同じ組織で働いてもうすぐ3年の派遣社員は、自ら希望しないと得られない"権利"がある
労働者にとって由々しき事態だ。新たな派遣切り・2018年問題が始まっている。2015年9月30日施行の改正労働者派遣法には、派遣社員の受け入れ上限を3年とするルールが盛り込まれた。法改正の目的は派遣社員の雇用の安定だったのだが、結果として雇い止めが起き、派遣労働者にとってまさに"余計なお世話"になっている。
連合が行う労働相談にも「派遣で働いているが、3年の期間制限前に雇い止めされた」という悲痛の声が届いている。相談のなかで感じたのは、法律が複雑で、派遣社員の方がきちんと理解できていないこと。我々連合がいまできることはなにか。派遣社員の方に法律の内容をしっかりと伝え、法律を活用してもらうことが必要ではないだろうか。そこで、派遣社員向けに改正派遣法のポイントをまとめた特設サイトを設置、「雇用安定措置の申込書フォーマット」の提供を開始した。
いったい現場ではどういった問題が起きているのか、派遣社員はどう法律を活用すべきなのか、詳しい話を連合総合労働局長 村上陽子氏に聞いた。
村上 陽子 連合(日本労働組合総連合会)総合労働局長
●2015年の法改正が生んでいる新たな「雇い止め」問題
—法改正の影響で最近雇い止めが増えていると聞きました。なにが起きているんですか?
同じ派遣先で働いて3年になる直前に、契約を終了すると言われるケースが出てきています。2018年9月1日、2日にNPO派遣労働ネットワークと全国ユニオンが行った電話相談では、雇い止めの相談が42%と突出しました。その多くが同じ組織で同じ派遣社員が3年以上働けない"個人単位の3年ルール"を理由とするものです。
この問題はこれから増えるのではないかと思っています。2015年9月の改正法施行以降の契約が対象になりますので、これから対象者が増えます。
—事業者には、罰則なり、雇い止めを防止するための規制はないんですか?
派遣元(派遣会社)には"雇用安定措置"が義務付けられています。具体的には同一の組織に3年間派遣される見込みの派遣社員には「派遣先への直接雇用の依頼」「新たな派遣先の提供」「派遣会社での無期雇用」「安定した雇用の継続が確実にはかられる措置(紹介予定派遣、職業紹介、有給での教育訓練)」のどれかを行うことが義務付けられています。政府はこの制度により派遣社員の雇用を安定させようとしていました。
—いまは人手不足です。正社員や無期契約への転換は進むようにも思えますが。
厚生労働省の統計によると、「派遣先への直接雇用の依頼」は11.2%。そのうち直接雇用が実現した数となると42.2%です。
厚生労働省の平成28年度 労働者派遣事業報告書の集計結果 表17をグラフ化
派遣会社で無期雇用になるケースも6.4%とそれなりにあります。派遣会社との契約が無期になれば3年ルールの適用は受けないので、派遣会社も派遣先に対して売り込みがしやすくなるというメリットがあります。でも、無期になったからいいというものではないんです。
—派遣会社で無期雇用してくれれば、雇用は安定しそうですが
無期雇用になった人の就業規則に「派遣先が見つからなかったときは、30日以内に労働者は退職したものとする」という条項が入っているケースがあるんです。合意書をとっていることもあるそうで、抜け道というか、ひどい話だと思います。
●派遣先も幸せにならない"3年ルール"
—3年も働いてくれた派遣社員なら、派遣先も直接雇用したいと思うのでは?
