過ごしている時間のほとんどが苦しい
私は前職のローソンでは社長と会長をつとめ、2014年からは、グループ全体で約38000人を率いるサントリーホールディングスの社長になりました。
経営トップとして走り続けていますが、過ごしている時間のほとんどが苦しいと感じるぐらい大変な仕事です。
ただ、忙しい毎日の中でも、私も何とか時間を作り出そうと意識しています。
サントリーは、売り上げの約4割が海外事業です。2014年5月には、米蒸溜酒大手の「ビーム社」を1兆6000億円で買収しました。規模を大きくすることではなく、統合することで新たな付加価値を生むことが重要です。
同社と17年に共同開発したジャパニーズクラフトジン「ROKU」は、本場とされるイギリスをはじめ、ドイツやシンガポールなどで販売しています。販売状況も非常に好調で、統合効果が表れた成功例のひとつと言えるでしょう。
深夜まで、毎日大量の英文レポートを読みます
日本発のお酒を海外で受け入れてもらうのは至難の技ですよ。世界経済の動向から、現地の消費者の趣味嗜好まで把握しないと、手にとってもらえません。
日本の酒類・飲料メーカーは、かつては国内マーケットを中心に展開していましたが、人口減少で今後の国内市場の大きな伸びは期待できず、急速なグローバル化が進んでいます。我々も海外への展開が不可欠です。
そのため、私も英語漬けです。毎日大量の英文レポートを読んでいます。英字新聞も自宅に届きます。夜9時半ごろに、自宅へ戻っても読むべき資料や書類があふれ、読み終わるのが深夜0時近くになることもあります。
経営者はいつも不安を抱えているもの。どれだけ勉強をしても、仕事をいくらこなしても、不安が拭えない。焦れば焦るほど、もっと世界のことを頭に叩き込んで思考を重ねて、次の一手を打たないといけないと感じます。
経営とは別に、世界の有識者が集まって地球規模の課題を話し合う、スイスのダボス会議にも参加しますし、政府の経済財政諮問会議の議員をつとめているので、日本の医療費の抑制策など政策の勉強もします。
平日は経営に集中し、土日の半分の時間を政策の勉強にあてていますね。それに、自宅では、英語が堪能な妻と会話をして英語力を磨いています。
ハーバード留学時代は「血尿が出るほどでした」
振り返って見ると、私の人生は、時間を極限まで使い、「自分を追い込む」ことの連続でした。中学生の時はバスケットボールの練習があったので、午後8時に寝て、午前4時に起きて、朝から勉強して高校受験しました。
大学を卒業して、三菱商事に入り、1989年には社内奨学金制度を活用してハーバード・ビジネススクールに留学しました。
ハーバード・ビジネススクールは1クラス90人。下位成績者の10%は放校の恐れもあるので、授業の他に1 週間に6日、1日9時間は勉強する必要がありました。朝は午前6時に起きて、午前8時までクラスメートとの勉強会をこなしました。
夜も、深夜 2 時ころまで勉強してから寝る生活でしたね。睡眠時間は平均して、3 時間ほどでしょうか。
授業中に発言することも成績にカウントされます。手を挙げても挙げても、指名してもらえない時は、終わった後で担当教官に会いに行き、「もっと 私を指してください」と直談判しました。 体調不良で血尿が出るほどでした。
詰め込みで勉強をし過ぎて、1週間が終わる週末には何も考えられなくなりました。今も似ていますね。経営者は常に大量のインプットをしながら、動き回ってテンションを高く保たないといけません。
クラブで踊ってますよ、ストレス解消のため
自分に与えられた時間を極限まで使い切って走り抜けてきましたが、日本全体で働き方改革が進む中、トップが率先して"休む"必要もあります。サントリーは「健康経営」を掲げていますしね。
ですから私も自らがお手本を示さないといけないと思い、夏休みと年末には必ず休みをしっかり取っています。
私は、もうすぐ60歳ですから、体も無理が効かなくなってくるでしょう。週2回、2時間くらいジムで運動をしています。その間は仕事のことを完全に忘れられるんです。
プロがメニューを作ったハードなトレーニングをこなす。体を動かすことで、仕事とプライベートを完全に切り分けられます。
ふと気を抜く時間を作ることもしています。お酒を飲んでいる時ですね。幹部や社員とワイガヤで本音の話をする。
職場の仲間との飲み会だと、仕事の延長と思われるかもしれないけど、お互いに明るい雰囲気で語り合えるから、私にとっては、常にテンションを保っている時間とは全く違う、リラックスできる時間なのです。
ダボス会議のようなときも、全てが終わって社員とスイスのバーで飲むのが何よりの楽しみです。たまにストレスを解消するため、クラブで踊るときもありますよ。
1人でバーに行く時もあります
完全に仕事から離れて、1人でバーに行く時もあります。仕事の接点がない人たちと語り合うことが、自分にとって非常に大切な時間になっています。
自宅やオフィスから離れて、あえて"時間"を作ることはリラックスするためでもありますし、ビジネスを成功させるために「現場」を知るためでもありますね。
ウイスキーの「ビーム社」のような大きな会社との統合は、トップがコミットしないと成功しません。私も海外出張の際には、現地のバーにできる限り足を運び、現場を見てビームサントリー社の幹部とディスカッションできるようにしています。
お酒は、現地の風土が味や香りに影響するので、愛着がわくものです。現場に行かないと絶対わかりません。
今、アメリカやイギリスでは、ミレニアル世代の間でビールやバーボン、ジンのクラフト需要が高まっています。こだわりのお酒への関心が高いのです。こうしたことも、現地に行って感じる部分がかなりあります。
日本に閉じこもっていてはダメです
今世界は激変期にあります。AIでどんな未来が生まれるのか。世界でどんなイノベーションが起きているのか。最先端の技術革新に触れて、新しい知識を身につけることで、人間力を大きくする。世界の政治や社会がどう動いているのか、異業種のビジネスモデルのどこが優れているのか、そういう勉強をすることも大切です。
僕は1年で世界を25周するほど海外を飛び回っていますし、キャピトルヒル(アメリカの首都ワシントンの一地区で、政治関係者が多数集まることで知られる)も年3回ぐらい行きます。
また、音楽や美術に触れて豊かな心を育んだり、歴史を振り返って偉人たちの決断に触れることも経営判断に響いてくる。
そのためには自宅やオフィス、ましてや日本に閉じこもっていてはダメです。若い人も、どんどん海外の現場に飛び出さないといけない。
健康を保つためにも、仕事の生産性を上げるためにも、そして未来を見据えるためにも、自分の生活をコントロールして、「未来に投資する」時間を確保することがより一層求められている時代なのではないでしょうか。
「未来に投資する」ため、新浪社長が多忙な日々から作り出す「アタラシイ時間」。
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