リーダー層に女性を増やす取り組みが、多くの企業で進んでいる。
しかし、厚生労働省によると課長相当職以上の管理職に占める女性の割合は12.7%。女性の活躍推進やジェンダー格差の是正、より多様なキャリアを実現する組織作りに向けて、さまざまなアプローチが求められている。
そうした中、「シスターフッド」というキーワードを軸に、現役の女性取締役や管理職のネットワーク構築、先輩リーダーたちによる新たなリーダーの育成や輩出を後押しするプロジェクト「Toget-HER」は国際女性デー直後の3月10日、Deloitte Tohmatsu Innovation Parkで特別イベントを開催。
「地方と都市を『つなぐ』私たちの新しい働き方」をテーマに、多様な領域で「つなぐ」を実践する女性たちが一堂に会し、働き方の現在地と未来を考えた。
誰と、どこと、何と、どのようにつながるか

イベント冒頭では、衆議院議員の上川陽子さんが登壇。2023年9月から2024年10月までの外務大臣としての経験談を交えながら、外交の視点から「つなぐ」について語った。
上川さんは「1人では生きていけないのが社会です。誰とつながるか、どことつながるか、何とつながるか。つながり方にはたくさんの可能性があります。『あの人のつながり方を私も』というつながり方に限らず、自分自身の新たなつながり方も開発していくことで、新しい何かが生まれてくるのではないかと思います」と話した。
また、任期中の印象に残っている経験の1つとして、ナイジェリアでの20代の日本人女性起業家との出会いについて話した。上川さんは、当時を振り返り「彼女は『今の日本は帰りたい場所ではありません。でもいつか、自分が年齢を重ねたときに、帰りたいと思える国にしてほしい』と私に言いました。日本には多くの課題があり、それらは『困った問題』として語られ続けています。しかし『困った』と言ったとたんに行動は止まるように思います」と語った。
さらに「『未来に向けて何をすべきか』という前向きなメッセージを持たなければ、未来を切り開く力にはなりません」とメッセージを送った。
都市と地方の「越境」から、未来を切り開く
イベントでは、2つのトークセッションを実施。1つ目のセッションのテーマは「地方と都市を結ぶ働き方」。ITや金融、人事コンサルタントなどの領域で活躍するゲスト4人が登壇し、それぞれのキャリアをもとに本テーマに関する日本の現状や未来を語った。ファシリテーターは、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社パートナー/サステナビリティアドバイザリー統括 大塚泰子さんが務めた。

全国約20地域の地方企業と都市部の企業を対象に「越境研修」を実施するDialogue for Everyone 代表取締役の大桃綾子さんは、地方と都市をつなぐ上で、両者を「行き来すること」を大切にしているという。
大桃さんは「安心できるが刺激がない環境(ホーム)と刺激はあるが居心地が悪い環境(アウェイ)を行き来する中で、企業やビジネスパーソンが得られることがたくさんあります。研修ではお互いに見知らぬ者同士なので『居心地の悪さ』のある状態でスタートしますが、互いに培ったノウハウや成功事例などを学び合う機会にもなります」と話す。
さらに大桃さんは「地方企業の方々は、地域との良好な関係性がないと事業が成り立たないことを骨の髄までわかっています。都市部で大きな企業にいると、つい企業視点に偏りがちですが、こうした『社会視点』を持つ地方企業の在り方に日本の豊かさの源泉を感じます」と続けた。都市部にいながら、そうした「源泉」に触れられることも「越境」の良さだという。
一方、縦割りの組織や社会に「横串」を通し、境界を越えて新結合を生み出す事業を展開するYokogushist 代表取締役の伊能美和子さんは、定年後のセカンドキャリアとして地方での起業を選んだという。
伊能さんは「男女雇用機会均等法の制定から今年で40年。第一世代の多くが今年、定年を迎えますが、実際には『まだまだ働きたい』と元気な人が多い時代です」と話し、社内にも地方という選択肢を導入することで、若い世代はもちろん、定年後の再雇用によるセカンドキャリアの選択肢も増えるのでは、と問いかけた。
出会いや機会によって、地方の女性は花開く

