※この連載では差別の実態を正確に伝えるため、やむなく差別語・差別表現を加工せず引用している箇所があります。ご了承ください。
杉田水脈衆議院議員は2018年8月号の『新潮45』に「『LGBT』支援の度が過ぎる」なる記事(以下、杉田記事)を書いた。セクシュアルマイノリティを「『生産性』がない」と書いたこの記事は、すでに当事者や識者やSNSユーザーから多くの批判を浴びている。
杉田記事の問題は多岐にわたるが、最も酷いと思われる「『生産性』がない」と書かれた箇所を引用しておこう。
例えば、子育て支援や子供ができないカップルへの不妊治療に税金を使うというのであれば、少子化対策のためにお金を使うという大義名分があります。しかし、LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子供を作らない、つまり「生産性」がないのです。そこに税金を投入することが果たしていいのかどうか。にもかかわらず、行政がLGBTに関する条例や要綱を発表するたびにもてはやすマスコミがいるから、政治家が人気とり政策になると勘違いしてしまうのです。(58~59ページ)
はっきりと、
1.「子供を作らない」ことがイコール「『生産性』がない」
とされており、そのうえで
2.「LGBTのカップル」は「子供を作らない」ゆえに「『生産性』がない」
とされている。
これはLGBTはじめセクシュアルマイノリティへの差別以外の何物でもない。
レズビアンであることを公表している増原裕子さんの「相模原の障害者殺傷事件や同性愛者を虐殺したナチスの優生思想とリンクする」という批判は的確である。(朝日新聞記事「自殺したLGBTの友人も...杉田氏発言に当事者から批判」(2018年7月23日付)に掲載)
国会議員によるセクシュアルマイノリティへの差別があってはならない。
このことだけでも重大な人権侵害である。
だが、問題はそれだけにとどまらない深刻さを持っている。
本当に危惧すべき問題は、差別の社会的効果である。
杉田議員が社会に向けて既に発してしまった、セクシュアルマイノリティに生産性がないなどという差別が、
1)どのようなマイナスの社会的効果をもたらしてしまっているのか
そして、
2)そのマイナス効果を、どのように抑制できるのか
が問題だ。
さしあたり3つの観点が重要だ。
1.差別煽動効果の問題。政治家の差別は、一般庶民の差別に比べて、非常に強力に差別を煽動してしまうこと。
これが最大の問題である。
杉田水脈議員の一連の言動は、セクシュアルマイノリティへの差別を社会的に煽動する効果を強力に発揮してしまうことを否定できず、その結果重大な差別やヘイトクライム(差別犯罪)を引き起こす可能性さえ危惧される。
2.政治家として差別に反対する義務の不履行。
杉田議員は自身の差別を撤回・謝罪するだけでなく、議員として差別に率先して反対しなければならない。自分が行った差別の社会的影響をできる限り打ち消すように差別に反対するコメントを出さねばならない。
3.他の政治家が杉田議員の差別に反対する義務。一部を除いて国会議員・地方議員は杉田議員の差別に反対するコメントを出していない。
これから数回に分けて、杉田議員の一連の言動の何が問題なのかを考えてみたい。
今回は残りのスペースを使って、1の、政治家の差別が庶民の差別よりも高い社会的煽動効果を持つことについて述べる。
政治家の差別が庶民の差別よりもはるかに差別の煽動効果が高い。
杉田議員は与党自民党の国会議員であり、ツイッターのフォロワーは11万4000名を超える(2018年7月25日時点)。その社会的影響力は大きい。
だからこそ、杉田議員は自らの杉田記事が差別であったことを認め、謝罪するとともに、セクシュアルマイノリティへの差別に明確に反対し、自分の記事を使って差別をすることをやめるよう社会に呼びかける必要があるのではないか。
だが、杉田議員はそうする代わりに、次のようなツイートを行っている。杉田記事が多くの批判を浴びた後だ。
北海道に旅立つ前に赤坂警察署に来ました。先日、自分はゲイだと名乗る人間から事務所のメールに「お前を殺してやる!絶対に殺してやる!」と殺人予告が届きました。これに対して被害届を出しました。警察と相談の上、一連のLGBTに関連する投稿は全て削除いたしました。 pic.twitter.com/DJH7fzrrjc
— 杉田 水脈 (@miosugita) July 23, 2018
杉田議員が「ゲイを名乗る」者から殺害予告を受けたという情報発信は、残念ながらツイッターではゲイへの差別に大いに使われている。3つだけ例を挙げよう。
●便乗差別ツイート1
「ゲイは怖いねー。」
●便乗差別ツイート2
「サカリのついたホモ程凶悪ですからね」「杉田先生が心配です」
●便乗差別ツイート3
「ホモは生産性無いってはっきり分かんだね」
殺害予告など誰であっても行ってはならないのは言うまでもない。それが事実であるならば杉田水脈議員が殺害予告を受けたことそれ自体をツイートすることは問題があるとはいえないだろう。
だが、あえて殺害予告の主が「ゲイだと名乗る人間」だとツイートに明記する必要があったろうか?センシティブな情報を伏せてツイートすることもできたはずではなかったか?
杉田議員はツイートする前にそのツイートが偏見・差別を助長・煽動する危険性があるかどうかを十分に考慮する社会的責任があったのではないか?
杉田議員は今すぐにでも当該ツイートを削除するとともに、今からでも自分のツイートや発言を使ってゲイやセクシュアルマイノリティへの差別をやめるよう、呼び掛けるべきであろう。自らの言動がゲイやセクシュアルマイノリティへの差別やヘイトクライム(差別的動機に基づいた犯罪)を誘発する前に。
(つづく)
2018年7月25日