2023年上半期にハフポスト日本版で反響の大きかった記事をご紹介しています。(初出:1月15日)
宮崎駿監督の傑作『風の谷のナウシカ』が、7月7日に金曜ロードショーで放送される。有毒ガスを放つ「腐海」と呼ばれる菌類の森が人類を脅かしている世界が舞台となっているが、実はこの「腐海」。実在する地名なのだ。
悪臭を放つ干潟と、ピンク色の湖。一度は見てみたいと思わせる非日常的な光景が広がっているが、2023年6月現在は、日本政府も渡航自粛を推奨している。
なぜなら腐海があるのは、戦時下のウクライナ。それも、ロシアが2014年から実効支配しているクリミア半島にあるからだ。
■実在する「腐海」の由来とは?
ブリタニカ百科事典のオンライン版によると、ウクライナの「腐海」はクリミア半島の付け根に当たる部分にある約2560平方キロにもなる広大な入り江で、非常に強い塩分を含んでおり、塩田による塩の採掘で有名だという。
「腐海」という名称は、夏に強い匂いを放つことから名付けられた。平野高志さんの『ウクライナ・ファンブック』(パブリブ)では、以下のように解説している。
「腐海という地名は、ウクライナ南部のヘルソン州とクリミアの間によこたわる湿地に名付けられている。この湿地は、最深部で3メートルと浅く、また水の流れが悪いため、夏に熱されることで強いにおいを放つ」
この本によると、クリミア半島の先住民であるクリミア・タタール人が、「泥」を意味する「スィヴァシュ」(ウクライナ語だとスィヴァーシュ)と名付けた。更にその強い匂いから「腐った海/腐海」を意味する「チュリック・デニズ」(ウクライナ語だとフニレー・モーレ)との別名を与えたという。これを受けて日本語でも「腐海」と呼ばれている。
また、この「腐海」や周辺の湖は、季節によってピンク色に染まることがあり、幻想的な風景を生み出すことで知られている。
ハーバード大学の「Imperiiaプロジェクト」によると、匂いは塩水湖に特有のエビに似た生物「アルテミア」(日本ではシーモンキーと呼ばれることもある)。ピンク色は、強い塩分を好む「高度好塩菌」によるものだと指摘している。
■宮崎駿監督「すごい言葉だと思った」
この「腐海」の存在にインスピレーションを受けた宮崎監督が、『風の谷のナウシカ』に登場する有毒の森の名前として採用したのだった。
『風の谷のナウシカ―宮崎駿水彩画集 』(徳間書店)に掲載されたインタビューで、次のように述べている。
「実は、この<腐海>というのは、実際にそういう土地があるんです。シュワージュという、クリミア半島(またはクリム半島=ウクライナ南部)の付け根にある土地です。それにすごく興味をひかれていたんですね。海が後退して沼沢地帯に広がっていて、アルカリ分が強いのでしょう、一種不毛の地らしい。行ったことはありませんが、その一帯がシュワージュ(腐った海)と呼ばれているというのを何かで読んだときに、すごい言葉だと思った」