昨今、"日本酒離れ"が進んでいることを耳にした方は少なくないはず。実態として、国内の消費量は1975年度の167万キロリットルから、2015年度は55万キロリットルと減少。クラフトビールやハイボールなどお酒の種類が増えているうえ、若者の「アルコール離れ」もあります。
そんな中、埼玉県久喜市にある老舗の「寒梅酒造」がユニークな日本酒を売り出し、4日間で1000本完売したことが話題となっています。
ポイントはお酒のネーミング。その名も「鈴木」。
作り手は寒梅酒造の30代の杜氏、鈴木隆広さん。ラベルの字は書道家・鈴木猛利さんが書きました。
全国の鈴木さんたちが「普段あまり日本酒飲まないですが、鈴木なので買いました!」と注文したのです。まさに、鈴木さんによる、鈴木さんのための日本酒。
鈴木隆広さんはクラウドファンディングをつかってお金をあつめました。その鈴木さんと、共同でプロジェクトを実施したリカー・イノベーション株式会社の辻本翔さん、そして資金集めを手伝ったMakuakeキュレーターの森、3人に「鈴木」について語ってもらいました。
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―プロジェクト終了から半年経った今も話題に上る日本酒「鈴木」、振り返ってみていかがですか?
Makuakeキュレーター・森(以下、森):
『鈴木さんの鈴木さんによる鈴木さんのための日本酒「鈴木」』と、かなりキャッチーなプロジェクトでしたよね。
寒梅酒造・鈴木さん(以下、鈴木):最初は「鈴木」という名前ではなかったんですよ。私、鈴木隆広っていう名前なので「すずたか」という日本酒になる予定だったのです。
リカー・イノベーション株式会社・辻本さん(以下、辻本):
杜氏である鈴木さんにスポットのあたる日本酒づくりの企画にする予定で、日本酒名もそれに合う名前にしようと考えていたんです。鈴木さんには、当初の「すずたか」案を気に入っていただけていたのですが、それだと手にとってもらう人のことを考えた時に、あんまりキャッチーじゃないなぁと思いまして...笑
森:「Makuake」にプロジェクト実施のご相談をいただいた時も、身内ノリで終わらせないよう思い切りエッジを効かせてキャッチーにするか、お酒作りの丁寧さやこだわりをしっかりアピールしないといけない、というご提案はさせていただきましたよね。
辻本:はい、森さんに親身に相談に乗っていただいて。改めて議論した結果、全国で2番目に多いと言われる名字でもある、鈴木さんご自身の名前「鈴木」と名付けることで、鈴木さんご自身の想いや志を含めて、最高の日本酒を届けましょうと。
―なるほど。そのような経緯があって、全国の鈴木さんのための日本酒になっていったのですね。
辻本:「鈴木」のキャッチーさで目に止めてもらい、ただ、中身(お酒)はしっかりしているところがきちんと伝わるよう、支援者へ向けたMakuakeのプロジェクトページは丁寧に作成していきました。一見ネタっぽい感じだけど、内容は本気、というギャップを狙っていました。そのギャップが功を奏したのか、大手メディアに掲載していただいたこともあり、プロジェクト開始4日で支援総額は300万円を超え、準備していたリターンは完売。実際に支援してくださった方々のうち60~70%が「鈴木」さんからのご支援だったことは嬉しかったですね。
-「Makuake」ではこれまでに1,000件以上の新しいモノ作りがプロジェクトとして始まっていますが、特にクラウドファンディングで成功するモノづくりのポイントは何かあるのでしょうか?
森:「Makuake」では日本酒に関して言うと70件以上のプロジェクト実施実績がありますが、伸びるプロジェクトの共通点として、コンセプトづくりって非常に重要だなと感じています。いかに伝えるポイントを絞っていくかが大事ですね。
辻本:メッセージを絞ることによって、伝わりやすくなりますよね。今回も多数メディアに掲載いただいたことで話題になり、お問い合わせをたくさんいただきました。
鈴木:売り切れてしまった今も、「"鈴木"はどこで買えるんですか?」とお問い合わせがくることがまだまだあるんですよ。次はどんなお酒を造ったら驚いてもらえるかなと、革新の原動力にもなりますね。
辻本:実際にプロジェクトの好評を受けて、我々の運営する日本酒の定期購入サービス「KURAND CLUB」にて第2弾となる「鈴木」を特別限定酒として昨年末までにお届けさせていただきました。
-今回のチャレンジを通じて、新たな気付きもあったそうですね。
辻本:はい。通常、店舗での購買層となる一般的な日本酒好きのボリューム層(30代男性)だけでなく、女性支援者が40%もいたのが印象的でした。コミュニケーションページやSNSにも、「普段あまり日本酒飲まないですが、鈴木なので買いました!」とか、支援者ご自身は「鈴木」ではないけれど、友人の鈴木さんへプレゼントに買うといった行動も見られ、普段日本酒を飲まれない方からの支援が多かったようです。新しい顧客層も掴めた感覚があって。20代の支援者も多く、若年層が日本酒に興味関心を持ってくれるきっかけにもなったのかな、と感じています。
鈴木:お酒づくりの段階から、応援コメントをいただけたことで、励みにもなりましたし、期待度の高さをリアルに感じることができたので、いつも以上に気を引き締めてお酒づくりに取り組むことができました。
辻本:資金繰りの面でも、本来はお酒を作る段階で先にお金が出ていくものですが、クラウドファンディングによる支援状況で生産量を決めてから、お酒づくりを始められるので非常に良い点だと思います。市場、消費者の反応を見ながらモノづくりができるという。酒屋の立場からしても、事前に生産量が決まっているのはありがたいです。あと、有名銘柄だと先行予約によって資金が集まるかもしれないですが、有名なものでなくともアピールして際立たせられるので、今後も様々な企画を立てて挑戦し、日本酒業界を土台から盛り上げていきたいですね。
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日本酒競争を勝ち抜いた理由は、まさかの「ネーミング」。新しい顧客を掴むために必要なのは、メッセージを絞ることでした。今回のプロジェクトで寒梅酒造・鈴木杜氏のファンになった支援者の方々も、今後の挑戦を待ち遠しく感じていることでしょう。