"タイツをはけばちょっと大丈夫。ロングスカートのほうが安心感がある。ミニスカート、とくにひざ丈だととても怖い" ダイアナはスカートをはくことについて私にそう言いました。
ダイアナは大学時代の友人です。彼女は元気がよく、表情豊かな目をくるくるさせながらよく笑う可愛らしい女性です。女優を目指しボストンの金融関係の職を辞め9年前にロスに引っ越しました。彼女は8年前に性暴力の被害にあいました。
4月はアメリカではSexual Assault Awareness Month(性暴力意識向上月間)です。性暴力の後遺症でスカートをはくのが怖くなってしまったダイアナは4月毎日スカートをはき自分のSNSに #takebacktheskirt (#スカートを取り戻そう)としてスカート写真を毎日投稿することにしたそうです。
私はこのブログを英訳してダイアナに許可をとって投稿しました。
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8年前のその夜は当時好きだった男性と口論をしてしまい、ダイアナはむしゃくしゃしている気持ちのまま女友達数人とクラブに出かけた。口論の原因は取るに足らないようなことで、ダイアナはその男性と本当は出かけたかったのだが、彼は外出したくない、といったことだった。
服装はちょっとドキドキするようなピタっとしたネイビーブルーのひざ丈ドレス。ダイアナはおしゃれ好きな可愛らしい女性だが、体のラインの出る服などには気後れしてしまいがちなタイプだ。けれどこのドレスに関しては自分でも嬉しくなるような手ごたえを感じられる服だった。このドレスを着るのがその夜で2回目のことだった。
クラブで知らない男と出会った。2人はおしゃべりし、踊り、お酒を飲んで意気投合した。彼がダイアナをサイドドアから外に連れ出した。彼女は酔っぱらっていた。
ダイアナはその夜の記憶をフラッシュの閃光の連続のように途切れ途切れに覚えている。サイドドアから出たクラブの外は暗い路地裏で彼はダイアナを駐車してあった白いバンの影に連れ込み2人はキスをした。
突然彼はダイアナの体を回転させ、彼女は体ごと壁に押し付けられた。驚きで何が起こっているかわからなかった。幽体離脱のように意識が体から離れ真っ二つに裂けていくような気がし体の感覚がなくなった。どれくらい時がたったのかダイアナにはわからない。ダイアナの目のはしに白い人影が写った。我に返りダイアナはその男から逃れた。ネイビーブルーのドレスはぐちゃぐちゃにウエストのあたりにまとまっていた。震えが止まらない。ダイアナはレイプされたのだ。
どうやって家に帰ったかは覚えていない。次の覚えているのは着用していたタンポンがまだ体内に残っていることを家で確認したことだった。
ダイアナは親しい友人に打ち明けた。友人たちは同情的だったが皆困ったような顔をした。ダイアナはこのことに関して友人に相談することに引け目を感じ羞恥心、罪悪感に一人で耐えた。孤独だった。ある時友人の一人が"彼だってそんなつもりじゃなかったのよ"といった。この言葉は彼女を混乱の闇に落としていった。また他の友人は"酔っぱらってたんでしょう。。もういい加減にしなさいよ。"といった。それは深く彼女の心に突き刺さった。
スカートを好んではいていたダイアナはスカートをはくのが怖くなった。考えないようにダイアナは仕事に没頭した。涙が出て止まらない、息ができなくなる、というパニック障害を起こすようになった。彼女は不眠症になり大量に飲酒して眠りにつくようになった。自分の姿を鏡で見るのが怖くなった。
半年ほどたったころダイアナは友人に半ば強制的にカウンセリングを受けさせられた。そして8年たった今年1月に自分の体験、その後の8年間について一人芝居 "SHATTERED" (粉々) を書き下ろしロスで公演活動を始めた。痛みはある。でも痛みと共に生きていく術を学んだ、今でも学んでいる、と彼女はいった。
性暴力に対する警察通報率は低い。統計によるとアメリカでは1000件のうち310件のレイプしか通報されない(https://www.rainn.org/)。ダイアナも警察に通報しなかった。ダイアナは当時をサバイバルモードだった、と思い出す。生きるためだけに生きていた。
ダイアナはその夜のことを何度も頭の中でプレイバックしたという。こうすればよかったのか、ああすればよかったのか、スカートをはいていなかったら、お酒を飲んでいなかったら、出かけていなかったら、あの夜の自分の行動が違っていたら、自分は巻き込まれなかったかもしれない、だか"あの男"がクラブに来ていれば、違うだれかに起きていただろう、という。スカートではない、お酒ではない。あの男がしたことだ。
4月4日から毎日スカートを履いて写真を#takebacktheskirt(#スカートを取り戻そう)と共に自分のSNSに投稿している。スカートの写真をSNSに投稿し始めて以来、毎日が精神ジェットコースターだと言う。またあの夜の悪夢をみるようになった。自分の中に閉じ込めていた多くの感情が蘇ってきてつらい、と彼女はいった。しかし一人で抱え込んでいるときのほうがもっと辛かった。彼女は長い間、恐怖、羞恥心、沈黙に縛られていた。だから自分の体験を話し始めた。話をすることによって、それらのものから少しづつ解放されていく気がする、という。
ダイアナは一生この傷が癒えることがないことに気づいている。でも彼女は戦っている。#takebacktheskirt(#スカートを取り戻そう)スカートのせいではない。スカートをはいても大丈夫だ。ダイアナは8年前に失われた "自分らしさ" を取り戻そうとしている。
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レイプとは誰にでもおこりえることだと思います。状況、性別を問わず無理やり体を犯された心の傷は計り知れないものだと思います。このブログを書くにあたりダイアナとたくさんの話をしました。彼女は私に言いました。"つらい時はたくさんあるけれど同じように苦しんでいる人に、「私は元気に頑張っています」と伝えたい。一人じゃない、そしてレイプの後でも第2の人生を始められことを伝えたい"と。
ダイアナの #takebacktheskirt (#スカートを取り戻そう) SNSはこちらから見られます。