ハイボールは薄めがいい。サントリー・新浪剛史社長がおすすめする深いワケ

「ボトルじゃなくて、時間を売りたい」
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プレミアムモルツなど小洒落たビールや、深みのある広告を世に出してきたサントリー。アサヒやキリンといった「王者」と競争しつつ、新しいアルコールの楽しみ方を提案してきた。

女性の管理職を増やすなど「ダイバーシティ経営」も進める。

三菱商事から、ローソン社長に転身し、さらに創業家出身以外で初めてサントリーのトップについた新浪剛史社長。

サントリーは、考えも働きかたも多様になった今の時代に付いていけているのか。

トップの綺麗ごとではなく、まだまだ男性中心のイメージが残る"お酒の文化"を、会社全体で本気で変えているのか。新浪剛史社長に聞いてみた。答えは「薄めのハイボール」にありそうだ。

「ダイバーシティはコストがかかる。でも、やる」

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サントリーは、女性管理職の割合を2020年までに15%、2025年までに20%に引き上げるという目標がある。働いている人の様々な生活スタイルを受け入れる「ダイバーシティ」は、職場を心地よくするためだけでなく、企業の戦略にとっても大事だ。

「(ダイバーシティの実現には)当然、実現には莫大なコストがかかります。時間がかかります。すぐに結果がでるようなクイック・ウィンではありませんが、リターンをあげるまで粘り強くやる姿勢です。

多様性のある人々が混在するアメリカでは、常に新しいものが生まれて、コストに見合う成果を生んでいます」

「ダイバーシティは単なるCSR(企業の社会貢献)ではありません。女性も大切な消費者ですから、消費者の心を理解し掴むという意味でも重要です」

「女性社員が"男社会に適応した女性"であるよりも、同化されずに違う目線を持っているまま、一緒に働いてくれるといいですよね。それこそがダイバーシティの意義です」

女性蔑視のPR動画、「海外の同窓生から叱られた」

サントリー「頂」のキャンペーン「絶頂うまい出張」

海外でMBAを取り、女性活躍の大切さを訴える新浪剛史社長。

それだけに、残念だったのは、男性目線とみられる映像で、出張先で出会った女性が「コックゥ〜ん」と官能的な声でうっとりする、ビール系飲料「頂」のPR動画。女性を性的に描いているとして公開中止に追い込まれた。

新浪剛史社長によると、サントリーでは、各事業会社に裁量を持たせるために、すべての商品のPRを、統括するHD(サントリーホールディングス)のトップが事前確認する仕組みにはなっていないという。動画の制作には女性も関わっていたが、男性社会的な業界の体質が残っているのではないか。

「事前に見ていなかったとはいえ、あのコマーシャルはあってはいけないことだと認識しています。(海外留学をしていた時の)同窓生からもメールを頂きました。『サントリーにはがっかりした』と。

私も、これは超えてはいけない一線を超えていたと認識しておりますので、すぐに今後の対策を指示しました、『サントリーホールディングスとしては認められない』と(動画はその後公開中止になった)」

「ネット社会の難しさというのもあると思いますが、売り上げを追うためにこういうことをやってはいけない。大反省とともに2度と起こらないようにさせます」

「かつて、サントリーのようなお酒の会社は、男社会でした。でも、今はどんどん優秀な女性が出てきています。

実は前の会社(新浪剛史氏はサントリーに来る前はローソン会長)でもそうだったんですけど、女性に活躍してもらうとなると、手間や時間も含めてコストかかるんです、当然のことながら。でもコスト以上のリターンを得られるので粘り強くやる」

「もっと女性に活躍してもらうために、社内でも色々と取り組んでいる最中の(「頂」のPR動画炎上)事件だったので、ダイバーシティの重要性を我々がまだ100%理解していなかったという意味で、経営者として反省しています」

「アメリカのバーに行きます」

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サントリーは2014年5月、ウィスキーで有名なアメリカの「ビーム社」を1兆6000億円で買収した。佐治信忠会長が「(会社が)115歳になり、あしき官僚化が進んだ」とまで言ったサントリーに、海外の文化を受け入れられるのか。

「サントリーはまだまだ男社会の名残が残っていますが、今アメリカに行っているメンバーが日本に帰ってくると随分、サントリーの会社の雰囲気も変わってくるでしょうね。

ダイバーシティって結局は、人と人が直接交わることが大事。口で言うだけでなく、ピープルエクスチェンジです」

「『英語ができないから』とかどうでもいい。20代、30代は実際に行ってしまえば何とでもなります」

「世界からも高い評価を受けているウィスキーの『山崎』や『響』にはノウハウが詰まっています。

それをビーム社に植えこむ。逆に、相手のバーボンづくりのノウハウをサントリーが学ぶ。男女のダイバーシティだけでなく、"East meets west, West meets east"なんです」

「私も、しょっちゅう(ビームサントリー社の)マット・シャトック最高経営責任者(CEO)とはやりとりしています。会って1対1で話す、テレビ会議で『1対1』で話す、誰か他の人を交えないで、2人きりで腹割って話す、です」

「それから、商品が出されているお店に、自分自身で足を運ぶ。アメリカのバーにも行きますよ。お客様が実際どんな風に商品を飲んでくださっているのか、トップこそが、自分の肌で感じないといけないんです」

