
幼児を膝に乗せ、倒壊したコンクリートに腰かける子。崩れた建物とがれきの山を見つめる青年。黒焦げになった車の近くで、車いすに座り身を寄せ合って眠る子どもたち。
パレスチナ自治区ガザ地区の映画監督で写真家のアメル・ナーセルさんの写真展「GAZA. Signal of Life」が、日本外国特派員協会(東京・丸の内)で開催されている。
イスラエル軍の攻撃で家や町、日常そのものが破壊される中、ガザで生きる人たちの「生」に光を当てた写真が並ぶ。

「どの瞬間にも、愛する人が犠牲になるかもしれない」
ナーセルさんは1991年生まれのパレスチナ人で、パレスチナ難民をテーマとする映画などを制作してきた。イスラエル軍の侵攻によって、自身の表現手段であるカメラとパソコンを失った。それでも、ナーセルさんはスマートフォンで写真と動画の撮影を続け、ガザの人々がどのような環境を生きているのかをSNSで伝えている。
写真展では、2023年10月7日以降にガザで撮影された写真を中心に展示している。それ以前のガザの人々や街並みを写した作品もある。
2023年10月のイスラエルとハマスの衝突以降、ガザでは5万人以上のパレスチナ人がイスラエル軍によって殺害された。
今年1月の停戦合意の成立後もイスラエルはガザやヨルダン川西岸への空爆を続け、3月18日にガザへの大規模攻撃を再開。ユニセフの報告によると、停戦崩壊後に殺されたガザの子どもは少なくとも322人に上る。

ナーセルさんは2024年7月、スイスメディアLe Courrierに寄せたエッセイで、「どの瞬間にもミサイルが落ちてきて、誰かや愛する人が犠牲になるかもしれないと感じている」「『恐怖』という言葉では、私たちが生きている光景を十分に言い表すことはできない」と、命を脅かされる日々への心境を明かしている。
通信環境が厳しい中、ガザの人々の写真と映像をガザの外へと届け続けることについて、ナーセルさんは次のように思いを記した。
「私の未来への希望は、ガザでの人間の経験に光を当て、私たちの声を世界に届けることに貢献するアートを生み出す能力にかかっている。アートには壁を越え、人々に影響を与える力があると信じており、それこそが私が目指すところです」
「生と死の間を行き来し、日常生活に必要なもの全てが欠けた状況で、私は写真を送信している。携帯電話を長い鉄の棒の先に取り付け、できる限り高く掲げて電波を探し、これらの画像を外の世界へ向けた『命のシグナル』として送ります」
ナーセルさんの写真展は、2024年も東京藝術大学(東京)で開催された。実行委員会メンバーで同大学大学院の卒業生の砂守かずらさんは、「写真からは、明日生きられるかすら分からない状況でも、ガザでの暮らしの中にある美しさを見出せるアメルさんの感性が伝わります。アメルさんが見ている世界を知ってもらうための入り口を作ることが、私たち実行委の役割です」と話す。
会場では、パレスチナの難民キャンプや農村で暮らす女性たちが作ったパレスチナ刺しゅうを帯にして販売し自立支援する「パレスチナ刺繍帯プロジェクト」の展示も同時に開催されている。刺しゅう帯のほか、2023年10月7日以降に戦禍で制作されたパレスチナ刺しゅうのクッションなども並ぶ。
ナーセルさんの写真がデザインされた缶バッチやステッカー、ポストカードの販売もある。収益は展示会の経費とナーセルさん個人への寄付に充てられる。



◆アメル・ナーセル写真展「GAZA. Signal of Life」、同時開催「パレスチナ刺繍帯プロジェクト展◆
会期:2025年3月31日(月)〜4月25日(金)
時間:平日9:30(土曜のみ10:00)〜22:00 ※日曜定休
入場:無料
会場:日本外国特派員協会(FCCJ)
住所:東京都千代田区丸の内3-2-3 丸の内二重橋ビル5階
(取材・執筆=國﨑万智@machiruda0702.bsky.social)