東京都立の葛西臨海水族園リニューアルをめぐり、市民らが「35年かけて作り上げた森を守りたい」と声をあげている。
このリニューアルでは、敷地内に新しい水族館を建設し、太陽光パネルを設置する。
それに伴い、多くの樹木が伐採・移植される予定で、市民から懸念が表明されてきた。
また、リニューアルでは樹木だけではなく、さまざまな生き物が暮らす人工の川などの水辺環境も失われる。葛西臨海水族園はどう変わるのか。
樹木は何本伐採される?
東京都によると、新しい水族園の計画敷地にある樹木1700本のうち、600本が伐採される。
内訳は、危険性があると判断された木や移植しても枯れる可能性が高い樹木が400本、外来種200本だ。
残り1100本のうち800本は移植で、現地保存されるのは300本。
移植の800本は、新たに水族館横に設けられる「共生の杜」に移動予定だという。
失われる「水辺の自然」
今回のリニューアルでは、樹木の伐採や移植に加えて、葛西臨海水族園の「水辺の自然」エリアが廃止される。
水辺の自然エリアは、自然が豊かだったころの東京の代表的な水辺を人工的に再現した場所で、「淡水生物館」と「流れ」「田んぼ」から構成されている。
淡水生物館は、オイカワやギンブナがいる「池沼」と、ヤマメ、ニッコウイワナなどが展示されている「渓流」の2つにわかれている。
施設は半屋外の造りになっており、来場者は人工の池や渓流で魚が泳ぐ様子を屋内から観察できる。
「流れ」は屋外に作られた人工河川だ。周辺にさまざまな植物が生い茂った川にはカワムツなどの魚が泳いでいるほか、水辺には昆虫や両生類などの多様な生き物が集まる。
しかし、リニューアルに伴ってこの場所に新しい水族館が建設され、水辺の自然エリアはすべて廃止される予定だ。
現在水辺の自然エリアに生息している生き物は、いったんバックヤードにある水槽に移し、新設する水族館で展示されることになっている。
また、水辺の自然エリアの横に広がる、芝生広場も無くなる。
都は、来園者が憩える場所として「共生の杜」を新たに整備するとしている。
「35年かけて育てた樹木を切るなんて」
葛西臨海水族園は、上野動物園100周年記念事業の一環として計画され、35年前の1989年に開園した。
「水族園」という名が示す通り、ガラスドームのある水族館だけではなく、園内にある樹木や川、田んぼ、そこで展示される生き物など、全体のランドスケープを楽しみながら、自然が体感できる「園」だ。
地元の江戸川区市民は5月12日に現地見学会を開催し、約120人が参加した。
葛西臨海水族園に開園翌年から3年勤務していた参加者の一人は、35年かけて育んできた森や水辺の環境を壊すのは問題だと語った。
「今、樹木は立派に育っていますが、開園当初はまだ若木で森のようではありませんでした。35年かけてこれだけ立派な森に育った樹木を切り、素晴らしい水辺の自然を壊すというのは考えられないことです」
また、東京都は800本を移植するとしているが、市民らは「移植は一見環境に配慮しているようだが、実際には森や川が破壊されて、植物や昆虫、野鳥のすみかが奪われる」と訴え、現在の森や川を残す形でのリニューアルを求めている。
都立の動物園や水族園は、「野生生物や生物多様性の保全」を取り組みの一つに掲げているが、今回のリニューアルはその理念に逆行するという声もある。地元市民は、集まった署名を陳情書とともに、東京都議会と江戸川区議会に提出した。
リニューアルに伴い、淡水生物館を含む「水辺の自然」エリアや芝生広場などは2024年5月19日を最後に利用できなくなる。
東京都は樹木の伐採時期について「まだ確定していない」としている。建設予定地の生き物の移動などの作業が終わった後に、伐採を始める予定だという。