テイラー・スウィフトが「いい子(good girl)」をやめるまで。Netflix『ミス・アメリカーナ』が必見の理由

「いい子は意見を押し付けない。笑顔で手を振ってお礼を言う。でも、もう我慢の限界だった」
テイラー・スウィフト
テイラー・スウィフト

長い間、「いい子(good girl)」であり続けたテイラー・スウィフトは、その時代に終止符を打ったようだ。Netflixで配信中のドキュメンタリー『ミス・アメリカーナ』は、彼女の力強いメッセージを伝えている。 

これまで、「政治に無関心なポップスター」と言われ続けてきたテイラーの変化。その姿を追った同作は、大きな話題となっている。

沈黙を破ったポップスター

テイラーは2006年のデビュー以降、一貫して政治的な発言を避けつづけていた。しかし、中間選挙を控えた2018年10月8日、ついにその沈黙を破った。

Instagramに長文を投稿し、「性的少数者(LGBTQ)の人権のための戦いを支持し、あらゆるジェンダー差別に反対する」と表明。中間選挙で投票しようとしている民主党の候補者名を2人、明言したのだ。

「いい子は意見を押し付けない。笑顔で手を振ってお礼を言う。政治の話で人を困らせてはいけない。でも、もう我慢の限界だった」

ドキュメンタリーの中で、自らの民主的な思想を明らかにする決意を固めたことについて、彼女はそう語っている。

Netflixドキュメンタリー「ミス・アメリカーナ」より
Netflixドキュメンタリー「ミス・アメリカーナ」より

「ピンク色の服を着て、政治について語りたい」

テイラーを支えるチームは、政治的な発言をすることへの懸念を示していた。

「アメリカ合衆国大統領のジョージ・W・ブッシュ氏を恥ずかしく思う」などと発言し、キャリアに大きな影響を受けたカントリー音楽の3人組バンド、ディクシー・チックスの二の舞になることを避けていたのだ。

テイラーもその「言いつけ」を守り続けてきた。

しかし、元ラジオDJのデヴィッド・ミューラー氏にセクハラ被害を受けたことをきっかけに、大きな変化が起きたのだという。

さらにその後、故郷のテネシー州で、共和党のマーシャ・ブラックバーン議員が上院議員の中間選挙に出馬。同議員は、DVやストーカーなどの暴力を規制する法案に反対し、同性婚にも反対の姿勢を示している。 

これを期に、黙って見ていることに耐えられなくなったという。

ドキュメンタリーには、感情をあらわにしながらチームを説得するテイラーの姿が収められている。

テイラーは、「あんなのはテネシー州のキリスト教思想じゃない」と憤り、「私はテネシーに住んでいて、キリスト教徒だけど、あれは私の思想とはまるで違う」と続けた。

「何もせずに、ステージの上でプライド月間だよ!なんて言える?」

「口に貼ってたテープを剥がす時がきた。ピンク色の服を着て、政治について語りたい」

テイラーは、そんな思いを口にする。

Dia Dipasupil via Getty Images

「いい子でいることをずっと目指していた」 

 『ミス・アメリカーナ』がありありと伝えるのは、テイラーが常に「他人に認めてもらうこと」に重きを置いていた、ということだ。

ドキュメンタリーは、ニューヨークにあるアパートメントでテイラーがピアノを弾く場面から始まる。鍵盤の上を、愛猫のベンジャミン・バトンが歩いている。

「私の人生、私のキャリア、私の夢、私の現実」。

テイラーは、幼き日の自分が日記につづった文字を読み上げる。その日記にたくさんの歌詞やアイデアを描き、アーティストとしての「テイラー・スウィフト像」を創り上げていった。

