
大阪高裁の本多久美子裁判長は3月25日、一審の地裁判決を覆し、同性パートナーとの結婚を認めない民法などの規定は、違法とする判決を言い渡した。
LGBTQ+当事者が結婚の平等を求めている全国5カ所計6件の裁判。高裁で判決が出た5件全てで、違憲と判断されている。
違憲と判断したのは、以下の2つ。
・「すべての国民は平等で、性別などにより差別されない」と定めた憲法14条1項
「結婚や家族に関する法律は個人の尊厳と両性の本質的平等に基づいて制定すべき」とする憲法24条2項
大阪高裁はどのような点を違憲と判断したのか。判決要旨全文を掲載する。
【大阪高裁・判決要旨全文】
判決要旨
【判決言渡し】 令和7年3月25日午前11時
【事件番号】 大阪高等裁判所令和4年(ネ)第1675号損害賠償請求控訴事件
(原審:大阪地方裁判所平成31年(ワ)第1258号)
【裁判所】 大阪高等裁判所第14民事部
裁判長裁判官 本多久美子 裁判官 小堀悟 裁判官 寺本佳子
【当事者】 控訴人 (1審原告) 控訴人 1~6 被控訴人 (1審被告) 国
【主文】 本件各控訴をいずれも棄却する。 控訴費用は控訴人らの負担とする。
【事案の要旨】
控訴人らは、同性の者と婚姻をしようとして婚姻の届出をしたが、両者が同性であることを理由に不受理処分を受けた。控訴人らは、同性間の婚姻を認めていない民法及び戸籍法の規定(本件諸規定)は、憲法24条、13条、14条1項に違反し、国会が同性間の婚姻を認める立法措置を講じないことは違法であると主張して、被控訴人に対し、国家賠償法1条1項に基づき損害賠償(慰謝料各100万円)を請求している。
原審は、本件諸規定は憲法の規定に違反するものではないとして、控訴人らの請求をいずれも棄却した。
【主な争点】
1 本件諸規定の憲法適合性(憲法24条、13条、14条1項違反の有無)
2 本件諸規定を改廃し、同性婚を法制化しない立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法であるか
3 控訴人らの損害の有無及び額
【理由の要旨】
1 本件諸規定の憲法適合性(憲法24条、13条、14条1項違反の有無)
(1) 憲法24条における「婚姻」の意義及び婚姻の自由の保障
憲法24条は、戸主の同意など婚姻当事者以外の第三者の介入によって婚姻の成否が左右され、男性である夫の法的優位性を認めた明治民法と決別し、婚姻及び家族に関する法的規律を個人の尊厳と両性の本質的平等という憲法の基本原理によるべきこととして、国民の家族生活における民主的基盤の確立を図り、かつ、家族生活及び親族的身分関係の中心となる婚姻については、上記基本原理並びにこれにより導かれる婚姻の自律性、婚姻当事者の権利の同等性、婚姻維持における相互協力性を基本原則として法律により制度を構築すべきことを宣言したものである。
したがって、憲法24条における「婚姻」は、上記基本原理及び基本原則に則って法律により具体化される制度をいうものと解される。
憲法24条は、「婚姻」が異性婚であることを前提として制定されたが、異性婚のみが婚姻法の基本原理及び基本原則に沿うことを規定したものではなく、将来にわたって婚姻当事者を異性同士に限定し、同性婚を婚姻制度から排除する趣旨を含むものと解することはできない。憲法24条にいう「婚姻」は、親族的身分関係の基礎となる、一男一女が継続的に共同生活を営む人的結合関係を典型とするものの、これに限られるものではなく、それ以外の人的結合関係その法律婚化は、個人の尊厳と両性の本質的平等に則り、国の伝統や国民感情を含めた社会状況における種々の要因を踏まえつつ、それぞれの時代の社会の在り方に相応しいものであるかという観点からの検討を経て、具体化されるべきものであり、同性婚の法制化の要否は、同条2項によって画された立法裁量の範囲の問題であると解するのが相当である。
したがって、憲法24条1項が直ちに同性間の婚姻の自由を保障し、同性婚の法制化を要請しているものと解することはできない。
(2) 憲法13条における婚姻の自由の保障
婚姻をするについての自由は、憲法の定める基本原理及び基本原則に則った婚姻を具体化する法律に基づく制度によって初めて個人に与えられるか、又はそれを前提とした自由であり、憲法13条が同性と婚姻をする自由を人格権の一内容として直接保障し、同性婚の法制化を立法府に義務付けていると解することはできない。
したがって、同性婚を認めていない本件諸規定が直ちに憲法13条に違反するとはいえない。
もっとも、婚姻をすることによる法的、社会的利益は大きく、同性カップルにとっても、婚姻制度を利用することができることは重要な人格的利益であるから、その保護は、国会の立法裁量の範囲を画する個人の尊厳の要請の解釈に当たって考慮すべきことになる。
(3) 本件諸規定の憲法24条2項適合性
ア 個人の尊厳の要請からの検討
現行の法律婚制度は、配偶者との共同生活を中心とする人的結合関係を、社会を構成する基本的単位として承認し、法的な権利義務関係として規律し、親族的身分関係を形成するものとして登録、公証し、解消にも法的規律を及ぼすことにより、長期的かつ安定的なものとして保護するものであり、各種社会制度においても配偶者の地位に法的効果が付与されるなど、社会生活の様々な場面において婚姻当事者であることによる格別の扱いがされている。我が国においては法律婚を尊重する意識が浸透しており、婚姻は人生における幸福追求のための重要な選択肢となっている。
したがって、相互に求め合う者同士が婚姻をすることができる利益は、個人の人格的生存と結びついた重要な法的利益に当たり、同性カップルがこれを享受することができないのは、同性カップルの人格的利益を著しく損なうこととなる。
