそのせいだと気づかずに「精神的な病気なのだろうか」と思うくらい落ち込むことが多々ありました。
でも吸水ショーツを介して「そもそもPMSや生理って、なんだろう」と考えるようになり、いろいろ調べるうちに「この症状は全てPMSに当てはまる」と気づいて楽になったんです。
「病院に行って低用量ピルを処方してもらえば緩和できる」と知って、実際に内服するようになったらそれまでの苦しみは一気になくなり、「今まで悩んでいた時間は何だったんだろう」と思ったくらいです。こうした出来事も、今の仕事を始める大きなきっかけになりました。
──一方で、まだ我慢を解消できるすべがあると気づいていない人も多数います。ご自身の経験として伝えたいことはありますか。
私もこのビジネスを始めて、ピルの服用や婦人科検診について相談される機会が増えました。生理痛がひどい人には「我慢することではない」と伝えたり、オススメのクリニックを紹介したり。ピルについても、服用することで快適に過ごしているなど自分の経験談をライトに伝えたりしています。
「Period.」のコピーに「自分を制限する壁は自分のなかにある」という文言があります。自分が一歩挑戦することで変わることは多いけれど、不安や心配などから自分の可能性にフタをしている人もいるのでは。そんな人が最初の一歩を飛び越えるためのアシストをしていきたいですね。
「自分の体を知らない人」が多い?
──吸水ショーツ「Period.」の開発・プロデュースを介して気づいた女性の悩みや隠れ我慢の傾向などありましたら教えて下さい。
みなさんそれぞれ「これ」という悩みはバラバラですが、共通する部分としては、自分の体のことを知らない人が多いな、と。生理の情報に接する機会が少ないからか、経血の量や痛みなどが自分基準になっていて、医学的に言われている適正範囲を知らず、本当は月経過多なのに「自分は違う」と思っている方や、「生理痛はひどくて当たり前」と思っている方もいます。
ポップアップストアでお客様と会話する際に「普段の経血量は多い方ですか、少ないほうですか」と聞いても、ほとんどの人が「分からない」と答えます。自分が健康でいるためにも、平均や適正の状態は知っておくべきですよね。でも、今まではこうした分野での教育の機会がなかった。そこに課題も感じています。
自分で自分の体の選択がきちんとできる世の中にしていくためにも、私たちはまず「自分を知る」ことをテーマに挙げて、自分自身を知るきっかけとして吸水ショーツを扱っています。
ここ数年で生理にまつわるプロダクトは増えましたし、情報も広がりました。みんなが知る機会が増えたのはとてもありがたいこと。でも今はまだファーストステップの段階です。正しい知識を身に付け、深い理解と学びを得た上で自分に合った選択をする、そのためのステップはここからです。今後も継続して情報発信をしていきたいですね。
──ここ数年の変化のなかでも、特に寺尾さんが印象的だったことはありますか?
ポップアップストアをやっていて、男性のお客様がいらっしゃる機会が増えました。今までは触れてはいけない感覚だったのが、例えば企業のマネジメント層の男性が社員には聞けない生理痛のつらさだったり生理のプロダクトについて聞いてこられたり。女性のパートナーがいらっしゃる方がプレゼントとして購入されたり、カップルでいらっしゃったりする光景も増えました。
そもそも私たち「Period.」は、ブランドとして女性だけをエンパワメントするためにビジネスをやっている意識はなく、問題を抱えている人たち全てに使ってもらいたいと考えていて、あまり「女性を」というのは強く押し出していません。吸水ショーツは生理のためだけでなく、妊婦や高齢者の方で軽失禁に悩む方が使うこともあります。あらゆる問題解決につながる選択肢のひとつとして捉えています。
生理は女性だけの問題とするのではなく、自分に生理がなくても「一緒に考えたい」「理解して接したい」という人にも寄り添い、そういった方々を含めてエンパワメントしていきたい。そして、個々の不調や体にまつわる問題も、女性だけの一時的な課題に制限するのではなく、社会規模での課題として捉えて、全体で解消しなければならないと思います。
──そのためにもまずはどういうアクションを取るべきでしょうか。
こうした課題を必ずしも男女間だけのものとするのではなく、同じセクシュアリティやジェンダーの中でも人それぞれ感じ方は違うので、みんな違っていて当たり前だという理解を大事にしたいですよね。自らのスタンダードを押し付けず、まずは自分と他者の違いを受け入れることから始めたいです。
最初は「知る、学ぶ」が大事で、そこが定着してきたら今度は「ちゃんと発言する、自分の意志を表明する」というアクションを取ってみるといいかもしれません。そうすると言いやすい環境も徐々に広がっていくと思います。
あとは、体調が悪いときは無理をしない。私は「ご自愛タイム」としてしっかり休むようにしています。
これがわたしの#OneMoreChoice
「自分の体のことを理解して、自分に合った選択をする」です。
これまで生理関係のプロダクトは使えるものが決まりきっていて、それが嫌だとしても他の選択肢がなく、使わざるを得ない状況でした。
でも今は月経カップやショーツの他にも世界中にいろんなプロダクトがあり、婦人科の病気に対する医療も含め、選択肢がたくさん増えています。また、皆さんの声により使える選択肢をもっと増やすことも可能です。一人一人、自分に合う選択ができる時代になりつつあります。
これからはもっと「必ずこれを使わければいけない」という我慢をしない世界になっていくのが理想です。まずは自分の体を理解して、自分に合う選択ができる世の中をつくっていきたいですね。
取材・文=川口あい 撮影=Shin Ishikawa
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