その作品の名前は「お金をもらってドロンする」。デンマークの美術館に展示されている、2枚の何も描かれていない作品が話題になっている。
作品には事前にアーティストに制作のための準備金が支払われていたが、届いた作品は真っ白いキャンバスだった。
アーティストは「これは契約の不履行であり、作品の一部」と述べている。
届いたのは何も描かれていないキャンバス
作品は、デンマークのオールボーにあるクンステン美術館で9月24日に始まった、労働とアートをテーマにした展覧会「Work It Out」で展示されている。
手がけたのはデンマークのアーティスト、イエンス・ハーニング氏。
展覧会に先立ち、クンステン美術館はハーニング氏に、同氏の過去の作品「デンマーク人の平均年収」と「オーストリア人の平均年収」を再現するよう依頼した。
作品は、両国の平均年収を実際の紙幣を使って表現したもので、美術館は報酬とは別に、作品に必要な8万4000ドル(約940万円)をハーニング氏に支払った。
ところが、展覧会の数日前にハーニング氏から送られてきたのは、何も描かれていない2つのキャンバス。紙幣はどこにも見当たらなかった。
クンステン美術館のラッセ・アンダーソン館長は、作品を見て思わず笑ってしまったという。
「イエンスは、ユーモアのあるコンセプチュアルアートや活動家的なアートで知られています。今回の作品もそうです。しかし私たち全員、お金はどこにいったのだろうと考えさせられました」とCBSに述べている。
ハーニング氏はメールで、過去の作品よりも「新しい作品を作った方が、より興味を引くだろうと思った」と説明したという。
労働条件への批判
お金だけもらって制作放棄したようにも見えるものの、「お金をもらってドロンする」はハーニング氏にとって、労働条件への批判を込めた作品だという。
アートネットによると、同氏はデンマークのラジオ番組で「これは盗みではなく、契約の不履行です。そして契約の不履行は、作品の一部なのです」と語っている。
同氏は、美術館からの報酬が少なかったことから、作品のインスピレーションを得たという。
「私と同じようにひどい労働条件のもとで働かされている人たちにも、同じ行動をとるようお勧めします。ひどい仕事をさせられてお金を支払われていない、もしくは仕事に行くためにお金を支払うように求められているのであれば、奪えるものを奪って逃げたほうがいい」と説明している。
これもまたアート。でもお金は返してもらう
当初予定したものとは異なる作品が届いたものの、美術館側はこれもアート作品と捉えて、何も描かれていないキャンバスを展示することにした。
アンダーソン館長は「私たちが約束した作品ではありませんでしたが、これは新しくて興味深い作品です」とNPRに話している。
ただし、貸し付けたお金は返してもらうつもりだ。契約上、作品に使われるはずだったお金は、展覧会が終了する2022年1月16日までに返済されることになっている。
アンダーソン館長は「8万4000ドルはイエンスのものではありません。展示会が終了した2022年1月16日には返済してもらわなければならない」とCBSに述べ、返済されない場合は、必要な手続きを取る考えも示している。