8歳の子どもをレイプ「妊娠させてやる」の脅しも。スーダンの紛争で性暴力が武器として使われている

特定の民族や女性を標的にした性暴力について、調査した専門家は「信じがたい規模」だったと警告している
スーダンから隣国チャドに避難した女性。性的搾取を受けたことを訴えたが報復を恐れて、本名を出さないことを希望した
スーダンから隣国チャドに避難した女性。性的搾取を受けたことを訴えたが報復を恐れて、本名を出さないことを希望した
via Associated Press / 2024年10月5日撮影

紛争が1年半以上続いているアフリカのスーダンで、レイプなどの性暴力が広範囲で起きている。国連の事実調査団が10月に公表した報告書で警告した。

調査では被害者の年齢は8〜75歳に及ぶことがわかり、モハメド・チャンデ・オスマン団長は、性暴力は「信じがたい規模だった」と声明でコメントしている。

「弱い立場の市民、特にあらゆる年齢の女性や少女が非常に深刻な状況に直面しており、早急な対応が必要です」

スーダンで何が起きているのか

スーダンでは、1955年の第一次内戦や1983年の第二次内戦、2003年のダルフール紛争など、政治的に不安定な情勢が長年続いてきた。

2019年には約30年にわたり独裁政権を続けていたバシール大統領が失脚。民政移管に向けた協議が進められていた。

しかし2023年4月、SAF(スーダン国軍)と準軍事組織RSF(即応支援部隊)の主導権を巡る争いをきっかけに紛争が勃発し、1年半以上続いている。

これまでに2万5000人以上が殺害されたことがわかっているほか、人口の半分以上にあたる2600万人が飢餓に直面し、コレラやデング熱の感染者数も急増している。あらゆる原因による死者数は6万1000人を超えると推定する調査もある。

国連によると1100万人以上が避難を余儀なくされ、300万人がチャドなどの隣国に逃れているほか、略奪も起きている。

トラックに乗り、スーダンの首都ハルツームを離れる人々
トラックに乗り、スーダンの首都ハルツームを離れる人々
via Associated Press / 2023年6月19日撮影

性暴力の武器化

この紛争で“武器”として使われているのが性暴力だ。

人権侵害などを調べる国連の事実調査団は2024年10月、ジェンダーに基づく暴力(GBV)やレイプ、集団強姦、性奴隷を目的とした誘拐などが広範囲にわたり発生しているとする報告書を発表した。

被害者の中でも特に標的にされているのがマサリート人の女性で、兵士から銃や、ナイフ、ムチなどで脅され、性暴力を振るわれたという証言が被害者や目撃者から得られたという。

性暴力の多くが複数の加害者によるギャングレイプで、1人が強姦に及んでいる間に、別の加害者が被害者を監視したり、体を押さえつけたり、略奪行為に及んだり、子どもを含む家族に銃口を向けて監禁したりしたことがわかった。

抵抗した者は棒や鞭などで殴打され、ある妊娠中の女性は、レイプを拒んだ結果、暴力を振るわれて流産したと証言している。

被害者の多くが17~35歳の女性だったが、最年少で8歳、最高齢で75歳の女性もいた。

事実調査団の聞き取りでは、加害者のほとんどがRSFの兵士だった。

RSFはダルフール紛争でバシール政権の支援を得て虐殺行為に及んだアラブ系民兵組織「ジャンジャウィード」から発生した武装集団だ。

今回の紛争で、特に標的にされているマサリートの女性たちは非アラブ系で、被害者らは暴行中に「すべての女が、今年ジャンジャウィードの子を妊娠しなければならない」「マサリートの女たちにアラブの子どもを産ませてやる」などと言われたと報告している。

また、女性の人権活動家やジャーナリスト、医療従事者らが標的になっている実態も明らかになり、「リベラルな女は、性的暴行を楽しむべき」という加害者の発言もあったという。

チャドに避難したスーダンの難民の元を訪れた英王室エドワード王子の妻ソフィー妃(右)
チャドに避難したスーダンの難民の元を訪れた英王室エドワード王子の妻ソフィー妃(右)
Stefan Rousseau - PA Images via Getty Images / 2024年10月13日撮影

被害者の大部分は女性であるものの、男性や少年も裸にされる、性器を殴打される、レイプされるなどの性暴力に遭っていた。

調査団は、男性が被害を訴える文化や支援体制がないことが、被害を見えにくくしている可能性があるとしている。

スティグマが事態を悪化させている

調査ではレイプなどの性暴力のほとんどがRSFの兵士によるものだったが、SAFの支配地域で食料と引き換えに女性や少女が性的搾取を受けているという情報や、避難してRSFの強姦を逃れた先で、家宅捜索をしたSAFの兵士に強姦されたという証言もあったという。

調査団は、「国内避難民の多くがSAFが支配する地域に逃れる傾向があり、同軍の国際人道法違反を報告するのが難しい状況にある」と指摘。女性や少女たちはRSFとSAFの両方からの性的暴力の脅威にさらされており、さらなる調査が必要だとしている。

スーダンでは、ダルフール紛争など過去の争いでも、性暴力が市民や活動家、反対勢力を恐怖に陥れ、民主化を支持する抗議活動を弾圧する手段として使われてきた。

その一方で、スーダン社会で性暴力、特にレイプは「スティグマ」とされ、被害者や家族に非があるかのように受け止められているという。

調査団は、スティグマを恐れて被害を訴えられない状況が、被害者を社会的に追いやり、殺害されることさえある事態を生み出していると強調している。

チャドの難民キャンプで赤ちゃんを抱えるスーダンの女性。性的搾取を受けたが報復を恐れて顔や名前を明かさなかった
チャドの難民キャンプで赤ちゃんを抱えるスーダンの女性。性的搾取を受けたが報復を恐れて顔や名前を明かさなかった
via Associated Press /2024年10月5日撮影

また、スティグマに加え、紛争による医療施設の破壊や治安の悪化、度重なる避難、訴訟や中絶をしにくい法制度も、性暴力サバイバーを苦しめている。

調査団専門家メンバーのジョイ・ンゴジィ・エゼイロ氏は、「スーダンの女性や少女、少年、男性たちは、性暴力やジェンダーに基づく暴力にさらされており、保護を必要としています」と述べている。

「責任の所在を明らかにしなければ、憎悪と暴力の連鎖が続きます。加害者の責任を問い、罰を受けていない状況を終わらせなければなりません」

注目記事