派遣社員と働く正社員の方から聞いた話です。自社に派遣社員として働いて3年になる人がいたそうです。とてもよく働いてくれているので3年経過以降も働いてほしいと考えました。そこで人事部から派遣会社に無期契約にしてほしいと交渉しました。すると、派遣会社は派遣料金を2割アップしてくれと言ってきたそうです。派遣会社とすれば無期雇用にはリスクがあると思ったんのでしょうか。
では会社で直接雇用してしまえばいいと思いますよね。それを人事部に相談したところ、派遣会社との関係が悪くなるから嫌だと断られたそうなんです。関係が悪くなると、今後、いい人を送ってもらえなくなると。結局、その方は3年でやめることになったそうです。
—派遣社員と一緒に働く現場の社員にも影響が出ているようですね
3年ごとに教え直すのは負担ですよね。派遣社員から契約社員への直接雇用に変わり、一緒に働く正社員の心持ちが変わった事例があります。KDDI労働組合の取り組みですが、会社の方針で2012年から、派遣社員や業務委託で担っていたところを、全員直接雇用の契約社員に順次切り替えました。
組合員から話を聞くと、以前は派遣社員は"いつかいなくなる人"という認識だったそうです。ですが、直接雇用になり同じ組合員となる中で、契約社員がこんなに働いてくれていたんだと気づいたそうなんです。そこで、組合として「正社員のベアを見送るから契約社員のベアを」と交渉し、実現したんです。同じ職場で働く仲間という意識が強くなったと話していました。
●「雇用安定措置」を自ら希望することが重要
—この「雇用安定措置の申込書フォーマット」は、いつ使うんですか?
派遣会社との雇用契約を更新すれば3年目になるタイミングで使ってください。「雇用安定措置」は3年に達する見込みの派遣社員に対して、派遣社員が就業継続を希望をすれば、派遣会社がやらなければならない義務です。必ずしも希望通りになるかは分かりませんが、「派遣先への直接雇用の依頼」「新たな派遣先の提供」「派遣会社での無期雇用」「安定した雇用の継続が確実にはかられる措置(紹介予定派遣、職業紹介、有給での教育訓練)」のうち希望するものに丸をして、派遣会社の営業担当者に提出してください。メールでもかまいません。
雇用安定措置の申込書フォーマット 連合の特設サイトからダウンロードできる
—希望しないと、派遣会社は何もしてくれないんですか?
そうです。派遣会社は、派遣社員が就業の継続を希望しなければ何もしなくてもいいんです。法律がそういう建てつけになっています。派遣会社に希望を伝えなければいけないのですが、直接は言いづらかったり、伝えたことを残した方が良いですね。そのためのフォーマットです。
独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)の小野晶子研究員も、派遣社員は賃金交渉をするほうが時給が上がっているという研究結果を発表しています。労働条件は黙っていても上がってはいきません。
※「雇用安定措置の申込書フォーマット」は、連合の特設サイトからダウンロードできます。
●連合の労働相談は、電話・メールフォーム・LINEでもできる
—連合の労働相談は、組合員でなくても相談できますか?
誰でも相談できます。電話とメールフォームで受け付けています。LINEの連合公式アカウントも開設し、11月6日~8日の3日間はLINEからも相談を受け付けます。
※12月11〜12日の2日間もLINEからの相談を受け付けます。
—最後になりますが、そもそも派遣制度はどうあるべきだと思いますか?
雇う人と使う人が異なる"間接雇用"というのは、組合の交渉が難しいと感じます。いざトラブルがあったときに、解決が難しい。派遣先の問題なのか、派遣会社の問題なのかあいまいにされてしまうことがあります。安定した生活のためには、直接雇用の期間の定めがない契約を原則にすべきというのが連合としての基本的な考えです。現在の派遣制度は間接雇用で有期契約という二つの問題を抱えています。
派遣制度が誕生したときは通訳などの専門業務に限られていました。そういう専門家を対象にした派遣制度には意味があったと思います。今は一般業務にまで広がってしまいました。元の状態に収れんすべきという考えもありますが、すでに今のやり方が動いてしまっています。今の制度のなかで、いかにして権利侵害をされないようにするか、サポートをしっかりしなくてはいけないと思っています。
—労働者派遣法のどこに問題があると思いますか?
個人的な見解ですけど、いまの労働者派遣法を理解するのは難しいと思います。どんなに複雑でも、派遣会社は理解するべきだと言えますが、労働者には難しい法律を読み解くよう要求すべきではないと思うんです。労働者のための法律なので「わかりやすさ」は重要だと思います。
—ありがとうございました。
連合が立ち上げた特設サイト「2015年改正から3年 知ろう!活かそう!改正労働者派遣法」には、法改正の理解すべきポイント、雇用安定措置の申入書のフォーマット、派遣先会社の労働組合向け職場チェックリストが掲載されています。派遣社員の雇用の安定のためにも、多くの人に知ってもらいたい内容です。