トランプ政権が「攻撃計画」を漏洩、チャットにいた記者が全文を公開。何が起きたのか

政権幹部らが使っていたのはメッセージアプリ「シグナル」。誤って記者を追加し、攻撃計画などの機密情報が漏洩した
(手前から)マイク・ウォルツ大統領補佐官、ヘグセス国防長官、ヴァンス副大統領(2025年3月13日)
(手前から)マイク・ウォルツ大統領補佐官、ヘグセス国防長官、ヴァンス副大統領(2025年3月13日)
Andrew Harnik via Getty Images

トランプ政権の幹部が軍の攻撃計画をやり取りしていたグループチャットに、誤って記者が追加されて機密情報が漏洩したことが明らかになり、衝撃が広がっている。

この問題で、メッセージアプリ「シグナル」のグループチャットに追加されたアトランティック誌のジェフリー・ゴールドバーグ編集長が3月26日、目にしたやり取り全文を公開した。

メッセージにはイエメンのフーシ派に対する具体的な攻撃計画や、国家安全保障に関する機密情報が含まれていた。

記者がグループチャットに追加された経緯

アトランティックはこの問題を「トランプ政権が私に間違って戦争計画を送ってきた」というタイトルで3月24日に報じた。記事を執筆したゴールドバーグ氏は、米国家安全保障担当のウォルツ大統領補佐官によって、誤ってシグナルのグループチャットに追加されたと説明している。

グループチャットには、ヘグセス国防長官や、ヴァンス副大統領、ギャバード国家情報長官、ルビオ国務長官らトランプ政権で国家安全保障に携わる20人近くの高官らが参加していたという。

チャットではイエメン・フーシ派への攻撃に対する具体的な情報など「戦争計画」のやり取りが行われており、ゴールドバーグ氏は当初、巧妙な詐欺か偽情報のグループではないかと疑ったとしている。

しかし、チャットに追加されてから4日後の3月15日に、ヘグセス国防長官が2時間後に実行予定のイエメンへの攻撃について送信し、その攻撃が計画通りに行われたことでグループが本物だと認識。この時点でグループから抜けたという。

ゴールドバーグ氏はその後、チャットの信憑性について政府高官に問い合わせ、国家安全保障会議(NSC)広報のブライアン・ヒューズ氏から、本物だと説明を受けたとしている。

ヒューズ氏はハフポストUS版の取材に「本物のメッセージのやり取りのようであり、どのような誤りで番号が追加されたのかを現在調査しています」と述べた。

政権の幹部がシグナルのような第三者機関のメッセージアプリを使って機密事項を送るというのは、国の安全保障に重大な脅威を与えかねない行為だ。

アトランティックが記事を出した24日の前週には、シグナルの使用を禁じる通達が国防総省全体に出されたと報じられている

この通達メールには、「シグナルの脆弱性が確認された」「ロシアのハッキンググループがシグナルを利用して重要人物をスパイしようとしている」などの警告が含まれていた。

NurPhoto via Getty Images

政権は「機密情報ではない」と主張

一方、アトランティックの報道後、トランプ政権の幹部らは「グループチャットでは、戦争計画や機密情報を取り扱う議論はなかった」と反論した。

ホワイトハウスのレビット報道官は25日、「『戦争計画』は一切議論されていなかった」「機密情報は投稿されていない」とXに書き込んだ。

ヘグセス国防長官も「誰も戦争計画を書き込んでいなかった」と反論した。トランプ大統領も「機密情報はなかった」と述べている

アトランティックの24日の記事には、一部のメッセージの詳細は書かれていなかった。

しかし、トランプ大統領や政権幹部らが機密情報は含まれていないと主張したことを受け、「どれほど機密性の高い議論だったのかを読者自らに判断してもらうため」として、26日にやり取りを公開した。

ゴールドバーグ氏は、CIAの依頼で一部の情報は削除したものの、ほぼ全文を公開したと説明している。

アトランティックがグループチャットのやり取りを公開した後も、ヘグセス国防長官は、機密情報ではないと主張している。

ヘグセス氏は26日、「アトランティックは『戦争計画』を公開したらしいが、その『計画』には名前も、標的も場所も部隊もルートも情報源も手法も、機密情報も含まれていない。ひどい戦争計画だ」とXに投稿した。

しかし、アトランティックが公開したスクリーンショットで、ヘグセス国防長官は「フーシ派 PC 小グループ」と名付けられたチャットグループに、次のような攻撃計画の詳細なスケジュールを投稿していた。

【アトランティックが公開したヘグセス氏が投稿したメッセージの一部】

1215 ET: F-18発進(第1攻撃編隊)

1345: 「トリガーベース」F-18第1攻撃ウィンドウ開始(標的のテロリストの居場所はわかっているので予定通りに実行可能なはずだ。MQ-9攻撃ドローンも発進)

1410: 追加のF-18発進(第2攻撃編隊)

1415: 攻撃ドローンが目標地点に到達(この時点で、最初の爆撃が確実に開始される。先行する「トリガーベース」の標的次第)

1536: F-18第2攻撃開始。最初の海上からのトマホークミサイル発射。

この後も続く(スケジュールに沿って)

現在、OPSEC(作戦上のセキュリティー)は問題なし

我が戦闘員らの成功を祈る

ホワイトハウスで話すウォルツ氏とヘグセス国防長官(2025年2月24日)
ホワイトハウスで話すウォルツ氏とヘグセス国防長官(2025年2月24日)
via Associated Press

壊滅的な結果を生んでいた可能性も

ヘグセス氏がグループにメッセージを送ってからわずか31分後に、アメリカの戦闘機が攻撃のために飛び立ったとされる。

アトランティックは26日の記事で、「もしアメリカに敵対的な人物、あるいは単に軽率な人物がこのメッセージを受け取り、ソーシャルメディアに投稿していたら、フーシ派は自らの強固な拠点に対する奇襲攻撃に備える時間ができていただろう。アメリカのパイロットにとって、その結果は壊滅的なものになり得た」としている。

一方で、トランプ政権は情報漏洩は自分たちの責任ではないという姿勢をみせている。

ラトクリフCIA長官はシグナルの利用について「現政権ではなく、バイデン政権から続く慣行だ」と25日の上院情報委員会で主張した。

これに対し、バイデン政権で国家安全保障に携わった元高官は「政府の携帯電話でシグナルの使用は許可されていなかった」と匿名を条件にハフポストUS版に述べた。

「仕事用の携帯電話で、メッセージアプリをインストールすることは一切許可されていませんでした。機密性のないメッセージアプリを使用して、機密情報を送受信することは、いかなる状況下でも許されませんでした。これは最悪の間違いです」

ウォルツ大統領補佐官は25日のFOXのインタビューで、ゴールドバーグ氏が意図的にチャットグループに入り込んだ可能性があるという考えを示した。

「他の人の番号は、他の人の連絡先に登録されているのだから、もちろん私にはその『負け犬』がグループの中にいるのがわかりませんでした」とウォルツ氏は述べている。

「別の人のように見えました。彼が意図的にやったのか、他の技術的な方法でそうなったのかは今調べているところです」

トランプ氏は、今回の問題を「魔女狩り」と述べ、重大な問題ではないという態度をとっているが、情報漏洩は共和党議員からも批判されている。

ジョン・コーニン上院議員は24日、「大失敗だと思います。ほかにどう説明できるというのでしょうか。シグナルで機密情報を扱うべきではないと思います」と記者団の取材に述べた。

 ハフポストUS版の記事を翻訳・加筆・編集しました。

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