自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させる「ネイチャー・ポジティブ」。その実現に向けて、様々な企業で取り組みが実施されている。
旭化成ホームズ、積水ハウス、大和ハウス工業が共に着目しているのが「在来樹種に着目した都市緑化」だ。
3社はシンク・ネイチャーの分析のもと、共に生物多様性保全効果のシナジー(※)を実証しており、その業績が高い評価を獲得している。生物多様性保全活動において、住宅メーカー間での協働評価は初となる。
3社の首都圏(東京・埼玉・千葉・神奈川)を対象とした取り組みの概要を紹介する。
※ 複数の要素が組み合わさって、単独では生み出せないような大きな効果や価値を生み出す現象
3社が異なる角度から「在来樹種に着目した都市緑化」にアプローチ
実証では、3社がそれぞれに異なるコンセプトに沿って緑化活動に取り組んでおり、旭化成ホームズでは様々な高さの樹木(階層構造)を植栽し都市に小さな森を創出する「まちもり」、積水ハウスでは在来樹種を中心に植栽する「5本の樹」計画、大和ハウス工業では様々な用途の不動産に50%以上の在来種を植栽する「みどりをつなごう!」を掲げている。
今回の分析で、3社が各取り組みを通してそれぞれ異なる様々な樹種を植えてきたことで、個社単位に比べ、生物多様性の豊かさが向上したことが分かったという。
3社が植栽した樹木について、種ごとの個体数を検証したところ、年間で約350種43万本におよび、最も種数の多かった個社よりも約10%種数が多い結果となった。
さらに、種数の多さや種の均等性の高さを示す「個体数に関する種の順位曲線」に表現したところ、個社ごとのグラフよりも3社統合したグラフの傾きが比較的緩やかな結果となった。様々な種が共存して植栽樹種の多様性が豊かなことが明示されている。
ネイチャー・ポジティブの実現に向けて
分析では、生物多様性の多面的な要素を補完し合う実証について「ネイチャー・ポジティブの実現に効果的につながる」として科学的な意義が評価されている。
琉球大学理学部の教授でシンク・ネイチャーCEOの久保田康裕さんは分析を総括して「複数企業の植栽事業のネイチャー・ポジティブ効果を可視化することが社会的シグナルとなりうる、世界で初めてのケースだろう」と語った。
さらに「さらなる企業を巻き込んだ集団的アクションが促され『昆明・モントリオール生物多様性枠組』(2022年12月に採択された生物多様性に関する世界目標)のターゲット12『都市の緑地親水空間の確保』へ寄与することを期待したい」「不動産住宅建設ビジネスにおいて、生物多様性が新たな価値基準となり、アーバンネイチャーポジティブの文脈で、業界全体として高付加価値される状況、新たなビジネス機会の創出を期待したい」とコメント。ネイチャー・ポジティブの実現に向けた3社の取り組みに、今後も注目が集まりそうだ。