「徳島新聞」を発行する一般社団法人「徳島新聞社」(徳島市)の労働組合は3月13日、記者会見を開き、経営側にストライキ実施の通告をおこなったと発表した。通告は12日付。
経営側が、編集・総務部門を分社化し、2025年春の採用から給与水準を大幅に抑えるなどの計画を提案したことがきっかけ。
計画が撤回されなければ、組合員(総数約120人)によるストライキを14日午後2時から2時間の予定で行う。全面ストライキの実施は、同組合では1995年3月の春闘以来29年ぶりとなる。
経緯を振り返る
労組「全徳島新聞労働組合」(全徳島労組)によると、経営側は2023年11月に別会社「株式会社徳島新聞社」を設立登記。
経営側は11月中旬に開かれた事前協議の場で、24年4月に編集部門を分社化し、今後は現在の社団での新規採用を行わない方針を示した。
現時点で在籍する職員の待遇は変わらないとしたが、25年春以降に採用する職員の給与水準は現在の65%程度にすることも明らかにした。
総務部門についても別会社化する構想があり、「株式会社徳島新聞ビジネス」という新会社を設立する方向で動いているという。
一方、この計画に若手有志が反発。「同じ仕事をするのに後輩だけ給料が低いのは納得できない」などと、総務局長に意見書を提出した。
全徳島労組もストライキ権をもってこれまで3回の団体交渉に臨んだが、経営側は「給与水準を65%から75%にする」と言うにとどめ、計画の撤回には応じなかった。
3月11日に開かれた3回目の団交では、経営側は「これ以上やっても平行線」と一方的に話を打ち切り、引き止めようとする声に反応することなく退席したという。
「逆に採用難や離職につながる」
3月13日に会見した全徳島労組の阿部司委員長は、経営側が分社化などの計画の理由を「地域報道の持続可能性のため」「徳島をニュース砂漠にしないため」と説明した経緯について触れ、「逆に若手の離職や採用難につながる。若手が会社の未来を考えて声を上げている現状を重く受け止めてほしい」と述べた。
ストライキについても、「経営的に分社化を考えている新聞社が全国にあるかもしれない。我々が分社化を安易に受け入れてしまうと、日本のメディア全体を揺るがす問題になりかねない」と説明した。
会見に出席した日本新聞労働組合連合(新聞労連)の石川昌義・中央執行委員長は、今年の春闘では組合要求を上回るベースアップを回答したり、若手のベースアップに目を向けたりするメディアも多かったと語り、「産業として生き残るためには人に投資すべきだが、その時代の流れと逆行している。次世代を搾取しないでほしい」と指摘した。
徳島新聞社の財務状況は?
では、徳島新聞社の財務状況はどのようになっているのだろうか。
新聞労連が調査したところ、新聞の発行部数が減る中で売上高は減少しており、1996年の約140億円から2023年は76億円(3月末決算時点)になった。
ただ、76億円のうち9億円が当期純利益で、利益率は11.8%。新聞労連が持つデータでは、現在の新聞業界の平均が2〜3%のため、徳島新聞社の経営は「日本の新聞社の中では優秀」という。
内部留保も潤沢で、自己資本比率も新聞業界の平均より高かったが、徳島新聞の経営側は「このままいけば15年で新聞発行ができなくなる」と説明していた。労組側が団体交渉の中で試算方法を聞いていくと、正確には「収益・費用面でなんの努力もしなければ」という前提だったという。
新聞労連の担当者は、「決して悪いとは言えない財務状況の中で、なぜ人件費を削り、組合と協議しないで急いで計画を進めようとしているのかがわからない。収益や費用面で全く努力しないことはあり得ないので、『15年で新聞発行ができなくなる』という説明は適切ではない」と語った。