板橋区立中学校教諭が、盗撮を目的とした学校への建造物侵入による疑いで、1/13に警察に逮捕されたというニュースが新聞にも掲載されました。
また昨年8月には、板橋区立中学校教諭が、靴の先につけたカメラで盗撮を行ったことで逮捕され、昨年末に懲戒免職処分となりました。
これらは犯罪行為であると同時に、教育に対する信頼を著しく損ねるものです。
なんとしても再発防止を図らなければなりません。
ただ、
「どうやって?」
という疑問が起こります。
板橋区教育委員会の出すコメントには、「今後は、教職員の服務厳正をさらに徹底し、再発防止に全力で努めてまいります」と書かれていますが、「服務厳正の徹底」で本当に再発防止ができるのでしょうか?
盗撮などやったら、懲戒免職処分。そんなことは、教員は百も承知のはずです。
それでもこうしたことが起こるのはなぜなのか。
そこを掘り下げなければ、再発防止にならないのではないでしょうか。
「決まり文句」では困るのです。
児童・生徒たちのためにも、「本当に効果がある再発防止策」を真剣に考えなくてはなりません。
そこで、「ビースターズ」をおすすめしたいと思います。
「このマンガがすごい!2018」で堂々2位を獲得した、私のいまイチオシのマンガです。
登場人物は全員動物。
しかも「ミッキーマウス」のような擬人化ではなく、すべての動物がその本能と身体能力を維持したまま、人間の知力と文明を有しています。
すべての動物には「人権」があります。
肉食獣が草食獣を捕食するのは殺人と同じ。
そういう世界で、主人公のハイイロオオカミ・レゴシが所属する演劇部のメンバーのアルパカ・テムが、何者かに食い殺された...というところから始まり。
レゴシはこともあろうに、ドワーフウサギのハルに恋をしますが、それは本当に「恋」なのか?
狩猟本能が変形した恋愛感情ではないのか?
という、いろいろなネジレコジレが楽しくも考えさせられるマンガです。
非合法に肉を提供する「裏市」で自分の本能に苦しんだレゴシが出会ったのが、「ちょっと強い心療内科医のジャイアントパンダ」ゴウヒンです。
ゴウヒン先生イカス^^
ゴウヒンは自分の診察室に貼られた「欲望に負けた肉食獣たち」の写真をレゴシに見せ、こう語ります。
目に焼きつけておけ。これが肉食の本能に従った奴らの末路だ。
草食動物の味が忘れられず、自分の腕を噛みちぎる者。ストレスで全身の毛が抜ける者。自己嫌悪で自傷行為に走る者。更生できた奴は稀だ。
あと...1匹の草食動物を愛するあまり、食っちまったっつー事例もたまにある。
かなりブッ飛んだ世界設定のマンガですが、この「どうにも他人事に思えない感じ」は、私たち人間も結局は動物の延長線上にあり、「己の中の獣」と戦いながら生きている存在だから感じることではないでしょうか。
そうだ...自分の獣を飼いならせ、レゴシ。
それがこの世界の、一丁前の男よ。(ゴウヒン)
こころの病を治すためには、周囲との絆が必要
ひとつ言えるのは、ゴウヒンと会ってなかったら、おそらくレゴシは最愛のハルを食ってしまったであろう...ということです。
「己の中の獣」が大きくなってしまったら、自分の意思だけで制御することが難しくなります。
周囲の助けが必要なのです。
同じような境遇に陥っても、周囲とどれだけ良好な関係をたくさん築けているかで、立ち直れるかどうかが変わってきます。
昨年実施した第2回じょうたカレッジ「ギャンブル依存症、そろそろ本気で考えてみる」にありがたくもご出席いただいた臨床精神医療の第一人者・榎本稔先生によれば、習慣的な盗撮は「性嗜好障害・反(非)社会性パーソナリティ障害」であると位置づけられています。
何度逮捕されても、やめることができません。
犯罪行為が依存症によるものだった場合、刑務所に入れておく「だけ」ではぜったいに更生しません。
(中略)
逮捕されたことが周囲に知られれば、多くのものを失います。友人ははなれていき、勤め先は解雇されるかもしれません。家族が口をきいてくれなくなったり、離婚されることもあるでしょう。示談金や罰金で、たくさんのお金も出ていきます。
それによって、自分がしたことの重大さを思い知るかもしれませんが、それも最初の1度か、せいぜい2度まででしょう。3度、4度...と繰り返すうちに、失うものはなくなっていき、どんどん歯止めが利かなくなってしまうのです。
(榎本稔「ヒューマンファーストのこころの治療」より引用)
「服務厳正の徹底」では、どう考えても解決策になりません。
必要なのは、レゴシにとってのゴウヒンのように、きちんと向き合ってくれる周囲の存在です。
ダメなものはダメという断固とした姿勢を示しつつも、きちんと寄り添ってくれる家族や友人、医師などの専門家、あるいは同じ経験をして更生した仲間が必要です。
そうした理解ある周囲の支援とともに、様々な社会経験の「リハビリ」を行うための「デイナイトケア(通所による医療プログラム)」が必要だ、と榎本稔先生は著書で語っています。
これは既に「性嗜好障害・反(非)社会性パーソナリティ障害」に陥ってしまった人への処方ですが、板橋区教委に求められているのは、まさにレゴシのような状態に置かれている「予備軍」の教員に対してどう対応するか、です。
日本の教職員の激務は知られるところであり、教職員の「働き方改革」ほど急務を要するものはありません。
同時に、教職員がどういう精神状態に置かれているか、どういう悩みを抱えているか、きちんとすくい上げる取り組みが必要です。
板橋区議会において、こうした観点からの提言を行っていきたいと考えています。
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さて、「ビースターズ」のほうですが、こちらますます目が離せない展開になっています。
なんと、演劇部の花形・アカシカのルイがまさかの超転身。
ゴウヒンの残す謎めいた言葉も気になります。
ゴウヒンだけは、この世界のことを「この世界は...」と、何やら俯瞰的に話すのです。
まだ若いとはいえ、目を背けられない問題だらけだぜ、この世界は。(ゴウヒン)
「まだ若い世界」ってどういうこと?!
「この世界」には、まだまだ謎が多そう。
今後の展開が楽しみです...!
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最後に、作者の板垣把留先生へ。
もしこれを見ることがあったら、ひとつだけ修正してほしいです。
男性は「スーツの上着のポケットに手を突っ込む」ことはしません...!
手を突っ込むのは「スラックスのポケット」です...。
今後は、ぜひ直していただければと...。
細かくてすんません^^;