「ずっと目指してたのは、いい子(good girl)でいることだった」と彼女は明かす。

「子どもの頃から今まで、『いい人』と思われることが私の信念だった。そのことばかり日記に書いてる。正しいことをしよう、良いことをしようと」

「すごいよテイラー。いい曲ができたね。そんな言葉が生きがいだった。認められて幸せ。それが全てだった」

そして、「認めてもらう」対象は、熱狂的なファンから名高い批評家、彼女への暴言を多く発してきたカニエ・ウェストなど、多岐に渡っていた。

2009年のMTVビデオ・ミュージック・アワードの授賞式で、テイラーは最優秀女性ビデオ賞を受賞した。しかし、スピーチの最中、カニエ・ウェストが突然ステージに乱入。「ビヨンセが真の受賞者だ」と主張した。この映像は、ドキュメンタリーにも組み込まれている。

カニエの態度はテイラーへのリスペクトを欠く、酷いものだったが、それでもテイラーは「角を立てずに賛同される姿勢」を貫こうとしていた。

テイラーのスピーチ中に乱入するカニエ・ウェスト。テイラーは困惑した様子で、佇んでいた。
テイラーのスピーチ中に乱入するカニエ・ウェスト。テイラーは困惑した様子で、佇んでいた。
Kevin Mazur via Getty Images

授賞式にいた観客は、ステージを降りたカニエにブーイングを送った。

しかし、人を喜ばせるために必死だった当時10代の彼女は、反射的にそのブーイングは自分に向けられたものだと感じたそうだ。

これについて彼女は、「記憶から消せない出来事」だと振り返っている。

この出来事は後に、現在の彼女が持つ、たくましい、『レピュテーション』の象徴でもある「ヘビ」のような強さに繋がっていく。

Don Arnold/TAS18 via Getty Images
Jun Sato/TAS18 via Getty Images

摂食障害に苦しんだ過去も明らかに

大きな成功者であると同時に30歳の女性でもあるテイラーは、自らのボディ・イメージにも苦しんできた。

彼女の体型は、時に悪意ある批評に晒される。自身の体型を気にするあまり、食事をとらずに運動するなど、摂食障害に陥ってしまったこともあるという。

「何かが引き金となることが多かったです。自分のお腹がちょっと大きくみえる写真を見たり、誰かに『妊娠中みたい』と言われると、それが引き金になってお腹が減っても何も食べなかった」

現在はポジティブな思考を保つよう努力しており、「今は食事は力の源で、強くしてくれるとわかってる。前ほど気にならなくなった」と語っていた。服のサイズも上がり、26歳で初めて食べたブリトーも、今は(罪悪感を感じずに)食べることができるようになったという。

「美しさの基準は一つじゃない」と話し、「すごく細かったら大きなお尻は手に入らない。大きなお尻を手に入れようと思ったら、どうしてもお腹が出る。(全ての“美”を手にするなんて)絶対に無理だから」と続けた。

母親のアンドレアの存在が、テイラーの大きな支えになっている。アンドレアは癌と戦いながら、娘の活動を間近でサポートしている。

「目が覚めました。自分の母親が医学療法で苦しんでいる隣で、『ネット上で嫌われている』なんていちいち気に病んでいられない」とテイラーは話していた。

テイラー・スウィフト(左)と母親のアンドレアさん(右)
テイラー・スウィフト(左)と母親のアンドレアさん(右)
Getty Image

『ミス・アメリカーナ』は、1月23日、米ユタ州で開かれたサンダンス映画祭でプレミア上映された。作品を見た1200人の観客は、自らの内面と向き合うテイラーの姿に惜しみない拍手を送った。

同作には、「あまり客観的な視点で描かれていない」という声も寄せられている。しかし、それでもいいのだろう。これは、テイラー・スウィフト本人の視点から見た、彼女自身の物語なのだから。

このドキュメンタリーが映すのは、16歳という若さでスターの世界に飛び込んだ若き女性の内なる葛藤であり、批判と賞賛の間で絶妙なバランスを取りながらも表現活動をつづけ、人の心に”強さ”を届けようとする、1人の女性の姿なのだ。

ハフポストUS版の記事を翻訳、編集、加筆しました。

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