売春防止から女性支援へ 法改正への動きが加速

婦人保護事業の根拠法である売春防止法の改正に向けた動きが加速している。

婦人保護事業の根拠法である売春防止法の改正に向けた動きが加速している。全国婦人保護施設等連絡協議会(全婦連)は昨年末から順次、厚生労働省、法務省、内閣府に同法改正の要望書を提出。人権保障、自立支援の視点での改正が必要だとしている。

この動きを広げようと、東京都社会福祉協議会婦人保護部会(会長=阿部千恵子・救世軍新生寮施設長)は1月24日、都内で集会を開き、約120人が参加した。

■人権保障の婦人保護事業に

「婦人保護事業は女性を支援するものだと言えないところがつらい」「若い女性は婦人保護施設を刑務所のようなところだと思い込んでいる」――。集会に参加した都内の婦人相談員らは、現状を報告した。

集会には同事業にかかわる福祉関係者のほか、性産業に従事する女性、民間シェルターの運営者などさまざまな立場の人が参加。シンポジストの戒能民江・お茶の水女子大名誉教授らが法改正の必要性を説明すると、会場から発言が続いた。

支援を必要とする女性の実態と同事業の法令の間に開きがあり、現場で開きを埋めようと努めてはいるが限界がある――。発言を要約すれば、これが大筋で一致した意見だ。

同事業の対象者は厚労省の通知によって「配偶者暴力の被害者」「人身取引被害者」などに拡大してきたが、婦人保護施設、婦人相談所はそれに見合う運営体制になっていない。

婦人保護施設の人員配置基準は、入所定員50人以下の場合、施設長、調理員などすべての職員を含めて9人。知的障害や精神障害のある人、外国人、女性の同伴児などさまざまな入所者に24時間365日かかわるには大幅に不足している。

他の福祉施設は「母子生活支援施設」「児童自立支援施設」などと名称変更されたが、婦人保護施設は従来と同じ。法令上、「収容」「指導」といった用語も残っている。

婦人相談所についても (1)短期間での「自立」が見込める人しか施設に入所させない (2)婦人相談員の約8割が非常勤で経験者が育ちにくい (3)地域間で対応にバラツキがある――といった問題点がかねて指摘されてきた。

集会を主催した同部会の阿部会長は冒頭あいさつで「同法の使い勝手の悪さ、女性に対する二重三重の人権侵害につながる差別的な状況に心を痛め、怒りを感じる」と話した。

シンポジストの一人で弁護士の角田由紀子さんは同法を「女性を処罰する発想が残っていて、売春の原因が追究されていない」と批判。日本弁護士連合会が2013年6月21日付で公表した同法改正の意見書を紹介した。

なお、日本キリスト教婦人矯風会(東京都新宿区)に事務局のある「売買春問題ととりくむ会」が14年末、衆議院議員にアンケートをしたところ、次の議員が「売春防止法改正の発議者になる」と回答した。

 ▽郡和子(民主)▽照屋寛徳(社民)▽斎藤和子(共産)▽梅村さえこ(同)▽赤嶺政賢(同)▽池内さおり(同)▽高橋千鶴子(同)

■婦人保護事業とは

「売春を行うおそれのある女子」を「要保護女子」とし、保護更生を図る事業。同法のうち厚労省の所管する第4章(保護更生)が婦人相談所、婦人相談員、婦人保護施設を規定する。

要保護女子が入所する婦人保護施設は第1種社会福祉事業で全国に49施設(都内は5施設)ある。

定員は1371人で、年間平均の入所者数による定員充足率は29%。都道府県に必置義務はない。施設措置費のうち国の補助金は年間約22億円。

婦人相談所は都道府県に必置で一時保護、婦人保護施設への入所措置を担う。婦人相談員は都道府県と市に約1200人。

厚労省の検討会(座長=戒能民江・お茶の水女子大名誉教授)は13年3月、同事業の課題を整理したが、売春防止法は1956年の制定以来、骨格が一度も改正されていない。

全婦連は同法の第4章を抜き出し、人権尊重、自立支援、福祉の視点を入れた新法を制定するよう求めている。

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