サステナブル・ブランド国際会議2020横浜の中で唯一、「ファッション」をテーマにした本セッションは急きょ増席するほど盛り上がりを見せた。ファシリテーターを務めるデザイナーの山口大人氏は冒頭で、「ファッションが変わると世界が変わる」と力強く語り、社会を構成しているわれわれが身にまとう「衣服」には、変革を起こす「波及力」がある、と説明した。同業界におけるサステナビリティの確立に努める3人のフロントランナーが登壇し、スタイリッシュな分科会となった。(やなぎさわまどか)
素材メーカーと製品開発の中間に立ち、素材を通して両者をマッチングするマテリアルコネクション東京の吉川久美子代表取締役は、アパレル業界からのニーズが増えていると紹介した。世界的な傾向として 、「regenerative(リジェネレーティブ:再生的)」であることを指針に、製品ごとの寿命を考慮した最適な素材や手段を提案する。異素材を掛け合わせて作られたものは再生可能ではないと敬遠される傾向にあるが、代替素材、または混在している素材を分離しそれぞれ再生させる画期的な技術革新も進んでいると話す。
ITテックを活用したビジネスウェアのオーダーメイドという新しいモデルが注目されるFABRIC TOKYO。同社でクリエイティブ統括を務める峯村昇吾氏は「ユーザーの悩みを解決することで、無駄も省ける」と、ITが土台を支えるD2Cサービスを具体的に紹介した。初めに店舗で計測を済ませることにより、スマホからスーツをオーダーできる。もちろん他にない、自分の体にフィットしたスーツが指1本でオーダーできるとは、ニーズの拡大が見込めそうだ。すでにリペア(修理)やサイズ調整を含めたボトムスのサブスクリプション・サービスも開始している。
全国でH&Mを展開するへネス・アンド・マウリッツ・ジャパンからは、同社内のサステナビリティの活動に広く関わる山浦誉史CSR/サステイナビリティ・コーディネーターが登壇。大手企業であるという強みを生かし、「環境」「社会」「経済」という包括的な取り組みを行っている。店頭における古着回収の実施や、素材の50%以上が環境負荷のない素材であることを緑色のタグで示す「コンシャス・コレクション」の販売といった実例を紹介した。10年ごとのロードマップも明確で、2030年までにはタグやピンを含む全ての取り扱い素材をサステナブルなものにする予定だという。
パネルディスカッションでは登壇者それぞれが、自社の利だけを見るのではなく業界全体の協力が望まれている現状を言葉にした。
個人のアイデンティティを示すといわれる衣類だが、服がなくては生きられない現代社会だからこそ、私たち一人ひとりにしっかりと服を選ぶ責任がある。山口氏の言葉どおり「世界を変える」力がそれぞれにあるといえるだろう。
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