暴力から逃れてきた移民を「犯罪者」扱いし、差別に抗議する黒人を「つまみ出せ」と煽る。
第45代アメリカ大統領のドナルド・トランプ氏は、人種差別や弱い立場にいる人たちへの攻撃を続けてきた。
しかしトランプ氏の差別は、大統領になって始まったことではない。不動産王と呼ばれた時代も、その言動が物議を醸してきた。
間も無く投票日を迎える2020年の大統領選挙を前に、トランプ氏の差別的な言動を振り返ってみよう。
黒人の顧客を差別
トランプ氏の不動産会社「トランプ・マネジメント・コーポレーション」は1973年、黒人の顧客に白人と異なる賃貸条件を提示したり、空室はないと虚偽の説明をしたりしたことで司法省に訴えられた。
当時トランプ氏は同社の代表で、この提訴を「馬鹿げている」と主張し、逆に司法省を名誉毀損で訴えた。
結局、同社は過ちを認めないまま示談し今後は差別をしないと約束した。しかし3年後に再び、黒人顧客への差別で司法省から訴えられた。
非白人のティーンエイジャーに極刑を求めた
1989年、ニューヨークのセントラルパークをジョギング中だった女性が殴打されてレイプされる事件が発生し、14〜16歳の5人の非白人男性(黒人4人とラテン系アメリカ人1人)が逮捕された。
容疑者らが逮捕された直後に、トランプ氏は犯罪者を厳罰に処するべきだと主張する全面広告を4つの地元新聞に掲載。
「私は強奪者や殺人者を嫌悪する。彼らは苦しむべきだ。殺人を犯した時は処刑されるべきだ」「私は殺人者を憎みたい。これからも憎み続けたい。精神分析や彼らへの理解など必要ない。必要なのは処罰だ」と、強い言葉でニューヨーク州の死刑再開と警察権力拡大を求めた。
しかし2002年、DNA鑑定で5人の若者が犯人ではなかったことが明らかになった。後に「セントラル・パーク・ファイブ」と呼ばれるようになった5人は、警察に自白を強要されて、不当な有罪判決を受けていた。
しかし5人の無罪が確定した後も、トランプ氏は謝罪せず「彼らは有罪だと認めている」など、5人の男性が有罪だとほのめかすコメントを続けている。
黒人従業員の差別
トランプ氏は、ニュージャージー州アトランティックシティにあるトランプ・プラザ・ホテルとカジノの従業員から何度も差別行為を批判されてきた。
1991年、同ホテルとカジノは顧客の求めに応じて 黒人や女性のカードディーラーをカジノテーブルにつかせなかったことで20万ドルの罰金を科された。
また、ホテルとカジノの元最高経営者だったジョン・オドネル氏は1991年に出版した回顧録で、トランプ氏が黒人の従業員について「あの男は怠け者だ。そしてそれはおそらく、奴のせいじゃないだろう。黒人は生まれつき怠け者なんだ。本当だよ。俺はそう信じている。彼らが自分で変えられることじゃないんだ」と発言したと伝えている。
オバマ前大統領は、アメリカ生まれではないと主張
トランプ氏は、ハワイ出身の前大統領バラク・オバマ氏の出生地を疑い、「アメリカで生まれていないため大統領になる資格はない」と根も葉もない主張をし続けた。
2011年にはテレビ番組で「ハワイに人を送って、オバマ氏が実際にハワイで生まれたかどうかを調べさせたところ、信じられないようなものを見つけた」と発言している。
「バーセリズム」と呼ばれるこの差別主張に、オバマ氏は出生証明書を公開することで反撃し、主張が間違っていることを証明した。
しかしトランプ氏はその後も、「オバマ氏はケニアで生まれたと本に書いている」「出生証明書は怪しい」など、根拠の無い主張をしている。
移民や難民を「犯罪者やレイピスト」と批判
2015年6月に大統領選に立候補を表明した際、トランプ氏は入国書類を持たずにメキシコとの国境を超える移民や難民を「犯罪者やレイピストだ」と侮辱した。
「メキシコは、最も優れた人は送ってこない。彼らが送り込んでくるのは問題だらけの人間で、その問題を我々の国に持ち込んでくる。ドラッグを持ち込み、犯罪を持ち込む。そして彼らはレイピストだ」とトランプ氏は述べ、メキシコとの国境に壁を作ると宣言した。
ホームレス男性を殴打した自身の支持者を「情熱にあふれている」と擁護
2015年8月、ホームレスの男性の顔に放尿し、殴打したトランプ支持者の兄弟が、ボストンで逮捕された。
殴打されたのはラテン系アメリカ人の男性で、逮捕された兄弟は暴力を加えた理由を「ドナルド・トランプは正しい。これらの不法入国者は国外追放するべきだ」と述べて、トランプ氏の影響があったことを明らかにした。
トランプ氏はこの行為について「残念だ」と述べたものの、「私を支持する人たちはとても情熱的だ。彼らはこの国を愛していて、この国がもう一度素晴らしい国になって欲しいと願っている。彼らは情熱的だ」と答えて、容疑者らを擁護した。
抗議する黒人が殴打されるのを容認「つまみ出せ」
2015年11月にアラバマ州で開かれた大統領選挙集会では、トランプ氏の差別に抗議する人にトランプ支持者が暴力をふるった。
「ブラック・ライブス・マター(黒人の命は大切だ)」と叫んだ黒人の男性を、トランプ支持者が攻撃。それを見たトランプ氏が「奴をつまみ出せ」と叫んだ。
現場で動画撮影したCNN記者のジェレミー・ダイアモンド氏は、トランプ支持者たちが黒人男性を押したり殴ったりして床に倒したと伝えている。
