「有害な人」や「有害なポジティブさ」という言葉はよく知られているが、「有害な許し」を聞いたことはあるだろうか。
シアトルの公認メンタルヘルスカウンセラー、エミリー・ウェスト氏は、有害な許しを「圧力からの許し、もしくは表面的に誰かを許すこと」と表現する。
自分の感情に十分に向き合わないままに、「相手を許すべきだ」という自分自身、もしくは周りからのプレッシャーを感じた場合、有害な許しが生じることがあるという。この状態を表しているのが「水に流す」という表現かもしれない。
ペンシルベニア州フィラデルフィア在住の公認心理療法士、レイチェル・ウォルフ氏は、ピープル・プリーザー(相手にあわせようとする人)が、有害な許しをする傾向があると話す。
「人との衝突に恐れや不安を感じ、すぐに許せば、短期的な安心感を得らることはできるでしょう。しかし、結果的に感情を押し殺して不満が生じれば、人との関わりから遠ざかってしまう可能性があります」
ウェスト氏も「必要な時間かけ、注意を払った上で本当に許せるという気持ちになっていないので、本物の許しではない」と述べる。
有害な許しは、精神的な痛みや不満を感じさせ、関係を悪化させる可能性がある。
ウォルフ氏は、有害な許しに陥りがちな人は、「不和をできるだけ早く修復したいという本能的な欲求」を持っていると説明する。
「しかし、心の傷を癒さずに許せば、長期的な影響が生じる可能性があります。怒りや悲しみ、裏切りなど、本来注意を払うべき感情を抑え込んでしまい、結果的に不満や不機嫌さなどが長く続いてしまうこともあるのです」
この不満は、許した側にも許された側にも影響を及ぼすという。
「例えば、許した側が距離を置いたり、イライラしたり、パッシブアグレッシブと呼ばれる行動を取ったりすれば、本当に許されたと思い込んでいる相手は傷ついたり混乱するかもしれません」
ウェスト氏は、偽りの許しは「ふたりの親密さや信頼、安全、正直さ、真の関係を損なう」と指摘する。
許しが有害かどうかは、どうやって確認できるのだろうか。ウェスト氏とウォルフ氏に、有害な許しの兆候を聞いた。
あまりに早く許す
ウォルフ氏は「もちろん、どんな問題かにもよる」とした上で、「問題が生じた後あまりにもすぐに許せば、十分に感情の処理をできていない可能性があります」と話す。
自分が受けた影響をきちんと理解するためには、時間を取って問題から距離を置く必要がある。
相手との対立を自分がどう感じているかを判断するための時間も必要だ。ウォルフ氏によると、すぐに水に流す場合は自分自身の気持ちを理解できていないことが多い。
相反する感情が生じている
誰かを許した後に自分が相手よりも苛立ちを感じているようであれば、許しは有害なものかもしれない。
ウェスト氏は「相手へのわだかまりを感じたり、混乱や傷が続いてたりするのは、有害な許しの兆候です」と述べる。
距離を置こうとしている
問題を乗り越えたと思った後に相手と距離を置こうとしている場合も、注意が必要だ。
ウェスト氏は、それは実際には相手を本当に許していないサインかもしれないと説明する。
本物の謝罪は、自分と相手の間に理解と親密さを生む。距離ではない。
不十分もしくは自己弁護的な謝罪を受け入れる
ウォルフ氏は「健全で真摯な許しには、率直さと正直さが必要です」と述べる。
不和を修復するためには、両者がそれぞれの懸念を共有し、弱さを見せる率直で真摯な会話が必要だ。
ウォルフ氏は「そういった会話からは、さらなる理解や共感が生まれる可能性があります」と話す。
しかし自己弁護的で相手を非難する会話からは、真摯な謝罪が生まれない可能性がある。
心の傷を軽視する
前述したように、ピープル・プリーザーは有害な許しに陥りやすい傾向がある。それは、人を喜ばせたいピープル・プリーザーが心の傷を軽視しがちだからだとウォルフ氏は説明する。
「『大丈夫』と言えば、緊張状態を一時的に和らげられるかもしれません。しかしそれでは、自分がどれほど深く影響を受けたかが理解できません」
「自分の心の傷をきちんと癒すために、相手の行動でどれだけ傷ついたかを伝え、理解してもらうことが必要な場合もあります」
自分らしくいられない
関係の近い相手には、本当の自分を出せるべきだ。自分らしくないと感じているのであれば注意すべきかもしれない。
例えば、友人に率直になれていないと感じる時は、本音を伝えられていない可能性がある。
また、パートナーや家族に自分の思っていることを伝えられていない場合も、有害な許しのサインになりうる。
ウェスト氏は「これは自分が本当に言いたかったのはことじゃない、本音じゃないと感じる時は、有害な許しの可能性があります」と話す。
本当に許しのために必要なもの
問題を水に流さず、相手と深く意義ある会話をするというのは、たとえ難しくとも、自分のウェルビーイングのために重要なプロセスだ。
ウォルフ氏は、本当の許しのための最初のステップは、スローダウンして自分の気持ちに耳を傾けることだと説明する。
「特に不安を感じやすいピープル・プリーザーは他人にどう思われるかに敏感なので、スローダウンが難しいと感じるかもしれません。しかし、時間をかけて自分と向き合うことは、健康的で、エンパワーメントになり得ます」
すぐに問題を解決しようとせずに時間をかけることで、自分の感情に向き合い、対立の背景を考える時間も得られる。
ウォルフ氏は、スローダウンして「自分はどう感じているか?」「何を望んでいるのか?」「この状況が自分にどのような影響を与えているか?」などを自問自答し、本当の気持ちを確認することを勧めている。
ウェスト氏は、自分の感情に向き合うことには居心地の悪さが伴うかもしれないが、そんな時には自分への思いやりと共感を持ってほしいと説明する。
本当の許しに向かう準備として、自分の気持ちを日記につづる、セラピストや信頼できる友人と話すなどの方法がある。
ウェスト氏は「居心地の悪さが大切な癒しに向かっている兆候だということを改めて認識してほしいと思います。深い居心地の悪さを感じないまま、真の癒しは起こりません」と話す。
その一方で、すべての対立が真の許しに値するわけではない、ということも心に留めておいてほしい。
ウォルフ氏は「自分がどれほど大きな被害を受けたかについて考えることも重要です。たとえば『遅れてごめん』と『浮気してごめん』はまったく異なります」と話す。
すべての関係が修復に値するわけではない。特に、何度も危険や苦しみをもたらす関係はそうだといえる。
ウェスト氏は「『私は許したと言わない。心の中で手放し、この負担をもう背負わないことにする』と決断する関係もあるでしょう。それでいいのです」と話す。
それは本当の許しとは異なる。しかし同じくらい重要な許しの形だ。
ハフポストUS版の記事を翻訳しました。