持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)などは世界のSDGs達成度ランキングを発表した。166カ国中1―5位を占めたのはスウェーデン、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ。日本は17位だった。昨年は15位で、2017年の11位から下降傾向にある。日本の最大の課題として挙げられたのは、ジェンダー平等や気候変動、海洋・陸上の持続可能性、パートナーシップ。また経済格差や高齢者の貧困など格差是正への取り組みが後退していると指摘されている。報告書は、新型コロナウイルス危機から持続可能な復興を果たすために、SDGsをどう再考すべきか指針を示している。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局=小松遥香)
ランキングは、SDGsが発効された2016年以降、毎年、世界各国の進捗をまとめた『サステナブル・ディベロップメント・レポート(持続可能な開発報告書)』の中で発表されている。今回の報告書は、SDGsに関する取り組みの進捗状況と新型コロナウイルスからの復興の2部構成となった。
The 2020 SDG Index scores
ランキングの上位を占めたのは北欧諸国だ。1-10位にはスウェーデン、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ノルウェー、オーストリア、チェコ共和国、オランダ、エストニアが入った。
一方、SDGsの取り組みが最も進んでいるのが東アジアと南アジア。両地域は新型コロナウイルス感染症による被害が欧米諸国よりも少なく、現状では感染症の拡大をおおむねコントロールできている。報告書は、地政学的・経済的な世界の重心が北大西洋地域からアジア太平洋地域へと移行するスピードが新型コロナ危機によって加速する可能性が高いとの見方を示している。
国別に見ると、SDGs指数のスコアが最も上昇したのはコートジボワール、ブルキナファソ、カンボジア。最も減少した国は、ベネズエラ、ジンバブエ、コンゴ共和国。紛争や内戦、そのほかの経済的・社会的理由によってSDGsへの取り組みが後退しているという。
目標別に見ると、取り組みが進んでいるのは目標1「貧困をなくそう」、目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」、目標11「住み続けられるまちづくりを」だ。反対に、目標2「飢餓をゼロに」と目標15「陸の豊かさも守ろう」に関する取り組みは停滞・後退している。前者の背景には、栄養不足に苦しむ人口の増加と太りすぎや肥満人口の増加がある。後者は、陸上と淡水の生物多様性の喪失が加速している。多くの国において目標15への取り組みが後退している理由の一つが、持続不可能なサプライチェーンによる生物多様性や森林の破壊だ。さらに、こうした持続不可能なサプライチェーンが引き起こす環境破壊によって将来的な伝染病の可能性が高まる、と報告書は警鐘を鳴らしている。
高所得国は、他国のSDGsの取り組みへの波及効果に配慮しなければならない。良い波及効果もあれば、自国の貿易や消費による環境破壊、不公正な租税回避、武器取引などによって途上国のSDGsの取り組みを停滞・後退させていることもある。
OECD加盟国については、貿易や消費による他国への影響のほか目標13「気候変動に具体的な対策を」、目標14「海の豊かさを守ろう」への取り組みが憂慮すべき状況だ。また農業や土地利用のあり方を見直し、持続可能な食生活や食糧の消費に取り組むことと、経済的・社会的な不平等や所得・教育機会の格差を是正するための積極的な取り組みが求められるという。
報告書は、各国政府による公共政策へのSDGsの統合が必要だと強調している。G20・OECD加盟国の30カ国の中で公式の予算文書でSDGsや関連する用語を掲載している国は12カ国。その中で国家予算にSDGsの推進を組み込んでいる国は、日本やオーストリア、アルゼンチン、パキスタンのわずか4カ国しかないと指摘。世界人口の3分の2を占めるG20諸国のパフォーマンス・ギャップ(目標と現状の取り組みの格差)は深刻で、G20諸国の行動とコミットメントがSDGsの達成には不可欠であり、政策面での一層の努力が求められている。
日本