これについてトランプ氏は「彼は殴打されるべきだったのかもしれない。とんでもなく不快なことをしていた」、とFOXの番組で話した。
「メキシコ人だから偏見がある」と判事を非難
トランプ大統領は2016年5月、自身が運営する不動産セミナー「トランプ大学」への集団訴訟を担当していたカリフォルニア州連邦地裁のゴンザレス・クリエル判事は「メキシコ系であるために、訴訟から外れるべきだ」と主張した。
クリエル判事はインディアナ州で生まれたアメリカ市民。しかしトランプ氏はCNNのインタビューで「彼はメキシコ人で、我々はアメリカとメキシコの間に壁を作ろうとしているため、クリエル判事は我々に不公平な判決を下している」と発言した。
このトランプ氏の主張について、当時の下院議長のポール・ライアン氏は、「人種を理由に何かができないという、人種差別発言のお手本のような発言」と批判した。
イスラム教徒の国からの入国を拒否
トランプ大統領は2017年1月、シリアやイラクやイランなど、イスラム教徒が多数を占める7カ国出身の人々の入国を、少なくとも90日禁じる大統領令にサインした。
この大統領令では同時に、シリア難民の入国を無期限に停止し、その他の国からの難民の入国も120日間禁じられた。
また、この大統領令が原因で、空港で足止めされたり、家族から引き離されたり、必要な医療を受けられなくなったりする問題が起きた。
白人至上主義者を擁護
2017年8月、バージニア州シャーロッツビルで白人至上主義者やネオナチ組織と、彼らに抗議する人々との間で衝突が発生。
混乱の最中に、極右集団の男性の一人が抗議する人々に車で突っ込み一人が殺された。
トランプ大統領は一度は、白人至上主義者やネオナチを非難したものの、その後「どちらにも素晴らしい人たちがいる」と、極右集団のメンバーを擁護した。
アフリカ諸国とハイチを「肥だめのような国」と呼ぶ
2018年1月、トランプ氏がハイチやアフリカ諸国からの移民の保護に反対して「なぜ我々が、そんなシットホール・カントリー(肥だめのような国)の人たちを受け入れなければならないんだ?」と述べたことが報じられた。
そしてトランプ氏はそれらの国からの移民に反対する一方で、ノルウェーのような国からの移民を受け入れるべきだと主張した。
報道に対してトランプ氏は「肥だめのような国」という言葉は使っていないと否定したが、問題の発言があったとされる会合に同席したディック・ダービン上院議員は、大統領がこの言葉を使ったと非難した。
日本人記者に「何を言っているのか分からない」
トランプ氏は2018年11月、中間選挙の後の記者会見でアクセントのある英語を話す日本の記者の質問を遮って「あなたはどこから来たのか?」と逆質問した。
さらに、質問を続ける記者に対して「シンゾーによろしく」「何を言っているのか分からない」と述べた。
この会見では、トランプ氏はアクセントのある別のふたりの記者にも「何を言っているのかわからない」と述べ、差別的で侮辱的だという批判が起きた。
女性議員に「国へ帰れ」と攻撃
トランプ大統領は2019年7月、民主党のアレクサンドリア・オカシオ=コルテス議員、ラシダ・タリーブ議員、アヤンナ・プレスリー議員、イルハン・オマール議員をTwitterで攻撃。
「国へ帰って、壊れて犯罪にまみれた場所を解決するのを助けたらどうだ」と投稿した。
4人はアメリカ国籍を持つ、非白人の女性議員だ。
オカシオ=コルテス議員、タリーブ議員、プレスリー議員はアメリカで生まれ育ち、オマール議員はソマリアで生まれて子どもの時にアメリカに移住した。
しかしトランプ氏は4人をアメリカ人ではないかのように攻撃し、「この“進歩的”な民主党の女性議員は、世界で最も破滅的で、最悪で、腐敗した政府の国出身だ」と、中傷した。
新型コロナウイルスを「中国ウイルス」「カンフルー」と呼んできた
世界保健機関(WHO)は、新型コロナウイルスを特定の場所に紐づけることは差別やスティグマにつながるとして、新型コロナウイルスを「中国ウイルス」と呼ばないよう求めてきた。
しかし、トランプ氏は何度も新型コロナウイルスを「中国ウイルス」や「カンフルー」と呼んでいる。
トランプ氏のこういった言動がアジア系アメリカ人への攻撃やヘイトを加速させた、と専門家は批判している。
中国やロシアやインドを「汚い」と侮辱
2020年10月の大統領選挙前の討論会で気候変動について聞かれたトランプ氏は、「アメリカは、空気や水が最も綺麗な国」と誇らしげに語った。
そして「中国を見てみるといい。とても汚い。ロシアやインドを見てみるといい。とても汚い。彼らの空気はとても汚い」と、それらの国に対する侮辱的なコメントをした。
白人至上主義者を勢いづかせる
トランプ大統領は白人至上主義者を擁護するにとどまらない。彼らの言動をSNSでシェアするなど、白人至上主義者を勇気付けるような言動を何度も取っている。
2020年6月には、トランプ氏の支持者が、白人至上主義者がよく使う言葉「ホワイトパワー(白人パワー)」と叫んでいる動画をリツイート。コメントに、支持者への感謝を綴った。
また、9月に開かれた第1回大統領選挙討論会で「白人至上主義グループを非難するか」と聞かれた際には、非難するのではなく「プラウド・ボーイズ、下がって待機せよ」と述べた。
こういった大統領の言動が、アメリカの白人至上主義者を喜ばせ、勢いづかせている。