2月4日夜、東京タワーが真紅に染め上がった。元々赤いだろ、と言いたくなるかも知れないが、いつもの東京タワーは実はオレンジ。この日は、全身がルビーのような透明感のある赤にライトアップされていた。
■SNSを通じて集結
4日は旧暦の大晦日に当たる「除夕」。翌5日は正月の「春節」だ。新年を祝おうと、日本に住む中国人たちが東京タワーを中国で縁起の良い赤色にライトアップすると聞き、タワーへ向かった。
「ほら、ここで3人で写真を撮りましょうよ」。浜松町駅からタワーへ向かう道で、聞こえてくるのは全て中国語。SNSを通じて首都圏に住む中国人たちがイベントを知り、集結しているとのことだ。
■日中の政界人が友好ムードを演出
点灯式の会場に入ると、日本と中国のマスコミで会場はごった返していた。
式典は、安倍総理大臣のビデオメッセージから始まった。中国語で「过年好(新年おめでとうございます)」と呼びかけると、「今年はこれまで以上に青少年をはじめとした国民同士の交流に力を入れていきたい」と呼びかけた。
その後、程永華(てい・えいか)駐日本特命全権大使が中国語で「習近平主席が安倍総理と何度も会い、中日関係は正常な発展の軌道に戻った。中日関係は新たな歴史の出発点に立ち、新たな段階へ進む重要なチャンスが目の前にある」と呼応し、友好ムードを演出。
午後6時半に程大使や福田康夫元総理らが点灯ボタンを押すと、タワーは真紅に染め上がった。
式典後、タワーの側は新年を祝おうとする中国人たちで身動きが取れないほどの混雑ぶりに。タワーの足元で幼稚園児たちが中国の歌を歌っていたが、近づくことすら出来なかった。
■日本の中国人を「一つの輪」に
しかし、一体なぜ、東京タワーを染め上げて年越しを祝うのか。主催した団体の委員長で、全日本華僑華人連合会の会長も務めた顔安(やん・あん)さんにその狙いを聞くことができた。
約30年前に故郷の四川省を離れ、留学生として来日した顔さん。本来ならばめでたいはずの年越しが、日本に来てからは辛くなったという。
「当時、中国人は春節の前になると電話ボックスの前に大行列を作り、故郷の家族に電話をかけていました。一人2分で代われというルールがあったが、みんな守らない。電話の向こうから聞こえるお母さんの声で、みんな(寂しくて)泣き崩れていたんです」。
それから30年がたち、街には中国人が増え、SNSで繋がれるようになった。2018年末、顔さんが都内で友人と食事をしていた時、夜景の中で一際目立つ東京タワーが目に入った。
「東京タワーを照らせば、近くても遠くても、東も西も南も北も、どこにいても見えますから。ここを見れば、みんな気持ちが一体になって一緒に年越しを祝えるんです。今日本にいる中国人のSNSはこの話題で持ちきりです」。
かつては、遠く離れた故郷を思い、寂しく過ごしていた春節。顔さんはこのイベントを「皆が大团圆(一つの輪)になったようです」と笑顔で振り返った。来年以降も続けていきたいとしている。