イスラム主義組織「タリバン」が8月15日、アフガニスタンの首都カブールの大統領府を掌握したとロイター通信などが報じた。タリバンは国内の主要都市をほぼ制圧しており、ガニ大統領は出国したという。
大統領府でまもなく「アフガニスタン・イスラム首長国」の樹立を宣言する予定だとタリバン関係者が述べたと、AP通信は報じている。これは2001年に米軍主導の連合軍によって政権が崩壊するまでタリバン政権が名乗っていたのと同じ国名だ。
なぜ、アフガニスタンでタリバンが復活したのか。どんな組織なのか、まとめてみた。
■タリバンは「神学生」の意味。もともとは学生団体だった
旧ソ連軍が撤退した1990年代のアフガニスタンは、支配権をめぐって各地で軍閥同士が武力衝突が絶えない内戦状態になっていた。そこに突如登場したのがタリバンだった。
タリバンはアラビア語「ターリブ」のペルシア語風の複数形で、「アッラー(神)の道を求める者たち」(神学生、求道者)を意味する。内戦でパキスタンの難民キャンプに逃れたパシュトゥーン人難民のうち、イスラム神学校(マドラサ)で宗教教育・軍事訓練を受けた学生・教師らで結成されたと言われている。最高指導者はオマル師だった。
1994年11月、南部の主要都市カンダハルを制圧したことでタリバンは鮮烈なデビューを飾った。「国内に平和と安全をもたらすためにイスラム神聖国家を樹立する」と宣言して、各地で軍閥を破って支配地域を拡大。96年9月には政府軍を破って首都カブールを制圧し、「アフガニスタン・イスラム首長国」の樹立を宣言した。
■ブルカ強制、テレビ禁止など厳格な統治。バーミヤンで大仏破壊も
タリバン率いる「アフガニスタン・イスラム首長国」は国土のほとんどを支配したものの、国際的な承認を得ることができなかった。承認したのは隣国パキスタンなどわずかな国にとどまった。
国際的に孤立しながらもタリバン政権は、住民に対して厳格なイスラム教信仰に基づいた生活を送ることを強制した。あごひげを生やさない男性や、頭や足首からすっぽり大きな布で覆う「ブルカ」を着ない女性を逮捕し、映画や音楽、テレビまでを禁止した。
公安調査庁によるとタリバンは、元々、欧米諸国に対して明確な敵意を持っていなかったが、1997年に国際テロ組織「アルカイダ」を率いるオサマ・ビン・ラディン氏らを保護下に入れた後、次第にその世界観に影響され、欧米諸国や国連に対し、ビン・ラディン氏の使う挑発的な言葉を用いた声明を出すようになった。
1998年9月には、イスラム教の偶像崇拝の禁止を徹底すべく、世界遺産に登録されていた中央部・バーミヤン州の仏教遺跡群の石像を一部破壊した。
■アメリカ主導の連合軍の攻撃で政権は崩壊も、麻薬ビジネスを資金源に生き残る
2001年9月にはアメリカで同時多発テロが発生。首謀者とみなされたビン・ラディン氏の身柄引渡しを拒否したため、アメリカ主導の連合軍は同年10月、アフガニスタンへの攻撃を開始した。同年12月に最後の拠点であるカンダハルが陥落し、タリバン政権は崩壊した。
しかし、タリバンの一部は国境に近いパキスタン北部に活動拠点を移して勢力を回復させるとともに、2002年には反政府勢力となって武装活動を再開。2005年以降は、自爆攻撃や即席爆発装置と呼ばれる手製爆弾の攻撃を採用して、アフガニスタン東部から南部にかけてテロを拡大させていった。
創設者のオマル師は2013年に死亡したが、その後も後継者が組織を維持していた。フォーブスによると、年間数億ドルにものぼるタリバンの主な収入源は「麻薬の製造と販売」とみられている。
■バイデン政権が米軍の全面撤退を発表
米軍は2011年にビン・ラディン氏を潜伏先のパキスタンで殺害した。その後も、治安維持のためにアフガニスタンに駐留し続けたことで、軍事費が重い負担になっていた。BBCはアメリカ国防総省からの情報として、2001年10月から2019年9月までのアフガニスタンでの総軍事費は7780億ドル(約85兆円)に達したと報じている。
2020年3月、トランプ大統領(当時)はタリバンとの和平合意に調印。米軍を完全撤退させる方針だったが、大幅削減にとどまっていた。
新しく就任したバイデン大統領は2021年4月、「米国史上最も長い戦争を終わらせる時だ」とテレビ演説した。同時多発テロから20年の節目となる9月11日までに、アフガン駐留米軍を完全撤退させると表明した。これを受けて5月以降、タリバンが攻勢を開始してアフガニスタンの支配地を広げていった。
朝日新聞デジタルによると、バイデン大統領は7月8日、ベトナム戦争当時の米軍撤退との類似点を記者団に問われた。バイデン大統領は「(1975年のサイゴン陥落時のように)アフガニスタンの米国大使館屋上から人々を救出するような状況では全くない」と反論。「タリバンが全土を支配する可能性は非常に低い」と語っていた。
しかし、実際には首都カブールをタリバンの軍勢が包囲する中で、米国大使館員はサイゴンと同様にヘリコプターで脱出することになった。
■タリバン政権復活で人権はどうなる?スマホ禁止の報道も
タリバンは国際社会からの視線を意識したのか、路線を修正。幹部のハッカニ師が「イスラム教が許容する範囲で、労働など女性の権利の平等」を認めるとニューヨーク・タイムズに寄稿した。
時事通信の取材に広報担当幹部が2021年8月、日本政府が育成を支援してきた女性警官を含め、女性の政府職員についてアフガン社会に「必要だ」と認める見解を示した。
しかし、こうした言葉が実現されるかは未知数だ。
ワシントンポストでは、支配地域でタリバンが住民に課している制限は、女性のブルカ、男性の長いひげ、モスクでの礼拝の強制など、1990年後半の彼らの支配を思い起こさせると報じている。
さらにバルフ州の若い女性からの情報として、スマートフォンは完全に禁止されており、国外の家族とのコミュニケーションが厳しく制限されているほか、パンデミックの影響で生徒が教師とつながることが制限されているとした。
【参考資料】
・「国家存立の危機か:アフガニスタンとパキスタン」 - JETRO
・タリバン | 国際テロリズム要覧2020 - 公安調査庁
・タリバーン - コトバンク
・タリバン - コトバンク
・アフガニスタンの現状と問題 - 外務省
・田中宇『タリバン』( 光文社新書)