私たちは、日本で医療機関を受診する外国人がスムースに受診できるようサポートするボランティア団体を立ち上げました。名称をTeam Medics(チーム・メディックス)と言います。
なぜこのようなボランティア団体を作ろうと思い立ったのか、とよく聞かれるのですが、それには、自分の経験が深く関わっています。
私は、小学生の時から英語に関心を持っていました。そして、中学校の3年間は多言語・多国籍国家であるスイスに単身留学しました。
留学先はスイスのフランス語圏にあるインターナショナルスクールで、そのほとんどの学生が寮生活をしていました。
私はフランス語が得意ではないのですが、寮には英語ができる寮母と寮父がいて、体調不良時やけがをした時には頼ることができました。またスイスの健康保険制度は、国籍や年齢を問わず国が承認した民間保険会社の基本医療保険に加入することが義務づけられています。それも学校が統括して学生の保険加入を行うので、自分ではあまり関心をもっていませんでした。
しかし、学期の半ばに10日間の休みがあり、寮母と寮父も不在でほとんどの学生が帰省していた時に、わたしは突然病気になってしまったのです。最初の数日は軽い腹痛のみで我慢していましたが、次第に痛みが強くなり、高熱もでてきました。これは病院へ行かなくてはならない状況だとはわかるのですが、寮に滞在していた他の学生も、どこの病院へ行けば良いか、どのように行けば良いか、英語は通じるのか、保険は効くのか、全く分からず途方に暮れてしまいました。
心細く、無力感が襲いかかり、痛みだけでなく精神的にもとても苦しかったことを覚えています。
結果的には、学校の近くに住んでいたスイス人の友人とご両親が手配をしてくださり、車で山を下り、病院へ連れて行ってくれました。私はその際に費用を払った記憶もなく、後日学校の事務局で書類を書いたので、恐らく友人のご両親が立て替えてくれたのだと思います。
友人やご両親の助けがなければ、場合によっては大変なことになっていたかもしれません。
私は昨年、日本大学医学部医学科に入学しました。そのカリキュラムの中に、医学英語という授業がありました。医学教育企画・推進室の押味貴之助教ら先生方による英語で問診をとるトレーニングを、実践的かつインタラクティブなスタイルで勉強することができました。
授業で撮ったビデオを比較してみると、1年生の終わりには語彙も増えていて、医学部低学年の生徒でも、トレーニングを重ねれば英語で基本的な問診をとることが出来るようになることを知りました。
その授業を受けた時に、私はかねてから考えていた、日本にいる外国人患者のサポートをしたい、という思いを友人たちに話したところ、皆の共感を得ることが出来ました。そして、この思いを実現すべく、スーパーバイザーである押味先生と、ジェームス・トーマス先生に相談したところ、医学生ができる具体的な活動内容についてアドバイスを頂きました。
それが、Team Medicsという形で、実現しました。
Team Medics の目標は、2020年までに行われる国際イベントにて医療サポートをすることです。2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは、文化イベント参加者など含め、約20日間のオリンピック期間中には、80万人もの外国人が東京を訪れると予測されています。オリンピックは開催日程が真夏であるため、熱中症の発症など一刻を争う患者が増えることが予想されます。事実、1964年に開催された東京オリンピックでは競技会場で3,396人が救護されたそうです。会場にいる医療従事者がいち早く処置を行うことができるように、Team Medicsのメンバーができることが沢山あると思っています。
イベントだけでなく、在留外国人の医療サポートもできればと思っています。救急だけでなく、慢性疾患を持っているが言語や医療制度が分からないため、受診していない患者がいると想定されます。このような患者に対して、日本語で作成した問診票をもとに、医療機関の提案、質問対応を行うことで、より医療機関へ行きやすくし、円滑に医療を受けることができれば嬉しいです。
このような活動をすることで、昔自分が苦しんだ時、助けてもらった恩返しができるのではないかと思いました。
Team Medicsに参加している学生は医学生が中心のメンバーです。1年生から6年生までで、メンバーの医学知識や英語レベルには大きな差があります。なので、小人数グループのワークショップ形式で勉強会を行っていきます。医学知識や英語のレベルが高い学生は、他の人に教えることで、理解をより深めることができ、低学年の生徒や英語が苦手な生徒は、同じ医学生から教わることで良い刺激になると考えています。
実際には、現在の学生メンバーのほとんどは2020年までに卒業していますので、未来の後輩を育成し、このボランティア活動が末長く続くことを目指して活動を行っていきたいと思います。
(2015年8月7日「MRIC by 医療ガバナンス学会」より転載)