【地下鉄走って90年】東京メトロ13000系特別運行

2017年は地下鉄開業90周年を迎え、ホームドアの設置に向けて、3路線で車両の世代交代が進む。

特別運行の初日を終えた13000系。

2017年は地下鉄開業90周年を迎え、ホームドアの設置に向けて、3路線で車両の世代交代が進む。そのひとつが日比谷線で、同年デビューする13000系が、2016年12月の3連休に南千住―霞ヶ関間で特別運行を実施。当初の予定より約3か月早く乗客にお披露目した。

■ラッシュ時をはるかに上回る黒山の人だかり

2016年12月23日(金曜日・天皇誕生日)9時過ぎ、広報に先導され、日比谷線南千住の1番線へあがると、手狭なホームは黒山の人だかり。平日朝のラッシュ時をはるかに上回っており、同年6月に登場した13000系に対する期待の高さがうかがえる。隣の2番線でも、13000系の入線を待つレールファンがそれなりに集まっており、異様な雰囲気だ。

日比谷線は北千住―中目黒間を結ぶ路線で、両端の駅は他社管理駅である。そのため、13000系の特別運行は車両基地のある南千住と、引上線のある霞ケ関のあいだを往復することで、東京メトロ管内の運行に限定した格好だ。

人波をかき分けながら、中目黒寄りに設けられたメディアスペースへ向かう。1番線の20メートル車7両編成の停止位置は、18メートル車8両編成の手前となっており、比較的撮りやすい。一方、隣の2番線は13000系の投入に伴い、同年6月30日(木曜日)から停止位置を約1.3メートル後方に変更された。18メートル車、20メートル車とも同じ位置に停まる。

「白線の内側にお下がりくださーい」

「身を乗り出さないでくださーい」

駅員らが肉声で声を張り上げて乗客に安全運行の協力を求め、A線(中目黒方面)、B線(北千住方面)とも列車の警笛が強く鳴り響く中、9時16分、1番線に13000系の臨時霞ケ関行きが入線した。乗降用ドアが開くと、まるで開店直後のバーゲンセールみたいな勢いで乗客が乗り込んでゆく。

その光景を見ると、3階ホーム移転前の北千住を思い出す。当時、外側は東武線(東武鉄道伊勢崎線)、内側は日比谷線のホームで、ラッシュ時は手狭だった。始発列車の乗降用ドアが開くと、乗客は座席へ一目散。入線から発車まで時間がないこともあり、車内はすさまじい状態だった。立っていても押しつぶされそうな不安を覚えたほどだ。

■ダイヤ乱れで13000系の乗車は銀座に変更

ついに発車のときを迎える。

「出発進行!!」

臨時霞ケ関行きの乗降用ドアが閉まると、先ほどまでの喧騒が一気にやみ、高山雅行南千住駅区長が右手を大きく上げ、高らかな声が響く。安全の確認がとれ、運転士は心を弾ませるような感じで、警笛を長く鳴らす。その音色は聞いていて心地よい。

13000系最初の営業列車が定刻より2分遅れの9時18分に発車。高山南千住駅区長は13000系がホームを離れるまで右手を高々と上げ、"我が子の旅立ち"を見守るような表情に映る。

メディアは小伝馬町の地下走行撮影シーン組と、復路の乗車体験組に分かれ、前者は次、後者はその次の03系の中目黒行きに乗る。こちらも行楽地などへ向かう乗客が多いことから、広報の指示により分散したのだ。

乗車体験組が乗車した中目黒行きは、若干遅れても順調に進んでいたが、人形町―茅場町間で停止信号のため止まってしまった。先行の臨時霞ケ関行きが乗降に手間取っているのだろう。その後、停止信号で何度も止まったため、広報の判断で、復路の臨時南千住行きは銀座からの乗車に変更された。仮に1つ先の日比谷にすると、隣のホームまでまわらなければならず、乗り遅れの恐れがある。

「次に6番線にまいります列車は、南千住行きとなります。なお、新型車両のため、7両編成でまいります。乗車位置が変わりますので、御注意ください。緑のシールの位置が乗車位置となります。

なお、撮影の際は、フラッシュ撮影、三脚を使っての撮影は御遠慮ください」

駅員は肉声放送で新型車両をアピール。特別運行とあってか、乗車口は暫定的に緑のテープを貼付。駅の行先案内表示器を見ると、「7両」「8両」といった表示はない。2017年3月の"本格デビュー"までには整備されるだろう。

■多くの乗客が車内のドラえもんにチューモーク!

