昨年5月、台湾の司法最高機関である大法官で「同性どうしの婚姻を認めていない民法は違憲」と判断され、2年以内に民法の改正か、新しい法律を作らなければならないと指示された。
同性婚合法化という歴史的な判断から約1年。事態は予期せぬ方向へ進んでいる。
この動きに反対する団体が、婚姻の平等化を阻止するための「3つの国民投票案」を提出してきたのだ。
台湾で婚姻平等化運動を進めている「台湾伴侶権益推動聯盟」のメンバーらが東京レインボープライドに合わせて来日し、日本のLGBT自治体議員連盟と対談。台湾の現状を報告した。
3つの国民投票案
提出された国民投票の投票事項は以下の3つ
1、あなたは民法の婚姻規定が一男一女の結合に限定されるべきであることに同意しますか。
2、あなたは民法の婚姻規定以外の方法によって同じ性別のカップルの永続的共同生活にかかわる権利を保障することに賛同しますか。
3、あなたは義務教育の段階(中学及び小学校)で、教育省および各レベルの学校が生徒に対してジェンダー平等教育法施行細則所定のLGBT教育を実施すべきではないことに同意しますか。
つまり、「①婚姻は男女のカップルのみに適用され、②同性カップルは別の形で共同生活の権利を保障しよう。③義務教育でLGBTに関する教育を行うのは不適切だ」ということに同意するかという意味だ。
台湾伴侶権益推動聯盟の邱さんは「台湾政府がこの3つの国民投票案を合憲と捉えて手続きを進めてしまっていることが残念です」と話す。
「LGBT関連団体は強く反対していて、私たちも反対署名を集める運動を進めています。行政訴訟を起こす準備もできています」。
同団体の簡さんは「これは憲法秩序を破壊する暴挙だと思っています」。
「投票事項の1と2を見ればわかりますが、これは明らかに同性間のパートナーシップを『婚姻』から排除することが目的です。これは明らかに大法官解釈に反する投票案です」。
採択の実現は難しいと思うが、油断はできない
国民投票は、有権者の1/4以上が投票し、過半数が賛成すれば採択される。今回の国民投票案が11月20日の統一地方選挙に合わせて実施されるよう提出されているのも、有権者が多く投票にいくタイミングにぶつけてきたからだという。
「採択の実現は難しいと思うが油断はできない」と話すのは、同団体理事長の許(キョ)さん。
「まだまだ台湾では、実際にLGBTの人と出会ったことがあるという人は多くないため、ネガティブキャンペーンで意識が変わってしまう可能性はあります。他国の同性婚に関する国民投票を見ると、世論調査より実際の投票時は賛成派の数が下がっている。台湾での世論調査も婚姻平等化への賛成は半数くらいなので、油断はできません」。
反対運動を起こしている団体の中心はキリスト教系の団体だ。
「とてもお金があり、宣伝の物量ではかないません。婚姻平等化に反対するために起こしたデモの際は、台湾の5大紙全てに意見広告を出し、1日で1000万円以上使っているのです。さらに現在はテレビでも婚姻の平等に反対するCMを流しています。
今回の国民投票案は、そもそもこういった質問で賛否をとること自体が不公平です。さらに、潤沢な資金をもとにした宣伝によって、差別を流布させる機会を国が与えてしまっているのはおかしい」。
台湾でHIVに関する啓発を行っている林さんによると、反対運動ではHIVを理由に挙げられてしまうことがよくあるという。
「彼らは『同性婚はHIVの感染を広げ、社会に脅威を与える』と言って反対しているんです。
また、私たちは学校で性教育の話をしていますが、彼らは私たちの活動を妨害しようともしてきます。『性については小学校中学校で教える必要はない、大人になると勝手に学ぶ』と言い、HIVに対する差別や偏見を助長しているのです」。
婚姻平等化は未だプロセスの中
「日本からできることは何か」という質問に対して「一番は金銭的な支援だ」と話す許(キョ)さん。
「婚姻平等化運動はゴールがあるわけではなく、つねにプロセスの中にあり、反対派との戦いは続きます。確かに去年の憲法判断は私たちの希望する通りになりましたが、それを具体化する政府の責任は果たされていません。
(2年以内に同性婚を認めるよう民法の改正か、新法をつくるという)憲法判断からまだ1年しか経っていませんが、その間に少なからず同性カップルの一方が病気で亡くなってしまったり、法的な権利が必要な場面に置かれています。しかし、その人たちは救済されていません。LGBTにとって2年は短い時間ではないのです。
今私たちが取り組もうとしているのは、ひとつは国民投票自体をストップさせること、もうひとつは国民全体に婚姻平等化の理解を深めてもらうための種を蒔き続けることです。
台湾が平等を達成することは日本にも影響があると思うので、ぜひ賛同や支援をお願いします」。
本来、婚姻の平等は「認める/認めない」という議論ではなく「人権」として保障されるべき問題だ。さらに、マイノリティの人権が多数決で決められてしまうというのは非常に不公平とも言える。
「アジア初の同性婚」と賞賛された台湾で起こる不穏な空気に対して日本からできる支援を考えたい。
(2018年5月2日fairより転載)