「Amazonのジェフ・ベゾスCEOにも数度、お会いしました。トランプ政権の動きを把握するために、キャピトルヒル(ワシントンD.C.の政治の中心エリア)にも、年に3回ほど足を運び、情報を集めています」

「失われた10年、20年」

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世界の男女格差をあらわす2017年版「ジェンダー・ギャップ指数」によると、日本は2016年の144ヵ国中111位から114位へと後退した。政治やビジネスの場で男女平等は進んでおらず、世界から取り残されている。

「日本人は、(バブル崩壊以降の経済低迷が続いた)『失われた10年、20年』というコストカットばかりやってきた世界から『これではダメだ』とやっとなった。それは、世界のグローバル企業と付き合うようになったからです」

「先ほどのジェンダーイシュー(「頂」のPR動画)にしたって、深く考えないと、あれをビームサントリー社でやったら大変なことになる」

「そういうことからすると、もっと日本の企業が世界の大人になっていくことが大事です。少しずつは良くなっています」

「ダイバーシティは受容力。様々な価値観をどう活用していくかって、昇華していくかってことですので、大変なコストとトップの胆力が要ります」

今の消費者は、何でもググる。

写真はイメージ
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日本では少子化が進み、国内のビール市場は縮小している。アフリカ、ヨーロッパの一部の地域を除き、世界中でお酒の消費量も伸び悩んでいる地域も多い。100年後の会社員たちも「ビール」でコミュニケーションを取っていると思いますか?

「100年後、ビールは残ると思います。元々アルコール飲料の起源はビールなんです。人類はずっとビールを楽しんできた」

「ただし、いわゆる大量生産・大量消費で売っていく手法は大変厳しくなっていくでしょうね。

現状は、インベブ(ビール最大手・ベルギーのアンハイザー・ブッシュ・インベブ)のように買収を繰り返し、世界のビール市場の2割、3割のシェアをとっている会社もありますが、100年後は、いわゆる『規模の経済』で戦うビールは厳しいと思います」

「今の若い消費者は、安いお酒をいっぱい飲めればいい、という層ではありません。商品の背後にあるストーリーを理解し、『これこそマイブランドだ』と感じたがっています。

AI(人工知能)などが登場し、効率化や自動化が進んでいく時代の中で、逆にクラフトマンシップ(職人技)が求められています」

「彼らは何でもググります。Google検索をすれば、商品が伝統やストーリーを体現しているか、いつでも確認できてしまう。ものすごく敏感で、大変恐ろしい消費者です」

「ただし、本物だからといってずっと同じものを作り続けていてはダメです。普遍なものは何もない。(ビールだけでなく、ウィスキー、水、清涼飲料など)消費者の変化に合わせて、ポートフォリオ(複数の"ヒット"商品の組み合わせ)を考え続けないといけません」

「ボトルでなく、時間を売る」その心は...?

サントリーホールディングス株式会社提供

健康志向の高まりで、ノンアルコールのものを飲む女性が増えた。WHO(世界保健機関)はアルコール中毒を非常に重大な課題として捉え、世界に呼びかけている。「お酒=悪」というイメージが高まっている。

「ばーっと飲んでわーっと酔っ払っちゃうような飲み方は大いに規制されていくでしょうね。『適量を超える』飲み方はいけません」

「私たちはいまの時代にあったお酒の定義を持っています。"Relaxing(リラクシング)"といった心のやすらぎを与えるという価値観です」

「例えば、ハイボール。元々は3分の1から半分くらいの量のウィスキーをソーダ水で割って飲むのが一般的でした。

でも、今は、あえて4分の1以下の量におさえるようにお客様に提案しているんです。アルコールが少なくなったことで飲みやすくなり、リフレッシングな飲料になった。女性を含む多くの消費者に楽しんでもらえる飲み方です」

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ただ、そうするとウィスキーの消費量が減って、ボトルが売れなくなる。営業面では、マイナスでは?

「我々はボトルを売っているんではありません。"リラクシング"な時間を売っているんです。それぐらいの覚悟を持っている」

「そうでないと責任を持ってお酒の持っている文化性をお客様に伝えていくことにはならないと思いますので」

経営者は「天守閣」に立っている

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新卒で三菱商事に入社。43歳でローソンの社長に抜擢された。55歳でサントリーCEOに就任し、グループ全体で約38,000人の社員を率いている。新浪剛史社長は「『天守閣』に立っている」と話す。

「経営者というのは『天守閣』に立っているような気分です。これは火事になっちゃうからまずいぞ。これはチャンスだぞ、と社会の大きな流れを読んで、伝える」

「何年も経営者をやっていると、自信をなくしたり、怖くなったりする時もあります。色々なことが色々な場所で同時多発的に起きているから。だから、自分と違う目線を持つ、例えば女性社員などの意見を積極的に聞いたりするんです」

「多くの日本企業は、強い意志や普遍的な価値観でリーダーシップをとるのが苦手でした。でもコストカットばかり目指していた『失われた20年』を経て、少しずつ変わってきた。海外の企業と付き合い、世界を見るようになったからなんですよね」

「サントリーは、経営の根幹となるダイバーシティ実現のために、本気で、根気強く取り組んでいますよ。違いをどう活力に変えていくか。コストと、トップの胆力。とにかく真摯じゃないといけないと思っています。結果が出るまで、粘り強く取り組みます」

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