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アメリカ・テキサス州で、漫画版「アンネの日記」を読書の授業で使用した中学校の教師が解雇された。
ハムシャー=ファネット独立学区の広報マイク・カニザレス氏は、教師の一人が学区で承認されていない「アンネの日記:グラフィック版」を授業で生徒に読ませたと地元テレビ局KFDMに説明している。
カニザレス氏によると、学区は新しい正規教師を募集しており、その間は代理の教師が授業を受け持つ。
学区がハフポストUS版に提供した保護者宛てのメールには、「優秀な正規教師をできるだけ迅速に雇用するため、募集を行います。移行期間中も読書の授業を継続するために、管理者とカリキュラムチームによるサポートと監督を強化します」と書かれていた。
「アンネの日記」の何が問題なのか
「アンネの日記」は、ユダヤ人の少女アンネ・フランクが、ホロコーストから身を守るために隠れ住んだオランダ・アムステルダムの秘密の部屋で、自分の考えなどを書きつづった作品だ。
「アンネの日記:グラフィック版」は、ホロコーストを生き残った両親を持つアリ・フォルマン氏が編集し、デイヴィッド・ポロンスキー氏がイラストを手掛けた、同作品の漫画版だ。
AP通信によると、この作品にはアンネが公園にある裸の女性の像に魅せられ、友人に胸を見せ合わないかと持ちかける場面があるほか、女性と男性の性器についての考えをつづる描写も含まれている。
ニューヨーク・タイムズ・ブックレビューは、この本を「とても魅力的かつ効果的で、授業や若者の間で(オリジナル版に)取って代わることが容易に想像できる」と高く評価している。また、Amazonでは中〜高校生を対象としている。
一方、ハムシャー=ファネット独立学区は、この本の授業での使用は認められていないとしている。
しかしKDFMは「新学年の始まりに保護者に送られた承認済み書籍のリストに、この本が含まれていた」と報じており、学区が調査しているという。
スイス・バーゼルに本部を置くアンネ・フランク基金は同書の禁止を非難しており、ハフポストUS版へのメールで次のように説明した。
「グラフィック版は、1940年代を生きた12歳の少女の文章に基づいた作品です。初版が出版されて以来、日記は常にイデオロギーを掲げる団体から攻撃されてきました。現代のような自由を享受できなかった少女は文字で自由を守り、夢見ていたのです」
「バーゼルのアンネ・フランク基金は、独裁国家だけではなく、自由世界でもイデオロギーによる世界文学の禁止が増加していることを懸念しています。啓蒙が成し遂げたものへの脅威と捉えています」
保守派による書籍禁止の動き
アメリカでは、保守派の政治家らが人種差別や性教育、性自認について取り上げる本を禁止する動きがあり、今回の解雇もその流れに沿ったものだと見られている。
アメリカ図書館協会の2022年の報告では、テキサスは他州と比べて学校での書籍検閲の回数が多かった。
ホロコーストを題材にした作品では、「アンネの日記」のほか、アート・スピーゲルマンの漫画「マウス―アウシュヴィッツを生きのびた父親の物語」などもターゲットにされている。
ホロコースト文学を禁止しようとする親や教育関係者、政治家は、作品中の言葉遣いや裸の描写が理由だとしている。しかし、歴史家や図書館員らは、この動きを人種不平等や反ユダヤ主義の真実を伝えることへの攻撃とみなしている。
テキサス州では2021年、共和党の議員が「自分の人種や性別を理由に、生徒が不快感や罪悪感、苦悩、その他心理的な苦痛を感じる可能性がある書籍」のリストを作成。約850冊にも及ぶそのリストを州内の学区に配布して、掲載された本が学校にあるかどうかを確認するよう求めた。
また、2022年5月には、共和党のグレッグ・アボット知事が「露骨な性的描写」のある本を禁止する法律に署名した。これに対し、法律の内容が非常に曖昧でLGBTQ+をテーマにした本なども禁止される可能性があるという批判が起きた。
こういった教育現場への介入が進むことでは、読書が授業の一部ではなく、処罰される行為になりつつある。
2022年には、性自認について書かれた子ども向けの本「My Shadow Is Purple(私の影は紫)」を授業で読んだジョージア州の5年生の教師が解雇された。
また、サウスカロライナ州では、タナハシ・コーツの「世界と僕のあいだに」を授業で使用した高校の教師に生徒がクレームをつけた。これは共和党主導の州議会が組織的な人種差別についての議論を授業で禁じたためだ。
さらにルイジアナ州では、検閲に反対した学校の司書がオンラインで脅迫されている。
ハフポストUS版の記事を翻訳しました。