オンラインで買い物するのが当たり前の時代です。メルカリなどでは、ユーザー同士の売り買いも非常に活発。多くの賃料と人件費が必要なリアル店舗はもういらないのでは、と考えることもできます。
マザーハウス代表兼チーフデザイナーの山口絵理子さんも、「オンラインショップと、リアル店舗が1つあれば十分じゃない?」と考えていた頃がありました。
ある時まではーー。
今では全国に38の直営店をかまえるまでになったマザーハウスの大事なターニングポイントとなった「百貨店進出」。その葛藤とブレークスルーに迫ります。
ハフポストブックスから刊行された『ThirdWay 第3の道のつくり方』 (ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)の内容を再編集して、山口さんが実践するThirdWay(サードウェイ)の極意を伝える全13回連載。第4回は、マザーハウスの転機になった百貨店進出の裏側についてお届けします。
リアル店舗ひとつで十分?
マザーハウスの店舗第1号を構えた場所は、東京でも下町の雰囲気漂う入谷。私達らしい色が出せる「土俵」として、非常に気に入っていた。
こうしたリアル店舗一つとオンラインの環境さえあれば、マザーハウスは十分じゃない?
そんな風に思っていたこともある。
私たちの世界観をわかってくれるファンも少しずつ増えてきて、わざわざ足を運んでくれる人もたくさんいた。
インターネット通販が勢いを増していたころ。「ビジネスはミニマムに」というコンセプトが流行っていたということもあり、私は「このままでいい」とも、思っていた。ビジネスを大きくする意味も正直わからなかった。
「いや、そうじゃない」と反対したのは、副社長の山崎だった。
「世界に通用するブランドを本気で目指すのなら、百貨店で挑戦すべきでしょう」
今なら分かる副社長の指摘
彼の指摘はもっともだったけれど、私はまだ半信半疑だった。
周りにライバル店がなく、「比較されない環境」に身を置きながら、ぬるま湯に浸かっていたんだって、今ならわかる。
実際に小田急百貨店新宿店のかなりいい場所に「初の百貨店内店舗」として4号店を構えたときには、まさに冷水を浴びせられる思いがした。
隣りにある他のブランドの店と比べて、なんと店装が未熟か。レジのオペレーションも遅すぎる…。
その差は歴然。お客様は正直なのだ。
ハイレベルなステージに並んだ途端、「完敗」だった。
売り方だけじゃない。商品の力も完全に負けていた。デザインも、縫製も、価格も、全然足りない!
何を変えるべきか、一つひとつ見直しせざるを得なかった。
「負けを認めること」から、私たちは何度も学び、成長してきた。
「どの土俵で戦うか」を間違えない
さらに大事なのは、「戦う土俵の選択」だ。
これは、強調しすぎても、足りないぐらい「とっても大事なこと」。一歩間違えると、「がんばっても報われない」現象を生むからだ。
「適切なる競争の舞台を探すこと」は大事なのことだけど、あまり意識されない。それを私たちが意識してなかったとしたら、数年間は工場のがんばりは報われなかっただろうと思う。
「今自分がいる舞台の選定・設定は、本当に正しい?」。コンフォートゾーン(安全地帯)から飛び出して競争現場に出ていくことは、自らの学習機会を得ることと同義だ。そんな風に最近は思っている。
山口絵理子さんの著書名「Thirdway(第3の道)」というメッセージは、ハフポスト日本版が大切にしてきた理念と大変よく似ています。
これまで私たちは様々な人、企業、団体、世の中の出来事を取材してきました。多くの場合、そこには「対立」や「迷い」がありました。両方の立場や、いくつかの可能性を取材しつつ、どちらかに偏るわけでもなく、中途半端に妥協するわけでもなく、本気になって「新しい答え(道)」を探す。時には取材先の方と一緒に考えてきました。
ハフポストは「#私のThirdWay」という企画で、第3の道を歩もうとしている人や企業を取材します。ときどき本の抜粋を紹介したり、読者から寄せられた感想を掲載したりします。