メディアお待ちかねの臨時南千住行きが到着。往路の臨時霞ケ関行きに比べると、乗客は若干少ないと思う。それでもロングシートはすべて埋まっていた。

A線のダイヤ乱れはB線にも及んでしまい、臨時南千住行きは定刻より6分遅れの10時03分に発車。乗車体験組は中間車に分散し、乗り心地などをチェックする。

往路の03系は、モーター未搭載の先頭8号車に乗車すると、隣の7号車の駆動音が響いていた。一方、全車電動車の13000系は至って静か。特に操舵台車は急曲線で車輪とレールの摩擦音を低減している。加えて、ANVC高音質ステレオ放送システムにより、車内放送はクリアな音声も相まって聞き取りやすい。スピーカーは乗降用ドアの上に設置されており、レールファンの一部はそこにマイクをあてて録音していた。実は車内の自動放送も03系と異なり、千代田線や有楽町線などと同じ仕様である。

「御乗車ありがとうございます。臨時列車南千住行きです。

お客様にお知らせいたします。ドア上の液晶モニター(左側LCD)ですが、本日より25日まで限定の映像となっております。どうぞお楽しみください」

築地を発車すると、車掌は左側LCDのデジタルサイネージを案内する。特別運行なので企業CMは放映せず、13000系の特長や新しい設備、クリスマスをモチーフとしたドラえもんの動画を組み合わせて紹介している。日本人は「限定」に心を動かされるようで、動画撮影する乗客もいた。

広告類はドラえもん一色!!

中吊り広告なども、『すすメトロ!』キャンペーンのキャラクターを務めるドラえもんが、日比谷線ラインカラーのシルバーで登場し、「まもなく、日比谷線に未来がまいります。」と13000系を宣伝する。無論、この広告を撮影した乗客も多く、偶然乗り合わせた鉄道に興味のない人でも楽しんでいる様子だ。

3画面LCDは銀座線1000系の一部にも装備された。

さて、13000系の旅客情報案内装置は、今や全国的に標準と化しているLCDで、既存車の2画面から3画面に変更された。左側は先述のデジタルサイネージ、中央と右側は次駅や出口、運行情報などを案内する。例えば東銀座に到着する場合、中央は階段及び改札、右側は乗り換え路線をそれぞれ案内している。このほか、4か国語表示なので、中央は日本語、右側は外国語に分けるなど、"わかりやすさの向上"を図った。

■明る過ぎず暗過ぎず

室内灯は今や鉄道車両の標準と化したLEDで、車内のまぶしさを軽減させるため、通勤形電車では珍しい間接照明とした。実際に乗ってみると、03系より明るさを抑えているが、光が純白なので暗い印象もなく、"明る過ぎず暗過ぎず"という絶妙なバランスだ。立っている位置、坐っている位置に室内灯が見えるので、"自分のいるところが一番明るい"と錯覚しそうだ。

透過式LED照明は"鉄道車両の未来を担う"存在となるか。

荷棚の江戸切子模様は透過式LED照明を内蔵し、着席した乗客の手元が暗くなり過ぎないように配慮している。立っているときは、それが浮かび上がって見えるので癒しの存在となるだろう。しかし、坐っているときは向かい側の模様が見づらい。後刻、車両部にきいたところ、室内灯を完全に消すと光って見えるという。

なお、透過式LED照明については試行錯誤を重ねている最中で、2016年8月の報道公開では暗めに設定していたが、今回の特別運行では光量を上げたという。今後も光量をさらに上げることも検討しているそうで、2017年3月のデビュー時はもっと明るくなっているかもしれない。

上野で空席が発生し、ようやくロングシートに坐る。坐り心地は少々硬い気がするものの、背もたれに厚みがあり、腰にやさしい。

三ノ輪を発車すると急勾配を登り、再び青空のもとへ。終点南千住到着は定刻より9分遅れの10時28分となった。車掌はダイヤ乱れについて一言も案内せず、"お客様に13000系を存分に楽しんでほしい"と配慮したのかもしれない。

【取材協力:東京地下鉄】

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