アメリカ・テキサス州最高裁判所は12月11日、州在住の女性に緊急中絶を認めた地方裁判所の判決を無効にすると判断した。
中絶を求めていたケイト・コックスさんは、妊娠を続ければ自らの命や健康が危険にさらされる状況に置かれていた。
コックスさんを支援していた生殖の権利を守る団体「リプロダクティブライツセンター」は、「医師に必要だと言われた医療を受けるために自国政府の迫害を恐れなければならないなど、受け入れがたいことです。私たちの誰もがケイトになる可能性があるのです」とコメントしている。
生命の危機にさらされていた
2人の子どもを持つコックスさんは、8月に3度目の妊娠が判明した後、お腹の赤ちゃんには遺伝子疾患があるために流産や死産の可能性が非常に高く、子宮外での生存の見込みもないと医師から告げられた。
さらに、妊娠を続ければ子宮破裂を引き起こして本人の命が危機にさらされるほか、今後妊娠できなくなる可能性もあると診断された。
コックスさんは、妊娠20週目だった12月5日、テキサス州の法律を一時的に差し止めて中絶手術を認めるよう求める裁判を起こした。
テキサス州は、連邦最高裁が2022年に中絶の権利を保障したロー対ウェイド判決を覆して以来、中絶を厳しく取り締まっている。
コックスさんの申し立てを受けた州裁判所は12月7日、わずかな期間中絶手術を受けることを認めた。
しかし、テキサス州のケン・パクストン司法長官はこの判決を不服として、州最高裁に上訴。地方裁判所の判決を「活動家の判事によるもの」と呼んで批判し、ヒューストン市内の病院に対して、コックスさんに中絶手術をすれば法的制裁を受ける可能性があると警告した。
州を出ざるをえなかった
州最高裁は8日に緊急中絶を認める判決を一時的に差し止めた後、11日に正式に無効とした。
この11日の判決の数時間前に、リプロダクティブ・ライツ・センターはコックスさんが州外へと出ざるを得なくなったと発表した。
団体は「ケイト・コックスさんは自身の健康と将来の生殖能力を守るために、一刻も早く中絶治療を受ける必要があり、地元テキサス州を出ることを余儀なくされました」と説明している。
同センターのナンシー・ノーサップCEOは「法的宙づり状態に置かれた1週間は、ケイトにとって地獄だった」と声明で述べている。
「彼女の健康は危険にさらされています。緊急治療室を何度も出入りし、これ以上待てませんでした。こうなるからこそ、裁判官や政治家が妊娠中の人々の医療に関する決定をすべきではないのです」
ノーサップCEOは、コックスさんは州外への脱出が可能だったものの、多くの患者にはそのような選択肢はないとも指摘している。
「ケイトは自分の居住地で治療を受け、家族に囲まれた自宅で回復することを切実に望んでいました。ケイトは州を離れることができましたが、ほとんどの人はそうではありません」
州外での中絶は、医療費に加えて交通費や宿泊費、子どもがいる場合は育児費など、多額の費用がかかる。
また、支援団体や中絶手術が合法である州の医療機関には、州外からの患者が次々に押し寄せている状態だ。
中絶の権利を擁護する団体「プランド・ペアレントフッド」ロッキー山脈支部のエイドリアン・マンサネレスCEOは、2023年6月のハフポストUS版の取材で「1年で50%も増加しました」と語っている。
また、同団体セントルイス地域と南西ミズーリの医療責任者であるコリーン・マクニコラス医師は「妊娠中絶のインフラはすでに脆弱であり、利用できるクリニックはますます少なくなっています」と述べている。
ハフポストUS版の記事を翻訳・編集しました。