舞台はイランの首都・テヘランの少女更生施設。
収容されている少女たちが犯した罪は、殺人、強盗、違法薬物使用ーー。
イランの少女更生施設のドキュメンタリー映画『少女は夜明けに夢をみる』が11月2日、日本で公開された。
少女たちはなぜ罪を犯してしまったのか。作品では、彼女たちの言葉で明らかにされていく。
貧困や家族からの虐待や性的暴行ーー。罪の背景にある社会の暗闇が映し出される。
メヘルダード・オスコウイ監督は「少女たちの物語は、イランだけではなく世界中で起こっている」と私たちに語りかける。
浮浪罪で収容された少女・ハーテレ。父親はコカイン依存症で、母親からは虐待を受けていた。叔父から性的虐待をきっかけに、家出をしたという。
オスコウイ監督は、そんな彼女にカメラを向け、質問をしていく。
監督「君の夢は?」 ーー ハーテレ「死ぬこと」
監督「まだ若いのになぜ?」 ーー ハーテレ「疲れたの」
監督「何に?」 ーー ハーテレ「生きることに」
他の少女たちも、ハーテレのように、カメラの前で自らの境遇を語っていく。
監督によると、施設で出会ったほとんどの少女たちが過去、トラウマとなるような性体験や男性によって傷付けられた経験を持っていたという。
そのため、撮影では少女たちとの信頼関係を最優先した。彼女たちがカメラの前で居心地が悪そうにしていたらすぐに撮影を中断するようにしたと振り返る。
塀の内側は「安心できる場所」
映画で印象的なのは、意外にも少女たちの明るい表情だ。雪合戦をしたり、歌を歌ったり、ふざけあったりする少女たちの様子は、観る者にそこが更生施設だということを忘れさせる。
厚い壁に囲まれた施設は暗くて閉鎖的だが、少女たちにとってこの場所は「同じ傷を持つ仲間とともに安心して過ごせる場所」なのだと監督は言う。それほどに「外」の世界は、彼女たちにとって過酷なものなのだ、と。
日本では、少年院を出た少年(少女も含む)が再び非行・犯罪に手を染める傾向が問題となっている。法務省が発表した2018年版の犯罪白書によると、少年院を出てから5年以内に再び少年院もしくは刑務所に入った少年の割合は21.6%にも及ぶ。
映画に出てくる彼女たちは退所後、どうなったのか。尋ねると、監督は表情を曇らせた。イランでも更生施設を出た少年少女たちの再犯は問題になっているのだという。
「少女の数人はサポートを得て、大学に行きました。でも、ほとんどの少女は、どこで何をしているかわからないのです。残念ながら、またドラッグに手を染め、路上で亡くなった少女もいるとも関係者から聞きました」
監督によると、イランには更生施設出所後、少女たちの社会復帰をサポートする団体や仕組みがほとんど無いのだという。
「更生施設と社会の間に、少女たちをサポートする場所を作らないといけないと感じます。サポート団体やサポートファミリーのようなものをもっと充実させなければ、この悪循環は続くと思う」と監督は語る。
インタビューの最後、監督は「イランの少女たちの物語は、世界で起こっている物語でもある」と訴え、日本の観客にメッセージを送った。
「あなたの国にも、こんな少女たちがいるかもしれない。彼女たちのことを見てください。そして助けてください。もし一人一人が努力すれば、苦しい状況にある少女たちが少しでも救われるかもしれないから」