東京23区で「最も燃えやすく壊れやすいエリア」に安全と安心を いつでも持ち歩ける「防災観光ふろしき」、NPOなどが制作

地域を拠点に防災意識の向上を狙う
防災観光ふろしき
防災観光ふろしき
Asahi

 関東大震災や東京大空襲による被災が少なかった墨田区。古い路地に、1階が工場、2階が住居という木造住宅が密集し、現在もあまり建て替えが進んでいない。そのため、東京23区の中でも「燃えやすく、壊れやすいエリア」と位置づけられている。

 そんな地域の防災意識向上に役立てたいと、地元のNPO法人などが協力してA-portでクラウドファンディングに取り組んでいるのが「防災観光ふろしきプロジェクト」だ。

地域を拠点に防災意識の向上を狙う

 風呂敷には、墨田区北部エリア(旧向島区)の防災マップと観光名所がプリントしてある。「風呂敷に避難場や避難ルートをプリントすることで、普段から防災を意識し、いざというときに役立ててもらいたいと考えました」とNPO法人「燃えない壊れないまち・すみだ支援隊」理事の土肥英生さん(58)は説明する。

曳舟にある「ふじのきさん家」では、地域の安全、福祉、コミュニティづくりなどをテーマにさまざまな活動が行われている
曳舟にある「ふじのきさん家」では、地域の安全、福祉、コミュニティづくりなどをテーマにさまざまな活動が行われている
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 「燃えない壊れないまち・すみだ支援隊」は、2013年にひきふね寄り合い処として、「ふじのきさん家」をオープン。防火・耐震化改修のモデルルームでもあるこの場所は、防災や福祉によるまちづくりの拠点として、地域住民や15の関連団体が集う。

「まちを安全にするために、地域のコミュニケーションをここで図りながら、防災力を高めていくのが狙いです」と土肥さん。

避難場所を知っているのは、たった3割

 防災観光ふろしきプロジェクトは、この「ふじのきさん家」に関わるメンバーで2017年3月からスタートした。芝浦工業大学の学生たちがつくる「すみだの'巣'づくりプロジェクト」やプロダクトデザイナーなどが中心となり、同年10月からは十数名で本格的に進めてきた。

 メンバーの1人、石井亮介さん(25)は芝浦工業大学大学院2年生。学生ボランティアとして、この地域での防災遠足や防災マップ作り、子どもの防災教育などを手がけてきた。

 2016年から年1回のペースで実施している防災遠足は、防災マップを手に、地域の避難場所や危険な場所を確認しながら、避難経路を実際に歩く。途中には、この地域特有の雨水を貯めた防災用の井戸「路地尊」などもある。2016年は46名、17年は64名が参加した。地域住民を中心に高齢者、主婦、小学生〜大学生、福祉・医療関係者など多彩なメンバーが参加。中には杖やベビーカーを使用している人もいたという。

防災遠足では地域特有の「路地尊」の使い方も紹介
防災遠足では地域特有の「路地尊」の使い方も紹介
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 これらの活動の中で、参加者に防災マップの話をしても、「避難場所を知らない」「ケガをしたときに手当してもらえる場所がわからない」という声が多かった。「せっかく防災マップを配っても、なかなか見てもらえないものだな、というのが実感でした」(石井さん)。

 2017年7~9月にイベントなどで地域住民を対象に行ったアンケートでは、避難場所を知っているのは390人中、約30%にとどまったという。

普段使いの風呂敷で、防災意識を高める工夫

 そこで思いついたのが、風呂敷に防災マップをプリントするというアイデアだ。風呂敷ならいつでも持ち歩けるし、物を包むなど実用性が高い。布一枚でできるので、制作の手間が少ないのもメリットだった。

防災ずきんなどを手がけた経験があるプロダクトデザイナーの大鋸幸絵さん(36)が中心となり、風呂敷を作成。写真は試作品の一部
防災ずきんなどを手がけた経験があるプロダクトデザイナーの大鋸幸絵さん(36)が中心となり、風呂敷を作成。写真は試作品の一部
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 アイデアを形にしていく中で、単なる防災マップの風呂敷では面白みが足りないと、地域の観光スポットも加えることに。この地域は、作家・永井荷風に縁があり、花街としての歴史もある。マップには文学碑などの観光スポットを加え、北斎の浮世絵をあしらってデザイン性も意識した。

 「ぱっと広げてみた時に、見た人の顔がほころぶような風呂敷にしたかった。デザインが華やかだと、地図を見ながら歩いても楽しい気分になれると思います」と土肥さんは語る。

浮世絵のイラストなど遊びのあるデザインが、日常使いをしてもらうポイントに
浮世絵のイラストなど遊びのあるデザインが、日常使いをしてもらうポイントに
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小学生200人に配布。子どものうちから防災を身近に

 風呂敷は素材別に難燃性と超撥水性(防水性)の2種類。防水性の風呂敷は、いざという時に端を結ぶことで小さなバケツ替わりにもなる。素材の特性にもよるが、ハンカチやお弁当包み、バンダナにするなど、使い方はアイデア次第。

ものを包むなどの普段使いはもちろん、災害で怪我をしたときは手当にも使える
ものを包むなどの普段使いはもちろん、災害で怪我をしたときは手当にも使える
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 制作過程で苦労しているのは、掲載する情報の取捨選択。情報が多すぎると見づらくなるので、最終版に向けて検討中だ。また、風呂敷に掲載する情報は、墨田区と連携して、ホームページなどでアップデートを図っていくつもりだ。

 地元の人たちにサンプルを見せたところ、特にママ世代から高い評価を得ているという。クラウドファウンディング成立後は300枚制作し、地域の小学校3校の小学5年生約200名に配布する予定だ。ランドセルに防災観光ふろしきを入れておけば、登下校中のもしもの災害時でも役立つだろう。

 生活の中に自然と溶け込む防災観光ふろしきが、まちの安全を考える地域の意識を変えてくれる存在になりそうだ。

 プロジェクトの詳細は、https://a-port.asahi.com/projects/bousaihuroshiki/。(工藤千秋)

左から、防災観光ふろしきプロジェクトメンバーの石井さん、芝浦工業大2年の渡部雄貴さん、土肥さん
左から、防災観光ふろしきプロジェクトメンバーの石井さん、芝浦工業大2年の渡部雄貴さん、土肥さん
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