今後も成長が予測されるeコマース市場で、ある企業が大きな一歩を踏み出した。
広告配信プラットフォームやコンテンツ・リコメンデーション技術を提供する会社として業界トップクラスのシェアを誇るTaboola(タブーラ)だ。
同社は、今年2021年6月30日、NASDAQ市場に上場。それから間を置かず、7月23日にはeコマースサイトに広告配信プラットフォームを提供するConnexityを8億ドルで買収することを発表した。
今回はConnexity買収の経緯と、背後にあるeコマース市場を見据えた戦略、そして日本市場での展望について、タブーラ創業者兼CEOのAdam Singolda(アダム・シンゴルダ)氏に話を聞いた。
上場・買収は9000のパブリッシャーにとっても大きな転機に
━━ NASDAQへの上場から2ヶ月、現状はいかがですか?
アダム・シンゴルダ(以下アダム):非常にエキサイティングな状態です。NASDAQにおいて世界中のオープンウェブやパブリッシャーに向けてベルを鳴らす瞬間は興奮しました。14年前に両親の家を出てタブーラを創業し、今日に至るわけですが、母はこの瞬間に向けてイスラエルからニューヨークまで飛んできたほどです。
今回の上場は、新たな出発となります。世界には検索サービスのGoogleや、ソーシャルプラットフォームのFacebook、LINE、WeChatといった企業がありますが、私たちはあくまでパブリッシャー向けビジネスに注力しています。この上場とConnexity買収は、タブーラだけでなく、世界の9000のパブリッシャーにとっても大きな転機になると思います。
すべてのコンテンツ・デバイスにリコメンドを
━━ 上場によってどのような変化がありましたか?
アダム: まず、年間1億ドルの膨大な研究開発(R&D)投資を発表しました。これはパブリッシャーが必要とする技術の開発が目的です。例えばニュースの編集チームが効果的なクリエイティブを用意するのを助けたり、AIを使ったコンテンツの運用を実現したりする技術です。
━━ 大規模なR&Dの先にはどんな未来が待っているのでしょうか?
アダム:すべてのコンテンツに対してリコメンドを提供し、さらにそれをどこでも利用できるようにすることがタブーラの目標です。
将来的に、タブーラのリコメンデーションは、アプリケーションやゲーム、様々な動画に登場するでしょう。そしてそれが、あらゆるAndroidデバイスやTV、さらには自動車といったところでも利用できるようになります。
パブリッシャーがAmazonや楽天に対抗できる?
━━ Connexity買収も大きな変化だと思いますが、eコマース市場にはどのような可能性を感じていますか?
アダム: eコマースは、オープンウェブとインターネットの未来にとって非常に重要だと考えています。新型コロナウイルスで、人々は家で働くようになり、買い物はデジタル化が進みました。こういったオンラインシフトは過去には例のないものです。
例えば米国でのeコマース市場は3500億ドル(約38兆円)となっています。日本における2020年の市場規模は19兆円で、2025年までには25兆円市場になるといわれています。
これは、パブリッシャーにとっても大きなチャンスです。eコマース領域で、Amazonや楽天などの大手サイトに対抗できるかもしれません。パブリッシャーが人々に愛され、信頼されていた場合、ある製品の紹介記事を書けば、読者はそれを“買い”の商品だと考えるでしょう。タブーラの目標はパブリッシャーの売上を支援することですから、私たち自身のメリットにもなります。
そして、Connexityは世界のeコマースサービスの最大手で、業界経験は10年以上におよびます。顧客にはSkechers、Walmart、eBayなどがあり、全部で6000のパブリッシャーを抱えています。業界大手2社のタッグに非常にわくわくしています。
オープンウェブ上のeコマースの可能性が広がる
━━ タブーラとConnexityのタッグで、何が変わるのでしょうか?
アダム:まず、Connexityを利用する店舗がタブーラの既存のパブリッシャー向けフィードに参加できるようになります。具体的には、記事の内容に関連した商品が自動的にフィード上に出現し、適切なeコマース体験を提供します。これが最初のステップです。
2つめはグローバル展開です。現在、このサービスは米国、英国、ドイツに限られますが、順次世界に展開していきます。タブーラでは現在売上の50%以上が米国外で、米国内は40%台に過ぎません。つまり、すでにグローバル企業ではありますが、私たちの抱えるパブリッシャーへのアクセスをConnexityに提供することで、その顧客もまたグローバルになるというわけです。
━━ Connexityは具体的に何ができるのでしょうか?
アダム:Connexityが提供するサービスは2つです。1つは記事上に製品を表示すること。例えば米国の例ですが、WIRED、The New York Times、CNNといったサイト上に、こうした情報が出現します。2つめは、パブリッシャーのサイト上にeコマース用のセクションを作ることです。パブリッシャーはサブドメイン上で、集めた商品を並べたサイト構築が可能になります。
その先のステップは、タブーラのデータをConnexityのサービスで活用することです。私たちはニュースやエンターテインメントのサイトと提携していますが、eコマースのサイトとはまだ連携できていません。この連携が進めば、既存のパブリッシャーがeコマースを運用する際にシナジー効果が得られます。その実現のためには、今後5〜10年を見据えた準備が必要です。ただ、パブリッシャーがコンシューマの信頼を得るチャンスになり、収益拡大につながると信じていますから、非常に楽しみにしています。
リーチはYouTube、Twitter、Instagramに次いで4番目
━━ 日本市場でのタブーラの展望について教えてください。
アダム:日本はアジア太平洋地域における2番目に大きな市場です。急成長している市場でもあり、タブーラ・ジャパンの年間成長率も180%となっています。
ニールセンとの共同調査によれば、コンシューマへのリーチはYouTube、Twitter、Instagramに次いで4番目。タブーラの後にはFacebook、SmartNews、TikTokと続きます。つまり、日本の企業や広告主にとって、タブーラは非常に大きなコンシューマへの接点なのです。日本でのパートナーは産経新聞、macaroniといった企業のほか、最近ではNTTドコモ、KDDI、Business Insiderの獲得に成功しています。
このほか日本での注力ポイントとしては、動画市場の成長です。国内におけるタブーラの動画広告配信ボリュームは前年比で200%以上増加しています。タブーラでは、様々な動画市場での戦略を策定しています。例えば、現在、記事の末尾にあるタブーラのフィードを、記事の中ほどや独立したセクションにすべく動いていますが、これは動画広告にとって好影響をもたらします。さらに、タブーラの設ける動画広告は他のSNSやプレロールのプレイスメントよりも30%も注視されやすいという調査結果もあり、動画の広告主にとっても、タブーラは適した場所と言えるでしょう。
━━ 日本のeコマース市場についてはどうですか?
アダム:日本には、Amazonと楽天という2つの大きなeコマースプラットフォームがあります。タブーラはオープンウェブの観点からAmazonの代替となり得るうえ、さらにパブリッシャーにとってはすべてのeコマースブランドの代替になる可能性を秘めています。もちろん、Connexityの日本市場での拡大にも期待しています。
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タブーラとConnexityのタッグによって、オープンウェブにおけるeコマース市場の成長はさらに加速するかもしれない。
今後ますます進化していくタブーラとConnexityのサービスに、世界中のパブリッシャーから大きな期待が集まりそうだ。
(インタビュー・訳:鈴木淳也、文・編集:Murai)