育休取ったら「同僚に手当」。エスエス製薬の新制度が、子育て中の社員以外からも絶賛される納得の理由

育児中の社員だけでなく、誰もが働きやすい職場環境にするため、エスエス製薬が社内で新制度を導入した。
エスエス製薬で3月25日に開かれた社会説明会
エスエス製薬で3月25日に開かれた社会説明会
Yuko Funazaki / Huffpost Japan

エスエス製薬は3月25日、社員説明会を開き、育児支援などに関する新たな制度を発表した。

育児中の従業員だけでなく、周囲の同僚の働きやすさも意識した制度に、社員からは歓迎の声が上がっている。

発表された中で最も画期的な制度は、「育休取得者が所属するチームのメンバーに最大10万円の手当を支給する」というものだ。ハフポスト日本版もキャンペーン報道「ネットスラング『子持ち様』問題」で、育児中の社員の業務を代わりに担う同僚へのインセンティブの重要性を報じてきた。

この新制度創設の背景の1つは、従業員へのアンケート調査で、育休を取得しなかった従業員の多くが「申し訳なく感じたから」と回答したこと。同僚に手当てを支給することで、従業員が「申し訳なさ」を感じずに育休を取得できる環境整備に繋げたい考えだ。

全社員向けの新制度としては、家事代行サービス手当の導入が予定されており、サービス利用者は毎月1万円の補助を受けられるようになる。

他にも、政府の補助制度を活用したベビーシッタークーポンの配布や、「ワーキングママ」コミュニティの設立、独自に開発された女性のキャリアメンタリングプログラムなど、計5つの新制度が発表された。

「同僚への手当てが嬉しい」と社員の声

新制度について、社員はどう受け止めているのかーー。

出産を経て約2年前に同社に転職したブランドマネージャーの住吉光莉さんは、新制度の中でも「チームメンバーへの手当が最も嬉しい」と話す。

「私が育休を取った時に最も辛かったのが『ごめんね』という気持ちでした。こんな私がいちゃダメなんじゃないかとか...こうした『心の痛み』が自分のキャリアを妨げてきたので、今回のチームメンバーへの手当て導入がすごくありがたかったです」

ビジネス&イノベーション、アレジオン ブランドマネージャーの住吉光莉さん
ビジネス&イノベーション、アレジオン ブランドマネージャーの住吉光莉さん
Yuko Funazaki / Huffpost Japan

また、同手当は育休取得者が男性の場合も支給される点について、「女性のキャリア構築には、男性が制度をしっかり取得し、家庭で育児がどう行われているかを知ることもとても大事なので、そこにも間接的に良い影響があると思う」と語った。

「メンバーへの手当」は、子どもの有無に関わらず好評だ。

社会人10年目のブランドマネージャー、市川愛さんはこう話す。

「私のマネージャーが産休に入った時に、出産は喜ばしいことで『産休育休どうぞ!』と思っていたんです。でもやはりすごく仕事が増えて…。その時はしょうがないと思って受け入れていましたが、やはり金銭的なサポートがあったらより頑張れるなっていう気持ちが生まれると思うので、すごくいいなと思います」

ブランド&イノベーション イブ ブランドマネージャー 市川 愛さん
ブランド&イノベーション イブ ブランドマネージャー 市川 愛さん
Yuko Funazaki / Huffpost Japan

過去に仕事で「悔しい経験をした」という市川さんは、女性キャリア支援のメンタリング制度にも大きな魅力を感じている。

「社会人5年目に最初の転職をしたとき、当時は営業で多くのお客さんを担当させてもらっていたのですが、上司に『もうそろそろ結婚とかするんでしょ?』と言われ、お客さんを減らされたんです。それが悔しくて。そういうことが起こった時に、会社が設けたメンター制度があれば気軽に相談できて良いと思いました」

独自のメンタリングプログラム

金銭的支援や補助が目をひく中、マーケティング統括本部長の元島陽子さんは、女性のキャリア支援メンタリングプログラムの重要性を語る。

「個人的に一番価値があると思っているのは、メンタリングプログラムです」

エスエス製薬マーケティング統括部長 元島陽子さん
エスエス製薬マーケティング統括部長 元島陽子さん
Yuko Funazaki / Huffpost japan

元島さんが太鼓判を押す同社のプログラムは、女性が「ロールモデル」と繋がり、キャリア展望を思い描く機会を作れるよう、メンタリング(先輩が1対1で後輩らを指導)の専門家と独自に共同開発した。

メンターの事前研修もある。受ける側の「メンティ」は、初年度は社会人10年目前後の女性に特化し、キャリアのモチベーションを高めたり、悩みを相談できる「ロールモデル」とマッチングし、セッションを行なっていく。

「家事サービス手当てなど金銭的なものは、辛い時にサポートしてくれるので、ものすごく大事だと思っています。でもメンタリングは、個人のケイパビリティ(能力や可能性)に根本的に変わるものなので、プログラムが終わっても活きる影響力ですよね。個人の基盤として血となり肉となるメンタリングは未来にも繋がり、ものすごく価値のあるものだと思います」

メンタリングプログラムは、将来的に男性にも広げる可能性もあるという。他の制度も、反応を見て今後対象を広げるなど、改善していく予定だ。

誰もが働きやすい環境へ
誰もが働きやすい環境へ
Narmeen Arshad via Getty Images

女性の就職後「10年目の壁」とは?

これらの新制度を主導したのは、人事担当者ではなく、「制度をより良く変えたい」と有志で集まった子育て中の社員たちだ。

もともとは、鎮痛剤で知られる同社ブランド「EVE(イブ)」が、キャリアにおけるジェンダー格差の解消を目指して2024年に立ち上げた「BeliEVE PROJECT」の一環として、新制度設立のためにメンバーを募集。部署を超えたチームが発足され、そこから約半年かけて新制度導入を実現させた。

同プロジェクトでは22歳から64歳までの男女有職者約4200人を対象にインターネット調査も行い、その中では、女性だからという理由で、社会人10年目を境にキャリアを諦める人が急増する「10年の壁」があることや、それ以前の社会人5年目からキャリア意識に男女格差が生まれていることが明らかになった。つまり、女性はライフステージの変化がある時期に仕事と家庭の両立に苦戦し、理想のキャリアを断念する人が多いのだ。

調査では更に、働く女性を取り巻く環境の課題が、①物理的な制限(時間・体力)、②活用しにくい制度、③「ロールモデル」の不在の3点にあることが明らかになった。

新制度はこうした課題に対して、まず社内から変革を起こす動きの1つだ。

政府の支援も

育休取得者の同僚に「応援手当」を支給する取り組みについては、国も後押しする考えを示している。

厚生労働省は2024年度、両立支援等助成金を拡充。育休取得者の業務を代替する労働者に「応援手当」を支給する中小事業主向けの新コースが設定された。

「育休中など業務代替支援コース」では、業務引き継ぎの体制を整備して手当を支給した場合、育休取得者1人につき最大140万円を助成する。

他にも「出生児両立支援コース」では、男性の育休取得率が30%以上上昇かつ50%達成した場合は、60万円が支給される。

2025年4月からは、改正育児・介護休業法が段階的施行が始まった。男女とも仕事と育児・介護を両立できるよう、子どもの看護休暇の対象年齢引き上げや取得理由の拡大、介護離職防止のための個別の周知・意向確認の義務化などが含まれている。

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