裁判員制度「市民からの提言2018」〈提言⑫〉裁判員裁判の通訳に関して、資格制度を設けて一定の質を確保するとともに、複数の通訳が担当することで通訳の正確性を担保すること

通訳の質の確保と正確性を担保するために

裁判員制度は5月21日でスタートから丸9年となり、制度開始10年目を迎えています。裁判員ネットでは、これまでに345人の市民モニターとともに650件の裁判員裁判モニタリングを実施し、裁判員経験者へのヒアリングや裁判員裁判の現場の声を集める活動を行ってきました。この「市民からの提言」は、裁判員制度の現場を見た市民からの提案です。裁判制度の現状と課題を整理し、具体的に変えるべきと考える点をまとめました。今回は通訳に関する提言⑫を紹介します。

〈提言⑫〉

裁判員裁判の通訳に関して、資格制度を設けて一定の質を確保するとともに、複数の通訳が担当することで通訳の正確性を担保すること

1 現状と課題

⑴法廷通訳人の役割

裁判所では日本語を用いることとされています(裁判所法74条)。そのため、日本語を理解しない外国人が日本の裁判に関与する場合、法廷等での発言を通訳する通訳人(法廷通訳人)の存在が不可欠です。

とりわけ、刑事裁判においては、日本語を理解しない被告人の人権を保障し、適正な裁判を実現するために、法廷通訳人は、極めて重要な役割を果たします。刑事訴訟法175条は「国語に通じない者に陳述させる場合には、通訳人に通訳をさせなければならない」と規定しています。

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⑵法廷通訳人の選任方法

法廷通訳人は、裁判所が、通訳が必要な事件ごとに通訳人候補者名簿を利用するなどして選任します。

通訳人候補者名簿に登録されるためには、法廷傍聴などをした後、面接を受ける必要があります。面接を受けた結果、通訳人としての適性を供えていると認められた者は、刑事手続の流れや法律用語等の導入説明を受け、これに登録されることになります。この名簿には2017年4月1日現在、全国で62言語、2,823人が登録されています。

平成28年に全国の地方裁判所や簡易裁判所で判決を受けた被告人57,697人のうち、通訳人が付いた外国人被告人は2,624人で、国籍数は68か国、使用言語は40言語に及びます。また、同年に行われた裁判員裁判においては、判決が言い渡された被告人1,104人のうち、64人に対して通訳人が付いています。※1※2

⑶通訳の質の確保と正確性を担保するために

法廷通訳人は、刑事裁判において極めて重要な役割を果たしますが、その質の確保、誤訳防止の措置について明文上の規定がなく、これらの実現は裁判所の裁量に委ねられています。

確かに、通訳人候補者名簿に登載されるためには、面接や導入説明を受ける必要があり、また、通訳人のためのマニュアル(最高裁判所事務総局刑事局監修「法廷通訳ハンドブック」(法曹会))や法廷通訳の経験等に応じた研修が用意されています。※3

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しかし、法廷通訳人となるための資格は設けられておらず、通訳人候補者名簿への登録基準も明らかではないため、通訳技術が客観的に担保されているとは言いがたい状況です。また、通訳人が正しく通訳をしているかどうかを審査、検証する仕組みは存在しません。このような状況下では誤訳が起こりかねず、ひいては、事実認定や量刑判断を誤らせる恐れすらあります。

被告人には、適正な通訳を付される権利があると考えるべきであり、そのためには、司法通訳人の質が客観的に確保され、誤訳を防止するための措置が取られるべきです。※4

2 市民からの声

⑴裁判員経験者の声(裁判員経験者意見交換会議事録より)

通訳の方、多分こういった公の場に出ていらっしゃる方なので、とても有能な方だとは思うんですけれども、その人しか、言っている内容が、事実が理解できてないというのが、聞いていてちょっと心配な点ではありました。

