本年3月中旬、米国ワシントンDCの米国風力エネルギー協会(American Wind Energy Association(AWEA))を訪問し、トランプ政権での風力産業動向に関してヒアリングを行った。本稿はその後編。
(3)風力発電の立地に係る地元との関係は?
風力発電所が立地されている殆ど地域では、これらの施設の設置は歓迎されている。米国の風力発電設備容量を地域別に見てみると、下の図の通り。
例えば、米国中部の風力発電適地にとっては、農業従事者が臨時収入を得たり、風力発電に関連した雇用が生まれる機会になる。農業は収入が不安定な業態なので、風力発電所の誘致によって収入が補填されることが大きな利点との見方もある。
風力発電所に限ったことではないが、自分の住んでいる所の近くにはプラントを設置するなとの声はしばしば出される。風力発電所の立地に関しても、そういう場合には、人間の住んでいない場所に変更する。実際には、風力発電所の99%は、人間の住んでいない場所に建設されている。
風力発電事業者は、建設する何年も前から建設予定地域に入って地元関係者との合意形成を図る。成功する風力発電所のいずれも、地元合意が前提となってきた。
(4)風力発電を更に拡大していく際の課題は?
米国で風力発電など再エネ利用が伸びてきているのは、再エネ発電のコスト低下や石炭火力発電のコスト上昇だけでない。やはり、公的支援措置の存在が大きい。これらがなければ、再エネ発電は今のように普及してこなかっただろう。
米国では過半数の29州でRPSが導入されており、これが風力発電の導入促進に大きな役割を果たしてきた。因みに、FIT(固定価格買取制度)を導入しているのは5州だが、これは太陽光発電の導入促進により適している。
RPSもFITも規制的支援策であるが、財政支援策としては連邦政府による減税措置がうまく機能してきた。2015年から減税措置を更に5年延長されたので、今後当面は安定した支援措置となっていくはず。
州政府の支援策としては、風力発電所を系統に接続しやすくするための措置が講じられつつある。
下の図の通り、米国の風況は地域ごとに差異がある。風力発電所は人間の住んでいないド田舎にあることが殆どだが、そこから系統へ接続する送電線の整備がまだまだ進んでいない。
その日の風況によっては、風力発電量が過剰となって発電が停止させられることもあるが、これは電力需要がないからではなく、送電線の容量が追従できていないからだ。
送電網を整備する主体は電力会社である場合が多いが、独立系の送電事業者が民間から資金を集めて整備することもある。送電線は、複数の州をまたがることが多いので、連邦政府・州政府それぞれの規制を通過していくことが今後とも大きな課題。
(5)トランプ政権での風力発電の将来見通しは?
トランプ政権ではCPPは撤廃されるが、低コストエネルギーを米国内で生産することを優先するトランプ政権の方針に照らすと、風力発電はそれにとても見合うもの。水力を除く再エネは、まだ電源構成の5〜6%程度に過ぎないが、低コスト化を今後とも進めて行けば、再エネ導入は更に拡大していくと見込まれている。
但し、風力発電は太陽光発電と同様に、天候によって左右される不安定電源であることに起因する隘路を克服するための技術開発を同時に進めていく必要がある。そうでないと、化石燃料や原子力、水力の代替になることはできない。
風力発電の成長要因は、技術革新や公的支援策によって低コスト電源になってきたことである。前述のように、風力発電は、石炭火力発電との比較ではかなり優位に立っており、天然ガス火力発電との比較でもほぼ遜色ない程度にまでなっている。公的支援策を前提として、風力発電は今後とも成長していく見込みだ。
風力発電設備の需要が現在伸びてきているのは、Google、Facebook、Walmart、GeneralMotorsといった米国内の大企業が再エネ投資に力を入れているというのもある。
今や再エネ投資は、エネルギー需要の高まりに対応するための大企業のビジネスモデルになっている。トランプ政権が何と言おうと、こうした大企業の行動は変わらないだろう。