「米農家は時給10円」「暑さで野菜が育たない」。東京のど真ん中をトラクターが行進。「令和の百姓一揆」で農家が語った危機感

令和の百姓一揆では、持続可能な農業のための所得補償や、消費者にとっても不安のない食生活を政府が支えること、食料自給率の向上などを求める声が上がった。
東京・青山公園を出発するトラクター
東京・青山公園を出発するトラクター
Maya Nakata

東京・青山公園で3月30日、農家や酪農家などの生産者と消費者らが集まり、「日本の食と農を守ろう」と訴える「令和の百姓一揆」が行われた。生産者は代々木公園までの5.5kmをトラクターなど約30台で行進し、その後には歩いた参加者も含め4500人(主催者発表)が続いた。

この日のデモは沖縄や富山、北海道など全国14カ所で行われ、合わせて約300台のトラクターが行進した。

村から農民が消え、農民が作る作物が消え、村自体が消えようとしているーー。令和の百姓一揆実行委員会代表の菅野芳秀さんは事前のインタビューで、「いよいよ日本の食について、かなり不安を持ってしか語れないようになってきています」と話した。

「農家を助けてくれと言っているわけではありません。そうじゃなくて、みんなの食糧庫である農村、農業が破綻しているということに対して、皆さんはどう考えるか。一緒に立て直すために大きな連携を作り出し、自分たちの命の持続性を保てる環境を作っていこうじゃないかと。そんな思いがこの一揆の背景にあります」

農業の担い手不足、赤字が続く農業経営に加え、異常気象や温暖化など気候変動への危機感を募らせる農家も多いという。一揆に参加した農家たちに話を聞いた。

暑さで野菜が「溶ける」

千葉県できゅうりやブロッコリーなどの野菜や米を作って10年になるという加瀬園芸の加瀬好基さんは、一際目立つ青いトラクターで行進の先陣を切った。「農家は雨でも台風でも365日休みなしで作業しています。その大変さをなんとかわかっていただいて、農業を盛り上げていけたら」とトラクター行進への意気込みを語った。

千葉県できゅうりやブロッコリーなどの野菜や米を作る、加瀬園芸の加瀬好基さん
千葉県できゅうりやブロッコリーなどの野菜や米を作る、加瀬園芸の加瀬好基さん
Maya Nakata

加瀬さんは4〜5年ほど前から、温暖化など気候変動の影響を感じているという。夏場の暑さで、畑に苗を植えても溶けてしまい、「ロスが出てしまう」と話す。

「実際に、夏を越すのが大変になってきています。夏場に作る野菜が、これから本当になくなってくるんじゃないかというぐらい危機感を持っています」

気候変動を止めるためには、「自分一人だけでなく、日本や世界のみんなで努力することが大事なのではないか」と語った。

異常気象対策、試行錯誤しても追いつかない

茨城で水稲を育てる浅川泉さんは、近年の異常気象を懸念していると話す。雨が少ないと引水(田に水を引くこと)ができなくなったり、高温で稲の身が入らなくなって雑穀米になってしまい、値段が下がったりするという。

「品種改良などの情報を得て試行錯誤するといった努力をしているつもりですが、いかんせん追いつかないんです」

東京・原宿駅前を走るトラクター
東京・原宿駅前を走るトラクター
Maya Nakata

同じく茨城から来た一般社団法人農協協会の先﨑千尋さんは、「都会の消費者に、米農家の実態が知らされていないのが1番の問題だと思っています」と訴えた。

「一昨年まで米農家は時給10円だったと言われています。そこから少しは上がりましたが、時給1000円なんてとても届かない。このままいけば、生産基盤がガタガタで、後継者もおらず、国からも大して補助金がもらえない。一体誰がやるのか、そういう危機感をみんな持っているんです」

今まで経験したことがない辛さ

「令和の百姓一揆」実行委員会代表の菅野芳秀さんは、山形県長井市で米とニワトリを育てている。数百年もの間、代々農家を営み、タスキを繋いできた。

菅野さん自身も半世紀近く農業を続けてきたが、近年異常気象や温暖化などの影響か、自然環境がずいぶん変わったと感じるという。

「田んぼの水温が、今まで経験したことがないくらい高くなっています」

「令和の百姓一揆」実行委員会代表の菅野芳秀さん
「令和の百姓一揆」実行委員会代表の菅野芳秀さん
Maya Nakata

熱せられた田んぼの水からのぼる下からの水蒸気と、上からジリジリと照りつける日差しの2つに挟まれながら、日陰のない田んぼ作業を行う。

この環境下で行う農作業は、今まで経験したことがないぐらいの辛さだという。「こんなところに植えて、本当に育つだろうか」と不安になりながら、田んぼに入るそうだ。

実際に米に影響も出ているという。収量が1〜2割減ることも珍しくなくなり、品質としても米が白濁する割合が増えているそうだ。白濁した米は精米すると砕けてしまい、収量は収穫時からさらに減る。

「熱くなったら冷たい水を田んぼに入れるとか、いろんな工夫をやっていますけど、なかなか防ぎきれないんですよ」

経済的にも環境的にも厳しい状況が続く中、菅野さんは、今回の令和の百姓一揆を「始まり」に位置付ける。

「我々だけが食える日本を作ればそれで済むという話ではない。未来世代に可能性をしっかり残していくための運動としてやっていかなければなりません」

東京・青山公園を出発するトラクター
東京・青山公園を出発するトラクター
Maya Nakata

まだ希望はある

菅野さんは自身の農園で、化学肥料を使わずに、放し飼いのニワトリの糞を堆肥にし、くず米をニワトリの餌にする循環を作り、先代から受け継いだ土を育て続けている。

さらに、資源を循環させ、消費者と生産者を繋ぐ取り組みを地域にも広げてきた。

地域の生ゴミを堆肥にし、台所と農業を繋ぐ「レインボープラン」は1997年から続く。山形県南部の置賜地域(3市5町)で食とエネルギーの自給を軸に地域循環社会を目指す「置賜自給圏構想」は2014年ごろから今も歩みを進めている。

菅野さんは実践を続けながら、「みんなでなるべぇ『柿の種』」と呼びかけているという。

「晩秋の柿の木にぶら下がる熟れた実を想像してほしい。もうすぐ落ちそうな柿の『実』は『もう希望はない』と語るだろうが、実の中の『種』は『いよいよ俺たちの時代だ』と希望を語り出すだろう、と菅野さん。

「ギリギリですが、まだ希望はあります。みんなで一緒に『柿の種』の立場になって、負けずに頑張ろう」

注目記事