持続可能なビジネス:倫理基準と収益が合致するために必要なもの【The B-Team】

成功には勇気あるリーダーシップが求められる。新しい働き方とビジネスモデルの構築の先駆者となり、先頭に立って前進する覚悟のある企業が多く必要だ。そうする中で、企業はビジネスで信頼を勝ち取り、そして多くの利益も出せると私は確信している。「The B Team」はこの計画を加速し、最大限の効果をあげるためにビジネスリーダーたちが集まったものである。

イギリスの宰相ウィンストン・チャーチルはこんな名言を残している。「民主主義は最悪の政治体制である。ただし、これまで試行されてきたすべての政治体制を除いて」。同じことが資本主義にも言える。特に過去20年間にわたって行なわれてきた資本主義の形態がそうだ。

この形態の資本主義はもちろん長所もある。過去およそ50年間、資本主義は次のようなことに貢献してきた。5億人近い人々を貧困から救い出し、保健と医療制度を改革し、そしてデジタル技術を創造し、いたるところで人々の生活を変えつつある。

しかし、近代資本主義は結果として、同時に個人と政府レベルの両方で極端な富裕層と膨大な借金を生み、何ら社会的価値のない金融商品を作り出し、少ない物的資源、天然資源を持続不可能なくらい消費し尽くしてきた。

しかしながら、資本主義に代わる方法はすべて試され、そのすべてに欠陥が見つかった。なかには、共産主義のように、破滅的な欠陥が見つかったものもあった。

資本主義にしても欠点はあるが、他に選択の余地はない。現在の世代のリーダーたちが直面している課題は、資本主義の下で改善を進め、強化し、そしてその弱点を消し去ることである。

課題を具体的にいえば、エネルギー、企業活動、創造力を持続させることである。それらは資本主義を最良の状態へと形づけるものだ。同時に、他の破滅をもたらすような要素を排除するのも課題となる。もし、この資本主義のシステムから除外されている、そして資本主義の恩恵に授かっていないと感じる人があまりに多いとすれば、彼らは最終的に資本主義への反抗者となる。こうした動きは感傷的なものでしかない。もちろん、その動機は理解できるが、辻褄の合わない怒りでしかない。世界的な規模となった運動、たとえばアラブの春、マドリードの「怒れる人々」運動(※1)、そしてオキュパイ・ウォール・ストリート(ウォール・ストリートを占拠せよ)などがこれにあたる。残念ながら富の不均衡を表すジニ係数(※2)は多くの場所で増大しており、いまや中国はアメリカを追い越している。

思うに、2008年9月の金融危機(リーマン・ショック)は、倫理と道徳の欠如が表面化したものだった。とりわけ金融部門のモラルハザードは顕著であった。金融規制や犯罪といった側面以上にそちらの側面が強い。もちろん、規制することによって学ぶべき教訓はあるが、本質は、我々が包括的な道徳上の道筋を失っていたことである。あまりにも多くの人間が、公益よりも自己の利益を優先した。

あらゆる人間が、「よりよく生きたい」ではなく、「もっと富を持ちたい」になってしまった。

結局、資本主義の欠点を克服するためには我々はふたつのことをしなければならない。ひとつは長期的視野に立つことで、もうひとつはビジネスの優先順位を見直すことである。

現代ビジネスの特長である短期主義(※3)はマッキンゼー・アンド・カンパニー社のドミニク・バートンによる「四半期資本主義」や、トロント大学ロットマン・スクール・マネジメント学長のロジャー・マーティンが著書『Fixing the game』で表現している「予測式経営」で説明されてきた。

これは際限のない仕事だ。パブリック・カンパニー(※4)のリーダーなら誰しもが自覚しているだろう。90日ごとに投資家へ報告義務を課されたら、彼らの行動や優先順位は歪んだものになる。多国籍複合企業が四半期ごとに詳細な収益報告書を作るために莫大な時間を費やすなんて馬鹿馬鹿しいことだ。ビジネスの他の面でこういった短期間の処理でマネジメントしているものはない。研究開発、設備投資計画、売買約定、そして広告宣伝さえそんなことはしていない。なぜ財務報告だけそうなのか? ビジネスのマネジメントと比較して常に指針を与え、こうした見込みを実行していくことも同じく手間がかかる。

ビジネスの優先順位も課題である。1980年代以降、我々は株主を祭壇に据えて崇めてきた。これは、ビジネスの主目的は投資家に対して株主利益を最大限にする、という「教義」のようなものである。

ユニリーバ社ではこの両方の指針に取り組んできた。我々は四半期ごとの報告も、指針も廃止した。我々はまた以下のことを明確にした。我々の究極の目的は消費者と顧客の要求を満足させることであり、我々がビジネスを行なっている地域からの要望に応えることである。私はこれらのことがうまくできれば、株主に対しても大きな利益配分ができるものと確信している。そして現在に至るまで失望をしたこともないし、困難な経済情勢にあっても堅実に経営してきた。

21世紀における最大の課題は、70億の人々により良い生活基盤を提供することである。そのためには地球の天然資源を枯渇させたり、膨大な公的債務を積み上げたりすることのないようにしなければならない。このことを達成するには、政府も業界も一緒に新しい成長のモデルを作り出す必要があり、環境と経済、両方のバランスをとることである。同様に新しいリーダーシップも求められる。

地球温暖化が進み天然資源も枯渇するなか、ビジネスはどんな役割を果たすべきなのか決めなければならない。政府が行動するのを横でただ座って待つのか、それともピッチに入ってこれらの問題を取り組み始めるのか? もし我々がこのまま、主要な資源である水や食料、土地あるいはエネルギーについて長期的な持続策なしに消費を続ければ、我々の中で誰も繁栄することはできないだろう。

