東京都文京区目白台で1月8日午後、田中角栄・元首相の自宅だった住宅が全焼する火災があった。「目白御殿」と呼ばれる住宅の敷地内には、角栄氏の長女で元外相の田中真紀子氏と、夫で元防衛相の田中直紀氏がいたが、避難して無事だった。
警視庁の調べに、真紀子氏は「線香を上げていた」と説明しており、現場の状況からも出火原因は「線香の火」とみられているが、SNS上では「放火」や「火炎瓶が投げ込まれた」といった根拠不明の情報が拡散している。
線香やタバコの火種を起因する火災は、炎がない状態でもくすぶり続けることから「無炎燃焼」と呼ばれる。過去には死亡火災につながったケースがあり、注意が必要だ。
「目白御殿」火災の経緯を振り返る
火災は8日午後3時過ぎに発生し、木造2階建て住宅約800平方メートルを全焼、敷地内の平家住宅も一部焼けた。真紀子氏と直紀氏は平家住宅にいたが、避難してけがはなかった。
読売新聞によると、真紀子氏は8日昼頃、仏壇のろうそくにマッチで火をつけ、線香2本をあげたと説明したという。また、ろうそくの火は消したとしており、「窓ガラスが割れるような音がしたので、外を見たら煙が上がっていた」と話している。
真紀子氏の話や、住宅1階にある仏壇付近が激しく燃えていたことから、警視庁は「線香の火」が出火原因とみて調べている。
SNSで「放火」「火炎瓶が投げ込まれた」
一方、あるXユーザーが1月10日、「田中真紀子さん“仏壇に線香をあげた後にガラスが割れる音が…”」との見出しがつけられた日本テレビのニュースを引用し、「放火じゃん」と投稿。
11日午前9時現在、この投稿は604万件表示され、1.9万件の「いいね」が付くなど拡散しており、「火炎瓶が投げ込まれた」や「線香でここまでの火事にならない」、「線香でガラスは割れない」「100%放火」といったリプライが多数集まっている。
「何者かが住宅の敷地外から仏壇がある部屋に向かって火炎瓶を投げ込んだため、ガラスが割れて住宅も全焼した」といった趣旨で、なかには真紀子氏が2023年12月に開いた記者会見で政治資金問題などについて言及したことが原因だとするような投稿もあった。
しかし、火災から3日後の11日までに、不審者が目撃されたり、住宅敷地内から火炎瓶の破片が見つかったりしたという報道はなく、警視庁も「現時点で事件性はない」とみている。木造住宅が全焼している火災のため、外気と室内の温度に差が出て窓ガラスが割れることも十分あり得る。
このような根拠のない情報の拡散には十分な注意が必要だ。
過去には死者・全焼火災も
では、線香の火が原因で大規模火災に発展することはあるのか。東京消防庁は、お彼岸の時期に多く発生する火災として、「灯明、線香の取り扱いにご注意を!」と呼びかけている。
灯明、線香による火災は2013年〜17年、計182件発生しており(うち線香は63件)、死者2人、負傷者83人が出ている。全焼8件、半焼8件と大きく燃え広がることもあり、火災は正月に親族が集まることが多い1月(23件)が最も多く、お彼岸の3月(21件)、9月(18件)と続く。
線香が起因の火災で恐ろしいのは、「無炎燃焼」と呼ばれる燃焼形態だ。
堺市消防局(大阪府)よると、線香やタバコの火種を起因とする火災では、炎がない状態でもくすぶり続けることがあり、その燃焼形態を「無炎燃焼」という。火種が座布団など燃えやすいものに落ちた場合、時間をかけて無炎燃焼を継続し、風の吹き込みや他の可燃物に接触するなどして大きな火事になることがあるという。
一方、炎が見えないため、気づいた時には「大きく燃え広がっていた」ということになりかねない。郡山地方広域消防組合(福島県)が公開している実験動画でも、座布団の上に置いた線香(燃焼部分の温度は700〜800度)は約45分間で燃え尽きたが、その後も炎の出ない燃焼が続き、ついにはオレンジ色の炎が上がった。
同消防本部は、線香の近くに燃えやすいものを置かないようにし、使用後はすぐに捨てるのではなく、必ず水につけて消火を確認するよう注意喚起している。また、ろうそくや線香へ火をつける時は、衣服や可燃物に燃え移らないように気をつける必要があるとしている。