自動車の世界で「羊の皮をかぶった狼」という形容がある。おとなしい外観ながらも、搭載するエンジンはパワフルな車のことだ。
トヨタ自動車のカローラ1600GTもその一つだった。カローラの新たな魅力を引き出した名車で、豊田章男社長も初めて買った車がこの1600GTだったと、9月17日のカローラ新車発表会にビデオ出演して明かした。
一方で、カローラは半世紀におよぶロングセラーな車なだけに、大衆車と呼ばれることも。だが、豊田社長はカローラについて「絶対にコモディティと言われるような存在にしたくない」と断言した。
その言葉の通り、新型カローラはそれまでのイメージを突き破ったハイスペック車へと変ぼうを遂げている。
豊田社長、レーシングスーツ姿で熱弁
「初めて自分の金で買った車がカローラだった。『羊の皮をかぶった狼』と言われる1600GTです。忘れられない青春時代の思い出が詰まった車です」
レーシングスーツ姿の豊田社長がビデオメッセージで熱っぽく語ると、会場に集まった報道陣は食い入るように見入った。
カローラ=大衆車というステレオタイプな見方について、豊田社長は「言い換えれば私たちトヨタにとっては、多くのお客様に選んでいただいた車。街で見る多くのカローラにご家族の大切な思い出が乗っている」と、前向きに解釈してみせた。
豊田社長の言葉には自信がみなぎっていた。それを裏付けるかのように、新型カローラはハイスペックな機能が満載だった。
発表された新車はフルモデルチェンジしたセダンの「カローラ」とワゴンの「カローラツーリング」。そして改良が施された「カローラスポーツ」。
先代セダンの「アクシオ」、ワゴンの「フィールダー」という名前から、伝統の「カローラ」を強く打ち出した格好だ。
「時代を先取りする性能」。会場でプレゼンテーションをした吉田守孝副社長もそう胸を張った。
スタイリッシュを追求
トヨタが開発にあたって特に力を入れたのが、外観のスタイリッシュさを追求したことだ。
「シューティングロバスト」(疾走感と頑強さ)というテーマを掲げ、従来より重心を低くし、タイヤやフェンダーミラーを外側に張り出すことを実現。よりスポーティーな風貌になった。
また、乗り心地と操作性などを高めるため、トヨタが世界的に進めているエンジンから車体までの一体的設計・開発システム「TNGA(Toyota New Global Architecture)」のプラットフォームを採用した。
日本発売モデルについては、海外モデルに比べて車体の幅が狭く、前輪と後輪との距離も短い専用パッケージを導入、狭い道での操作性を高めた。
安全面にも注力しており、衝突の際に乗っている人の安全を確保する設備を充実させ、走行中や駐車時の衝突を回避するための予防安全装置も搭載。
駐車場での車の出し入れを支援するオートブレーキも採用している。
「コネクティッド」機能も強化した。国内トヨタ車で初めて、ディスプレイオーディオを標準搭載。手持ちのスマホとBluetoothやUSBケーブルで連携させることで、スマホにダウンロードされた地図アプリや音楽を、ディスプレイ上でも操作することが可能となった。
一方で原価低減を進め、価格は先代とほぼ同レベル(消費税10%含み約194万円~)を維持するなど、カローラ代々のこだわりである「良品廉価」(できるだけ良い製品を、手の届きやすい価格で提供する)を今まで以上に追求している。
「『ゆとりのある、いつまでも乗り続けたい車』という原点に立ち戻り、お客様の期待を超える価値を提供することを目指した」。吉田副社長はそう述べた。
辛口の質問に開発者、どう答えた?
カローラは初代からの累計販売台数が全世界で5000万台に迫る。しかし発売から50年以上が過ぎ、ともすれば古臭いイメージもある。
「若者のクルマ離れ」が取り沙汰されるようになり、メーカーや車種への思い入れを、あまり持たない若い世代も増えている。
発表会の後半に行われたトークセッションでは、SNSを通じて集まったカローラへの意見や質問も紹介された。
その一つに、「最近のカローラは、若い人が乗っていないイメージ」という意見があった。
これに対し、開発担当の上田泰史チーフエンジニアは「確かにここ数世代、そういうイメージはあったかもしれない。だが新型カローラは、デザインと気持ちのいい走りで、世代を超えて若い人にも楽しんでもらえる車だ」と自信を見せた。
自動車業界では近年、スポーツ用多目的車(SUV)が人気だ。そんな中、あえてカローラのような「セダン、ワゴン、ハッチバックで勝負するのはなぜ?」という質問もあった。
上田氏は「例えば新型カローラツーリングは、ワゴンとして荷室の使い勝手の良さを確保した上で、SUVに比べて車高を抑え、燃費も走りも上を行っている」と、違いを強調した。
吉田副社長も「RAV4などのSUV車と、カローラなどのセダンが社内で切磋琢磨することでトヨタが発展し、日本の自動車市場も活性化する」と、競い合って質を高めることの大切さを指摘した。
「かっこいいクルマ」の興奮を再び
トークセッションで多くの人が語ったのが、新型の「カッコよさ」だ。
車好きとして知られるフリーアナウンサーの安東弘樹氏がゲストとして登壇し、「子どもの頃、父のひざの上で、生まれて初めてハンドルを握らせてもらったのがカローラ。『なんて格好いいんだろう』と思ったのが私の原点だ」と語った。
その上で新型について、「初代や二代目に通じる、1ランク上の格好良さ、走行性能の良さを見事に復活させてくれた。スポーティーな外観に『カローラ・イズ・バック』の思いを強くした」と評価した。
先行予約した顧客からも「スタイリッシュできりっとしている」「今までと違う、すっきりした形でかっこいい」という喜びの声が上がっていた。
時代変わっても愛され続ける
初代カローラが誕生したのは高度成長期真っただ中の1966年。日本社会が豊かになるのを映し出すように大ヒットし、モータリゼーションの幕開けを告げた。
人々が大切に持っているカローラの記憶は、家族や恋人、友人たちと楽しい時をすごしたかけがえのない思い出でもある。
時代が変わっても機能や乗り心地、使いやすさなどが常にアップデートされてきた。半世紀にわたって愛され続けてきた所以(ゆえん)だ。
さて、新しいカローラに乗る人たちはどんな思い出を作っていくのだろう。