もしビジネスが社会の信頼を再び得たいなら、大きな社会的、環境の課題に取り組まないといけない。それらの問題は人間性と対極している。政府がますます短くなる選挙サイクルに嵌り、相互依存が進む世界で、地球規模の課題を感じ取りその対応に苦労している時期には特に必要である。私は何度も述べていることがある。「ビジネスはそれに命を与えてくれるものに対し、単なる傍観者であってはならない」。環境問題専門家のポール・ホーケン氏は、我々が今直面していることに不足があるとすれば、それは意義の重要性であると信じている。多くの人が「GDPプラス」の必要性を語る。これは単に富の大きさを計るだけではなく、成功に対する広い尺度である。

ビジネスにとって道徳的観点で一歩前に踏みだすことは正しいというだけではなく、経済にも良いことである。経営学者で元ミシガン大学ビジネススクール教授の故C.K.プラハラード氏をはじめ、いろいろな人が議論したように、今人々が「持続可能性」と呼ぶものの中には、膨大な成長と利益の機会がある。ユニリーバに関して言えば、何十億の人々の需要、清潔な飲み水、基本的な衛生用品や衛生設備、栄養食品などに対する取り組み、あるいは必要なすべての農産物原材料の持続的な調達により、これらを見いだすことができる。

これからのユニリーバの成功は、我々がその成長を環境負荷と切り離せるかにかかっており、同時に我々が社会により大きな影響を与えることである。これらは2010年にスタートした「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン」(ユニリーバ持続可能生活計画)の根幹となる目標である。

人々が新しい形の資本主義を模索する時、こんなことを私は考える。全面的な透明性を確保し、現在あるいは将来の何世代にもわたって社会に貢献する多くの企業の姿。決してそこから何かを得ようということでない。

これらは新しいビジネスモデルに他ならない。長期的視野に立つ企業。ビジネスを社会から離れたものではなくその一員として見る企業。社会の安定を脅かす大きな社会的、環境問題に取り組む企業。市民や地域社会の要求が株主の要求と同じ重みと感じている企業である。

このことが、我々が「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン(USLP)」を戦略の中心に据えている理由である。このUSLPを実行することで、我々のイノベーション・レート(革新の速度)も増加している。改革も加速しており、新しい成長の芽(「Pure-it」ブランドなど)も出始めている。また、資源への依存を減らすことでコスト削減もできつつある。企業ブランドも上がり、ユニリーバは我々が手がけている市場の多くで優良企業と認められてきている。

しかし我々だけが持続的な目標を達成しても、誰も後に続かなければそれは失敗に終わるだろう。我々が成功するためには他の人々と協業することが必要だ。政府、顧客、競合会社、原料供給国、そして一番重要なのがNPOである。

リオ+20会議(国連持続可能な開発会議)(※5)は、多くの人が失敗だったと言うが、この会議で、ビジネスがこの先行政と社会の両面で機能できる有望な方法がいくつか見いだせた。1800以上のビジネスが提案され、その結果、200ほどの案件が具体化した。なかでも、「The Natural Capital Declaration」はそうした兆候の例となるだろう。30以上の企業が水、炭酸ガス、さらに生物多様化など環境の重要性を尊重することを約束した。我々は今、包括的な報告ができるように世界レベルの議論をリードしている。G20のために、我々は引き続き食料安全保障への取り組みを行う。これは近年世界各地で発生している異常気象を考えれば、とりわけ重要な問題である。もうひとつはアメリカ政府から発表されたもので、400以上の企業で公民一体の協業体制を作り、そのサプライチェーンで不法な森林伐採をなくす。

この後者の協業では、かつてない強力な業界連合が、世界でもっとも強力な政府(アメリカ)と同等に取り組む。森林破壊などの問題に、首尾よく取り組んで成功させるのであれば、これくらいの規模は必要である。森林破壊は、二酸化炭素やフロン、メタンなどすべての温室効果ガスの原因の17%を占め、その値は輸送部門全体の排出量を超える。

我々に降りかかってくる3つの課題、すなわち食料、水、及び加速する気候変動に取り組むとすれば、このような計画がさらに必要になってくる。

成功には勇気あるリーダーシップが求められる。新しい働き方とビジネスモデルの構築の先駆者となり、先頭に立って前進する覚悟のある企業が多く必要だ。そうする中で、企業はビジネスで信頼を勝ち取り、そして多くの利益も出せると私は確信している。「The B-Team」(※6)は、この計画を加速し、最大限の効果をあげるためにビジネスリーダーたちが集まったものである

この目標達成には、みなさんの貢献が今まで以上に重要である。小さな行動でも大きな違いを生む。そう、我々全員には果たすべき役割がある。

ポール・ポルマン  ユニリーバCEO(最高経営責任者)

※1 「怒れる人々」運動 2011年、若者、移民、年金生活者などが広場でキャンプしながらデモを行った運動。M15運動とも言われる。

※2 ジニ係数 所得分配の不平等度を示す指標。「ジニ」はイタリアの統計学者の名前。ある国で所得が完全に均等に分配されている場合はジニ係数が0となり、1に近づくほど不平等度が高いことを意味する。

※3 短期主義 企業や投資家が、長期的視野に立たず、短期的視野に基づいて行動すること。

※4 パブリック・カンパニー 株式公開会社のこと。不特定多数の投資家が容易に株主として会社所有できるため、会社の社会的存在が強くなることから、このような表現を用いる。

※5 リオ+20会議(国連持続可能な開発会議) 2012年6月にブラジル・リオデジャネイロで開催された環境、貧困、災害などをテーマにした国際会議。

※6 The B Team 短期的な利益を求める「プランA」に代わる、「利益の追求と並んで、人々と地球を優先する」ことを目標によりよい資本主義社会を作ることを目指すビジネスリーダーチーム。

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