日本の最大の課題は、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」、目標13「気候変動に具体的な対策を」、目標14「海の豊かさを守ろう」、目標15「陸の豊かさも守ろう」、目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」。取り組みが後退していると指摘されているのは、重要課題に入っている目標10「人や国の不平等をなくそう」。上位10%の所得層の所得と下位40%の所得の比率を表すパルマ比率、高齢者の貧困率、所得の不平等を測るジニ係数を基に判断されている。そのほか、目標5と13、14への取り組みが停滞している。
評価方法を見ると、具体的な課題が浮き彫りになる。評価項目の中でも、最大の課題とされたのが、相対的貧困率や女性国会議員の数、男女の賃金格差、無償労働を行う時間の男女格差、全エネルギー消費のうち再生可能エネルギーが占める割合、パルマ比率、電気電子機器廃棄物の量、エネルギー関連の二酸化炭素(CO2)排出量、輸入にともなうCO2の排出量、有効炭素率、海の健全性、水産資源の乱獲・崩壊、輸入による海洋生物多様性への脅威、絶滅の恐れのある種のレッドリスト指数、金融秘密度指数の数字だ。
新型コロナウイルスとSDGs:世界はどう復興していくべきか
新型コロナウイルス感染症の拡大はこれまでのSDGsの進捗に深刻な影響をおよぼすと報告書は明言する。
報告書をまとめた責任者で、著書『貧困の終焉』で知られる米国の経済学者ジェフリー・サックス氏は「SDGsはこれまで以上に必要とされている。SDGsには脆弱な立場の人々を社会の構成員として包み込み、公共サービスへの公正なアクセスを実現し、国際協調を進めていこうとする根本原理がある。それは新型コロナウイルスと闘うためにも、そしてこの経済危機を乗り越えるために投資主導型の復興を行う上でも道しるべになる。健全な政策と強力な国際協力によって、今後10年間でこれまでのように取り組みを前進させていける」と語った。
報告書は、国際社会や各国がこれから行動を起こす上で重要な短期的、中長期的な優先事項について明らかにしている。
短期的には、最貧国をはじめ世界各国でウイルスのまん延を抑制することを優先させる必要がある。さらに、各国政府や国際社会は、脆弱な国や人々のSDGs達成の取り組みにおよぼす悪影響を低減させていかなければならない。マクロ経済の安定に取り組み、悲惨な人道危機を回避していくために、国際協力とパートナーシップ(連携・協創)が必要になるという。その国際協力に必要な重要手段として、ベスト・プラクティスの迅速な普及、発展途上国のための資金調達メカニズムの強化、飢餓のホットスポットへの対処、社会保障の確保、新薬やワクチンの推進の5つを挙げている。
中長期的には、SDGsと6つの分野における社会変革(教育とスキル、健康と福祉、クリーンエネルギーと産業、持続可能な土地利用、持続可能な都市、デジタル技術)を指針に、かつての地球環境に負担を与える社会に戻すのではなく、より良い復興を目指し、経済を回復させていくことが求められる。
世界は今後、医療制度と予防プログラムなど公衆衛生のレジリエンス(強靭性)向上に取り組んでいくことが必要だ。全世界の医療制度がよりレジリエントになれば、それぞれの国はパンデミックから身を守ることができるようになる。
グローバリゼーションにも同じことが言える。新型コロナウイルス感染症の発生や拡大の背景には、グローバリゼーションと野生生物の生息地の破壊がある。報告書は、そのグローバリゼーションをより公正で持続可能、かつ衝撃に強いレジリエントなものにすることが重要だと訴える。
なお報告書には、今回の新型コロナウイルス感染症の拡大を抑制しながら、経済への打撃も防いだ国のランキングも掲載されている。OECD加盟国33カ国を対象に調査を行い、1-5位に入ったのは韓国、ラトビア、オーストラリア、リトアニア、エストニア。日本は6位だった。
小松 遥香 (Haruka Komatsu)
Sustainable Brands Japan 編集局デスク。アメリカ、スペインで紛争解決・開発学を学ぶ。「持続可能性とビジネス」をテーマに取材するなか、自らも実践しようと、2018年7月から1年間、出身地・高知の食材をつかった週末食堂「こうち食堂 日日是好日」を東京・西日暮里で開く。
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