セッションでは、地方に住む女性の活躍にも光が当てられた。
広島県にIターン(生まれ育った地域以外の地域に就職や移住すること)したという、ひろぎんホールディングス執行役員の木下麻子さんは、東京で大手人材派遣会社の管理職を務めた後、広島で契約社員としてのキャリアを開始した。当時を振り返り「地方の方々が女性活躍に閉鎖的なのではなく、単純に『(女性活躍の推進方法が)わからない』状況にあるのだと感じました」と話した。
その原因の1つが、都心と地方の生活コストの差だという。木下さんは「東京では生活コストが高いので夫と共働きでガツガツと働いていましたが、広島では生活コストが小さくなり、二馬力が必要なくなりました。そうすると周囲は『無理して働く必要ないよ』『子どもがいるんだから帰っていいよ』と気を遣ってくれて、優しさの反面で、実は女性がキャリアを築く機会を削ぐことにもなっています。当時、私が『夫がお迎えに行く日なので大丈夫です』『私も経営会議に出席したいです』と発言すると、周囲はとても驚いていましたね」と話した。
日本IBM取締役執行役員の井上裕美さんは、コロナ禍によるリモートワークの推進が社内にもたらした変化について説明。同社は全国に8つの地域DXセンターを持ち、組織規模でフルリモートの働き方を実践している。ITはコロナ禍以前からリモートワークがしやすい業種だったが、当時は外部やクライアントからの理解を得るハードルが高く、選択肢としては現実的ではなかったという。
また、リモートワークの浸透により、地方に住む女性の新卒採用や中途採用が進んだことに加え、既に働いている従業員が社内異動をするきっかけにもなったという。井上さんは「首都圏に行かなくても目の前に雇用があることはもちろん、例えば、パートナーの赴任によって引っ越すことになったとしても、弊社は拠点が多いため、引越し先でもどこかのセンターに当たり、そこに拠点を移すことでキャリアをつなげるようになりました。また『介護のために地元に帰りたいけど、首都圏にいた方が働く上で機会を獲得しやすい』と踏みとどまっていた層が社内異動を選べたり、海外から移住してくる従業員が東京以外の場所を選べたりと、メリットは多くあります」と話した。
パネルディスカッションの最後に、木下さんは「地方にも働きたい女性はいます。そうした女性が上手く活躍できていない現状は、少子化の現代社会においてクリティカルな課題です。私は都市から広島に移住したからこそ(それまでに培った価値観を持って)キャリアを築くことができました。この場にいる多くの方にも、ぜひ地方に関わっていただきたいです。(都市で働いている)あなたのあたりまえは地方のあたりまえではないかもしれません。出会いや機会によって、地方の女性は花開きます」とコメントし、セッションは幕を下ろした。
見たことがなければ、「なりたい」と思えない
続いて実施されたトークセッションのテーマは「地方の今とこれから~地方活性に向けた取り組み~」。地方在住の女性の働き方にインパクトをもたらしてきた登壇者たちが、それぞれの取り組みや今後の展望を語った。ファシリテーターは、引き続き大塚さんが務めた。

地方や中小企業で働く女性の就労支援やキャリア形成支援、女性起業家の支援などを行なっているWill Lab 代表取締役の小安美和さんは、地方の人口減少や女性流出の背景には、性別分担意識やアンコンシャスバイアス、特に中小企業で根強く残っているハラスメントなどから成るジェンダーギャップがあると話す。
小安さんは、自身がコメンテーターを務めたテレビ番組を例に出し「その番組では、地方の女性の生きづらさについて取り上げていました。すると視聴者からの反響が予想以上に大きく、同局の別番組では2回に分けて特集されたほどです。視聴者から寄せられた意見の中には『東京が令和なら地方は江戸時代です』というものもありました」と話した。
こうした現状について小安さんは、「制度や仕組みが変わらないと、人の意識だけを変えることは難しいです。首都圏では男女格差を是正する良いプレッシャーがありますが、地方は(多くの場合)そうではありません。そこで定量化したデータを共有して『取り組まないと女性や若者が帰ってきてくれませんよ』と伝えることで、互いに歩み寄っています」と説明。また、企業だけで地域を変えていくことは難しいため、自治会をはじめとした多様なステークホルダーとの連携も重視しているという。
一方で、地域の女性たちがつながって、内側から大きなムーブメントを起こした事例も増えつつある。元岡山県議会議員で環太平洋大学特任准教授の山本満理子さんは、多様な分野の女性有志による任意団体「Women’s Empowerment Project in Okayama」の事例を紹介した。
山本さんは「手弁当の団体にもかかわらず、先日のフォーラムには岡山大学の学長や知事をはじめ、約160人が集まりました。テレビ局も全局来ていて、女性たちの『岡山を変えてくぞ』という強い意思が生んだ結果に感動しました」と話し、女性の連帯やネットワークの醸成の重要性について共有した。
地方に特化した学びの場を提供するコミュニティであるローカル大学代表取締役の宮嶋那帆さんは、活動拠点である松山に、女性を含む専門領域で活躍する人などを都心から呼び込むアプローチを実施している。
経営者向けの講座を毎月開催しており、コミュニティには地元企業を後継する若い経営者が多く参加しているという。宮嶋さんは「地方の経営者は都心で活躍している人に対して、負い目を感じてしまうことも多々あります。しかし、実際に言葉を交わしてみると『意外と自分たちでもできることがあるんだ』という発見があり、つながることの可能性をこの目で見てきました」と話した。
コミュニティに参加している女性の中には、かつて父親に「うちの跡取りになってくれる旦那を見つけてきてくれ」と言われてたが、講義を通じて「自分が後継者として十分なら、それでいいんだ」と発想の転換を体験した人もいるという。宮嶋さんは「その後、彼女は積極的に勉強をして、父親に話して会議にも混ぜてもらって、着々と地位を確立しています。女性の経営者やロールモデルがいることの大切さを再確認する出来事でした」と話し、会場の女性たちにもリプレゼンテーションの促進を呼びかけた。
この話を受けて、小安さんは「人は見たことがないものになりたいと思わないので、見える化を続けていきたいですね。女性でも社長やリーダーになれる、目指していい、という認識を広げていきましょう」と賛同の声を寄せた。

パネルディスカッションを終えて、大塚さんは「地方と都市をつなぐためのアプローチ方法に、1つの正解はありません。本日の登壇者の方々の取り組みをはじめ、多様な成功例も既にあります。一発ですべて上手くいくというのはどう頑張ってもありえないので、手を替え品を替え、つながりを持ってやって皆さんと頑張っていければと思います」とコメントし、イベントを締め括った。