手を使わずパソコン操作が可能に。メガネにつける「4グラム」が人生を変える。JINS ASSIST開発の背景にあった「切実な声」

メガネに着けて使う「JINS ASSIST」は、ハンズフリーでのパソコンの操作を可能にします。開発のきっかけは、手や腕に障害がある当事者や家族からの「切実な声」でした。
JINS ASSIST
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手を使わずに、頭の小さな動きのみでパソコン操作を可能にする、画期的なガジェットが開発された。

大手メガネブランド「JINS」が販売する「JINS ASSIST(ジンズ アシスト)」は、事故や障害が理由で手を使っての細かい操作が難しい人たちのパソコン操作を可能にする。

あらゆる場面でデジタル化が進む中、デジタル技術を扱える人と扱えない人の間に生じる「デジタルデバイド」は、教育や就職での格差にもつながる。

JINS ASSISTはそのような「格差」を解消する目的で開発された。

操作は「うなずき」や「小さな頭の動き」で

JINS ASSIST
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JINS ASSISTは、本体わずか4g(グラム)の小さなガジェット。メガネに装着し、ケーブルでパソコンなどに接続するだけで使うことができる。9gのケーブルと合わせても、わずか13gだ。

JINSの製品以外でも、市販のほとんどのメガネに装着することができ、有線接続のため充電の必要がないという手軽さも魅力の一つ。

使い方は簡単。メガネに装着後、うなずくとカーソルが動き、そのまま頭を動かしてカーソルを移動させ、動作を行いたい場所で止める。クリックする種類を選択できるコマンドが表示されるため、操作に従い左右や上下に頭を動かすだけだ。

補助ソフトではショートカットの設定も可能で、頭の動きで画面のスクロールもできる。

開発のきっかけは、手や腕に障害があるユーザーの「切実な声」

JINSは以前、鼻あて部分に搭載したセンサーで、姿勢や集中力について知ることができる“セルフケアメガネ”の「JINS MEME」を開発し、販売していた。(現在は一般向け販売は終了)

その際、ALS(筋萎縮性側索硬化症)など、手や腕に障害がある人やその家族、数十人から「マウス操作ができるようにならないか」「デジタルデバイスを使って、家族ともっと自由にコミュニケーションをとりたい」という切実な声が寄せられていたという。

それらの声がきっかけとなり、JINS ASSISTの開発が進められた。

JINS ASSIST
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開発責任者でJINS ASSISTプロジェクトマネージャーの菰田泰生(こもだ たいき)さんはハフポストの取材に対し、以下のように語っている。

「一人でも多くの方がデジタルとつながり、日常のなかでできることが増え、その人自身の可能性がひろがって欲しいです。そのきっかけを提供するため、JINS ASSISTを開発しました。

現在、日常生活のあらゆる場面でデジタルデバイスの使用が当たり前になっています。デジタルへのアクセシビリティを高めることで、人々の生活を豊かにし、デジタルデバイスでできることが増えることで、その人の持つ可能性や未来が照らされるきっかけになれると嬉しいです」

開発の過程では、「使いやすさ・操作性」と「価格」のバランスにこだわった。障害がある当事者も参加の上で3回のオープンテストを実施し、試行錯誤を重ねた。テストの参加者から「使いやすさや操作性といった機能はもちろん重要だが、手の届かないような価格にはしないで欲しい」という声があがり、二つを両立させるための仕様を模索した。

菰田さんは、4年に及ぶ開発で困難だったのは、「簡単に使い始められ、使い続けやすく、疲れにくいなど全ての要件を、頭の小さな動きで操作できるよう落とし込むこと」だったと振り返る。

商品化まで3回ほど一から作り直し、プログラミングのコードを約500回書き換えた。結果的に開発当初のコード規模から20倍の規模になった。

群馬県前橋市と共催した体験会では、障害を理由にこれまでデジタルデバイスを使ったことがない人たちもJINS ASSISTを使ってeスポーツに挑戦。操作方法をすぐに覚えて笑顔でゲームをプレーし、「今後パソコンやゲームにも挑戦してみたい」との声も上がったという。

前橋市の障害者サポートセンターで、JINS ASSISTを使ってeスポーツに挑戦する様子
前橋市の障害者サポートセンターで、JINS ASSISTを使ってeスポーツに挑戦する様子
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発売翌日に初回入荷分を完売。再入荷するほどの大反響

JINSは2月26日に、税込1万5000円でJINS ASSISTを発売。JINSオンラインショップに加え、障害がある人たちに情報が届くよう、利用者数40万人を超えるスマホアプリのデジタル障害者手帳「ミライロID」内にあるオンラインストア「ミライロストア」でも販売している。

JINSによると、発売翌日には初回入荷分が完売し、発売当初から予想を超える多くの反響があった。担当者は「初動の購入客層は、ハンズフリーマウスとしての可能性を感じたガジェット好きの層が多かったと推定していますが、頚椎損傷・脊椎損傷の方にもご購入いただきました」とする。現在は再入荷して販売中だ。

「PC操作の悩みを一気に解決」

JINSは、交通事故で四肢麻痺や体幹機能障害を負った2人が、JINS ASSISTを2カ月間体験した動画2本も公開中。2017年からスポーツ中の事故により車椅子を使うようになった本間未来さんが出演する動画では、JINS ASSISTを使って仕事をする様子が紹介されている。

企業でレポート作成などの業務を担当する本間さんは、以前は指の関節でのドラッグやスクロールなどの操作に苦戦していたが、JINS ASSISTにより、プレゼンテーションのスライド作成などもスムーズにできるようになった。

本間さんは「私のPC操作の悩みを一気に解決してくれた」「JINS ASSISTのようなツールがあれば、みんなと同じようにPCが使え仕事ができます。障害の有無に関わらず、みんなで一緒のなにかをつくりあげることもできる」とコメントしている。

JINS ASSISTを使ってPC操作を行う本間未来さん(動画より)
JINS ASSISTを使ってPC操作を行う本間未来さん(動画より)
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JINS ASSISTは、障害がある人たちのパソコン操作を可能にするだけでなく、高齢者や、パソコン利用時間が長いビジネスパーソンにも便利なアイテムのため、さらに注目を集めている。

(取材・文=冨田すみれ子)

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