私たちの暮らしを支える物流。ネットで簡単に買えて、すぐに玄関まで商品が届く便利な時代になったが、コロナ禍を機にECの需要が急激に拡大したことなどもあり、物流業界では人手不足が深刻化している。
2024年4月にはトラックドライバーの年間残業時間の上限が960時間となり、労働環境の改善が進んだ一方で、これまで長時間労働で支えられていた物流業界に次の一手が求められている。
そうした中、佐川急便を中核事業会社とする総合物流グループのSGホールディングスグループは、DXを取り入れた前衛的な施策を通して、新たな物流の形を実装し、挑戦を続けている。
ハフポスト日本版は、同グループの次世代型大規模物流センター「X(エックス)フロンティア」内にある大型倉庫に足を運び、人間とDXが協働する最先端の物流現場を見学した。
インフラ維持とウェルビーイング向上を目指す「待ったなしのDX改革」
モーダルシフトをはじめとしたSDGs対応への社会的機運の高まりや、自然災害が激甚(げきじん)化する中での安定した物流の確保、トラックドライバー不足など、さまざまな課題を抱えている物流業界。
佐川グローバルロジスティクス 経営企画部広報課係長の大室和也さんは「物流改革は待ったなしの状況にあります」と現状を説明する。
特にトラックドライバー不足は、労働時間の長さや業務量の多さ、賃金水準の低さなどから深刻化しており、2027年には24万人のドライバーが足りなくなるとも言われている。また、次世代を担う若年層の割合が低いことや、現役ドライバーの高齢化も課題になっているという。
そうした中で同社は、物流という社会のインフラとドライバーのウェルビーイングを守りつつ、持続可能な物流を提供するためにも、DXを経営戦略の重要な要素として位置付け、DX戦略「3つの柱(サービス強化、業務の効率化、デジタル基盤の進化)」を軸に数々の前衛的な取り組みを重ねてきた。
2024年には、東京証券取引所に上場している企業の中から、企業価値を高めるためにDXを積極的に推進し、優れたデジタル活用の成果を上げている企業を選定する「デジタルトランスフォーメーション銘柄」に陸運業界で唯一、選ばれている。
文字通り、業界のフロンティア(最先端)を行く「Xフロンティア」には、サステナブルな物流を実現するための同社のこだわりが凝縮されており、1階から4階までを佐川急便の中継センター、5階と6階にもSGホールディングスグループの企業が入りシームレスな輸配送の効率化を図っている。
今回、5階に位置する佐川グローバルロジスティクスのEC物流に特化した物流センターへと足を運んだ。
新時代の物流を支える4種類のロボット
センターに入って、まず目を引くのは、ロボットストレージシステムの「Auto Store」だ。
約660平方メートルに凝縮された超高密度(1万5840バケット)の収納の上を、24台のロボットが移動し、注文された商品をすばやくピッキングしている。下段に商品がある場合は、先に上段のバケットを取り出し、指定の商品をピッキングしてからバケットを元の位置に戻す。
商品の位置をAIがすべて記憶しているので、受注する会社ごとに棚を分ける必要がないことも効率化につながっているという。また、空間を無駄なく活用することにも成功している。
「Auto Store」によって運ばれてきた商品は、作業スタッフの手によって検品され、自動搬送機器「OTTO」によって、次の作業場へと運ばれていく。
自動棚搬送ロボット「EVE」も、ピッキング作業の生産性向上に大きく貢献している。
「OTTO」と似た形状のロボットだが、その役割は「Auto Store」と同じで、注文を受けると、約4300平方メートル1328棚に保管された商品を46台の「EVE」がピッキングし、作業スタッフのいる場所まで運んでいく。
約4300平方メートルの空間を行き来して商品を探す手仕事はかなり骨が折れそうだが、「EVE」の活躍により歩行時間を削減し、人手不足の抜本的な解決を実現したという。
見学当日に稼働していたスタッフは数人だったが、繁忙期には倉庫の端から端までフル稼働するというから驚きだ。大室さんは「クリスマスや初売りなどに加え、近年はブラックフライデーの時期も注文数が激増するので、注文数が落ち着いている時期との差が大きく、従来の倉庫では働き手の数の調整が難しいことが課題になっていました。ここではパートの方や単発アルバイトの方々の力添えなどもいただいて、その時期の忙しさに適した人数での稼働ができています」と話す。
仕分けや検品を経た商品はベルトコンベアに乗せられ、自動梱包器 「Carton Wrap」で梱包される。商品の三辺に合わせた箱を自動で作成し梱包する他、納品書の封入や送り状の貼付までこなす優れものだ。
1時間で800個の商品を梱包し、自動梱包機の部分だけで70%の省人化に成功しているというから驚きだ。また、割れ物などの取り扱いに注意が必要な商品は人の手によって梱包されるという。
SGホールディングス コーポレートコミュニケーション部 担当部長の八代彩子さんは「商品サイズに合った箱を作るので、ECなどで頻発する、小さい商品なのに箱がすごく大きいという問題も解決してくれます。大きな箱は処理も大変ですし、環境にも良くないので、このマシンはそういった意味でも意義のある仕事をしてくれています」と話す。
梱包された商品は、4階以下(センター直結)の佐川急便の中継センターに運ばれ、トラックに積まれていく。積荷作業にも、荷物の大きさや配達の順番に対応したパズルのようなテクニックが求められるが、この作業によってドライバーの労働時間が延びてしまうことも少なくない。
同社では派遣やアルバイトのスタッフでも上手く積荷ができるよう、トラックの中に荷物を置く位置をドライバーがスタッフに指示できる「夜積みアプリ」などを独自開発し、スタッフはそれに従って作業する仕組みになっているという。
働き手不足が深刻化する一方で、「DX化により働きがいが削がれていく」と懸念する声も一部から聞こえてくる。
しかし、Xフロンティアの倉庫では、DXと人は椅子取りゲームのような「仕事の取り合い」の関係ではなく、適材適所で互いの強みを活かし、仕事の質や効率を最大化するための「パートナー」として協働していた。
大室さんは「働く人の幸せとサステナブルな物流を目指して、今後も取り組みを進めていく」と話し、「今後の更なる挑戦に期待していてください」と見学会を締め括った。