我が国において法制化された婚姻制度は、自然生殖の可能性があることと一体のものとされておらず、自然な性愛感情を抱き合う関係自体を婚姻関係として保護するものであるから、それが同性であっても、関係を保護することに障壁がなければ異性と同等に扱うのが個人の尊厳の要請に適う。
同性愛は病理ではなく、性的指向は、ほぼ生来的に決定され意思によって変更することができない属性であることが明らかになり、性的指向による差別の解消の動きは国内外で活発化し、同性婚を法制化する諸外国の情勢等を受けて、我が国においても、地方公共団体におけるパートナーシップ認定制度が急速に広がり、各種団体から同性婚に賛同する意見表明がされ、世論調査においても同性婚の法制化に賛成する意見が反対意見を上回るなど、同性婚の法制化を受け入れる社会環境が整い、国民意識も醸成されている。
妻が産んだ子を夫の子と推定する嫡出推定制度は婚姻の主要な効果の一つであるが、これは第一次的には子の福祉及び利益を第一に制度設計されるべき親子法制の分野に関わる事項である。生殖及び家族の在り方等が多様化した現代社会において、嫡出推定制度が婚姻における不可欠かつ本質的要素であるということはできず、同性婚の法制化に当たって、嫡出推定規定の適用の可否について議論を要するところがあることは、同性婚の法制化を否定する事情には当たらない。
婚姻制度は、国民生活の基盤であり、制度設計に当たって多様な国民感情に配慮する必要もある。しかし、同性婚の法制化は、同性カップルにも異性カップルと同様に権利と責任を伴う安定的な共同生活を継続的に営む法的地位を付与するものであり、国民一人一人にとっての婚姻の意義や主観的価値を損なうものではなく、国民感情が一様でないことは、同性婚を法制化しない合理的理由にならない。
したがって、同性婚を許容しない本件諸規定は、性的指向が同性に向く者の個人の尊厳を著しく損なう不合理なものである。
イ 法の下の平等の要請からの検討
現行の婚姻法制は、婚姻を、性愛を基礎とする親族身分的人的結合として規定しているものと解される。性的指向が異性に向く者は愛し合うパートナーと婚姻をすることができるのに対し、性的指向が同性に向く者は愛し合うパートナーと婚姻をすることができないのであるから、本件諸規定は婚姻制度の利用の可否について性的指向による実質的な区別取扱いをしているものといえる。性的指向は自己の意思によって左右することができない自然的属性であり、同性カップルが互いに自然な愛情を抱き、法的保護を受けながら相互に協力して共同生活を営むことは、異性カップルと同様に人格的生存にとって重要であり、現在では、社会の倫理、健全な社会道徳、公益のいずれにも反するものでないとの社会的認識が確立しているといえる。そうであるのに、異性カップルは婚姻をし、親族的身分関係を形成し、互いに権利と責任を負い、各種の法的効果を享受して安定した共同生活を営むことができる一方、同性カップルはこのような法的利益を享受することができないのであるから、同性カップルが被る不利益は著しく大きく、このような差異をやむを得ないものとして正当化できる根拠は見出し難い。
したがって、本件諸規定が、異性婚のみを保護することを目的とし、同性婚を認めず、性的指向により婚姻制度利用について区別した取扱いをしていることは、事柄の性質に即応した合理的根拠に基づくものということはできず、法の下の平等原理に反し、憲法14条1項に違反するというべきである。なお、同性カップルの法的保護を法律上の婚姻と異なる形式で行うことは、性的指向という人間の自然的、本質的属性によって、その属性に基づく人格的生存の在り方において合理的理由のない差異を設けることになり、法の下の平等の原則に悖るものといわざるを得ないし、同性カップルについてのみ婚姻とは別の制度を設けることは、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解が必ずしも十分でない現状に鑑みると、新たな差別を生み出すとの危惧が拭えない。
したがって、近年パートナーシップ認定制度の導入・拡大が急速に進んでいることなどの事情は、前記区別取扱いが憲法14条1項に違反するとの上記結論を左右しないし、同性カップルについて諸外国において導入されているような法律婚以外の制度を設けたとしても、現時点において異性カップルと同性カップルの間に生じている不合理な差別を根本的に解消し得ないというべきである。
(4) 以上のとおり、現時点において同性婚を法律婚の対象としない本件諸規定は、性的指向が同性に向く者の個人の尊厳を著しく損なう不合理なものであり、かつ、婚姻制度の利用の可否について性的指向による不合理な差別をするものとして法の下の平等の原則に反するから、国会の立法の裁量の範囲を超えるものであって、憲法14条1項及び24条2項に違反するものというべきである。
2 本件諸規定を改廃し、同性婚を法制化しない立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法であるか
同性婚の法制化が憲法上の要請であるかは、憲法の文言上、一義的に明らかとはいえず、国内外の情勢変化に伴い、同性婚を許容し、あるいはこれを推し進める必要があるとの国民意識の高まりや社会情勢の変化はここ数年顕著であるものの、伝統的婚姻観を有する国民も相応に存在し、同性婚を認めないことが憲法に反するかどうかは、同種訴訟における下級審裁判例の判断も分かれており、最高裁判所における統一的判断はされていない。これらのことからすると、現時点において、同性婚を法制化しないことが憲法14条1項及び24条2項に違反することが国会にとって明白であるとか、国会が正当な理由なく長期にわたって法制化を怠っていたということはできず、上記立法不作為が、国家賠償法1条1項の適用上違法であるということはできない。
3 結論
よって、その余の点について判断するまでもなく、控訴人らの請求はいずれも理由がないから、これを棄却した原判決は結論において相当である。
以上