優れたミュージカルや演劇作品を表彰する「トニー賞」の授賞式が6月10日、アメリカ・ニューヨークで開催され、映画『アメイジング・スパイダーマン』シリーズなどで知られるアンドリュー・ガーフィールドさんが主演男優賞を受賞した。涙を浮かべながら力強く披露された受賞スピーチが大きな話題になっている。
受賞作となった『エンジェルス・イン・アメリカ』は、1980年代のニューヨークを舞台に、エイズに冒された同性愛者の主人公とその周りの人間模様を描いた群像劇。エイズついての十分な情報がなく、同性愛者特有の病だとされていた当時のアメリカ社会の不安と混乱を映す物語だ。
「ケーキを焼いてほしい人みんなに、ケーキを焼こうじゃないか」
名前を呼ばれ、壇上にあがったガーフィールドさん。
「人間の精神の尊厳が、何よりも大切なんだということをきちんと覚えておかなくてはならないようなこの時代において、主人公のプライアー・ウォルターを演じることができたことは、僕の人生において、とても栄誉なことでした。というのも、彼は人間の、特にLGBTQコミュニティの人々の、もっともピュアな気持ちを体現していると思うから」
そんな言葉でスピーチを始めると、壇上で、力強く、誰もが声をあげることができる社会の重要性を訴えた。
「それは、抑圧に対して"No"という精神。偏見に、排除に、そして(持たなくてよい)恥に"No"と言うことができる精神です。僕たちみんなが完璧な存在だし、みんな居場所があるんだ、という。そういう精神です」
そして、彼は、こんな言葉でスピーチを締めくくった。
「僕たちはみんな、尊敬されるべき存在だし、居場所がある。だからケーキを焼いてほしいって思う人みんなに、ケーキを焼こうじゃないか」
「ケーキを焼く」って何?
トニー賞授賞式の6日前、アメリカの連邦裁判所は、信仰を理由に、同性愛カップルにウェディングケーキを作るのを拒否した男性を擁護する判決を下した。
人権の保護と信教の自由、どちらが優先されるべきなのか。最高裁判事は、法律や憲法は同性愛の人たちの人権を守らなければいけないとした上で、「同性婚に反対する宗教観や哲学的信念は、表現の自由として守られる」と述べた。
全米中が注目していた裁判の決着に、議論がさらに深まっていたタイミングでのガーフィールドさんのスピーチ。
SNS上では「LGBTQコミュニティへ捧げられた、美しい言葉でした」「こんなにトニー賞にふさわしい人がいまだかつていただろうか」などと称賛の声が相次いだ。
若い世代へバトンを。
授賞式のあと、スピーチで最高裁の判決について触れた理由を記者に問われたガーフィールドさんは、「お世話になった人たちへの感謝を別にしたら、むしろ語らなきゃいけないのはこの件(最高裁の判決)だけだと思っていた」と明かした。
判決について、「とても興味深い判決だった」と述べ、こうした判断が、凝り固まった固定観念に縛られる人たちを勢いづかせてしまうのでは、という懸念も見せた。
そして、固定観念から解き放たれ、若い世代にバトンを渡していく重要性を力強く語った。
「僕たちは、すべてを変える必要がある。やり直す必要がある。年老いた警備員は夜に消えて、この世界を若い世代に、心穏やかに手渡すべきだと思う」
「僕たちはみんなつながっていて、誰かを愛し、生きるために生まれてきた存在なんだと知っている世代に、ちゃんとバトンを渡さなくては」
ガーフィールドさんは作品について「もちろん全ての人に見てほしいけれども、どこか場所がないと感じている人、社会や文化から排除されていると感じている人、そうした人に見てほしい」「彼らに、人は皆、完璧な存在なんだということを思い出してほしい」とも語った。