その人がもし間違った通訳をしていても、だれも気付けないし、もしかしたら、気付く人だったりとか、分かる人がほかにいたのかもしれないんですけれども、その場では通訳できる方はその方だけという状態だったので、合っているのかな、ニュアンスとかちゃんと正しく伝えてもらえているのかなというのはちょっと不安な点でした。なので、だれか検証できる方通訳の方、多分こういった公の場に出ていらっしゃる方なので、とても有能な方だとは思うんですけれども、その人しか、言っている内容が、事実が理解できてないというのが、聞いていてちょっと心配な点ではありました。が一人いて、何か違うなと思ったら、「今のところは違うんじゃないでしょうか。」というような意見をしてくださる方がいたら、少しそこは不安が軽減できるのかなと思いました(東京地方裁判所平成25年1月11日)。

⑵市民モニターの声(裁判員制度市民モニター調査報告書〈第11次報告〉より)

通訳が非常にわかりにくかった。通訳の重要性は審議内容に影響することである。正確性が求められる。通訳の上手下手で幅がある。通訳の資格をしっかり作るべきだ。

上手く通訳されずに、被害者がイライラした様子があった。被害者が日本語で話し始めた場面があった。検察官の質問に対して被害者が適当に返答をする場面があったのも通訳のせいかもしれないと感じた。

通訳人がマンホールを意味するロシア語を日本語に翻訳できないでいる時に、被害者が自ら日本語で「マンホール」と言っていた。

英語などのポピュラーな言語であれば、裁判に出ている人が間違いに気が付くかもしれないが、少数言語などの場合は間違いがあってもわからない。

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3 具体的な提案

⑴司法通訳人となるための資格を設けること

司法通訳人の通訳技術を客観的に担保するため、司法通訳人となるための資格を設け、同資格を取得した者のみが通訳人候補者名簿に登録されることにすべきです。

⑵司法通訳人の複数選任を原則とすること

誤訳防止のため、司法通訳人の複数選任を原則とすべきです。

そして、一方の司法通訳人が誤訳をしていると考えられる場合、他方の司法通訳人には、当該通訳に対して異議を述べる機会が与えられるべきです。

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※1 最高裁判所事務総局刑事部編「ごぞんじですか法廷通訳~あなたも法廷通訳を~」1頁~5頁

※2 最高裁判所事務総局「平成28年における裁判員裁判の実施状況等に関する資料」

※3 最高裁判所事務総局刑事部編「ごぞんじですか法廷通訳~あなたも法廷通訳を~」5頁

裁判員制度「市民からの提言2018」

1.市民の司法リテラシーの向上に関する提言

<提言①>無罪推定の原則、黙秘権の保障などの刑事裁判の理念を理解できるような法教育を行うこと

<提言②>無罪推定の原則、黙秘権の保障などの刑事裁判の理念を遵守するように、公開の法廷で、説示を行うこと

2.裁判所の情報提供に関する提言

<提言③>裁判員裁判及びその控訴審・上告審の実施日程を各地方裁判所の窓口及びインターネットで公表すること

<提言④>裁判員だけではなく、裁判員裁判を担当した裁判官も判決後の記者会見を行うこと

3.裁判員候補者に関する提言

<提言⑤>裁判員候補者であることの公表禁止を見直すこと

<提言⑥>裁判員候補者名簿掲載通知・呼出状の中に、裁判を傍聴できる旨を案内し、問い合わせ窓口を各地方裁判所に用意すること

<提言⑦>裁判員候補者のうち希望する人に「裁判員事前ガイダンス」を実施すること

<提言⑧>思想良心による辞退事由を明記して代替義務を設けること

4.裁判員・裁判員経験者に関する提言

<提言⑨>予備時間を設けることで審理日程を柔軟にして、訴訟進行においても裁判員の意見を反映させる余地をつくること

<提言⑩>裁判員の心のケアのために裁判員裁判を実施する各裁判所に臨床心理士等を配置すること

<提言⑪>守秘義務を緩和すること

5.裁判員制度をより公正なものにするための提言

<提言⑫>裁判員裁判の通訳に関して、資格制度を設けて一定の質を確保するとともに、複数の通訳が担当することで通訳の正確性を担保すること

<提言⑬>裁判員裁判の控訴審にも市民参加する「控訴審裁判員」の仕組みを導入すること

<提言⑭>市民の視点から裁判員制度を継続的に検証する組織を設置し、制度見直しを3年毎に行うこと

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