
アカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミーが3月28日、ドキュメンタリー『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』の共同監督ハムダン・バラールさんに対するサポートが不十分だったことを謝罪した。
バラールさんは25日に釈放され、拘束中にイスラエル兵から暴行を受けたほか、自分に暴行を加えた兵士たちが「オスカー」という言葉を話しているのが聞こえた、とも証言した。

この事件はアメリカ国内でも大きく報じられたが、アカデミーはコメントを発表しなかったため、同作の共同監督であるユヴァル・アブラハムさんは「3週間前に賞を与えたのに公式にサポートを表明しなかった」と批判した。
これを受け、アカデミーは3月26日にジャネット・ヤン会長とビル・クレイマーCEOの名前で会員にメールを送付。
メールには「アカデミーには映画の力を通じて世界をつなぐという使命」があるなどと書かれていたものの、バラール氏や『ノー・アザー・ランド』への言及はなかった。
また、暴力を否定するメッセージも含まれておらず、「アカデミーは1万1000人の会員の異なる見解を代表することが重要だ」と書かれていた。
このアカデミーの声明を批判したのが、同団体の会員だ。
メールを受け取った600人以上の会員は、このアカデミーの声明に抗議する形で、「今求められている感情を伝えるものとしてはほど遠い」とする書簡を公開。
「私たちアーティストは、報復措置を受けずにストーリーを伝えられる環境を必要としています。世界に真実を伝えるために、ドキュメンタリー映画制作者が極めて危険な状況に身をさらすことは珍しくありません。3月第1週に作品に賞を与え、わずか数週間後にその映画制作者を擁護しないというのは、到底許されることではありません」とアカデミーの姿勢を批判した。
書簡には「バラール氏に対する攻撃は、単なる一人の映画制作者への攻撃ではなく、不都合な真実を証言し伝えようとするすべての人々への攻撃です」とも書かれており、俳優のスーザン・サランドンさんやマーク・ラファロさん、2024年のアカデミー賞授賞式でイスラエルのガザ攻撃を非難したジョナサン・グレイザー監督らが名を連ねている。

Varietyによると、この書簡が出された後の28日に、アカデミーはバラールさんの名前と『ノー・アザー・ランド』の名前に触れなかったことを詫びる新たな声明を会員に送付した。
声明では「バラール氏と、最初の声明でサポートを提供していないと感じたすべてのアーティストに心よりお詫び申し上げます」と謝罪。
「アカデミーは、世界のどこであれこのような暴力を非難し、いかなる状況においても言論の自由の抑圧を憎悪することを明確にします」と、暴行を非難している。
2024年に発表されたドキュメンタリー映画『ノー・アザー・ランド』は、ヨルダン川西岸で暮らすパレスチナ人が、イスラエル人の入植者に土地を奪われ、故郷が蹂躙されていく様子を世界に伝える作品だ。
パレスチナ人のバラールさん、バーセル・アドラーさん、イスラエル人のアブラハムさん、ラヘル・ショールさんが共同監督を務め、2025年アカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞を受賞した。