
5つの高裁すべてが「違憲」と判断。
法律上同性カップルの結婚を認めていない民法などの規定は憲法違反だとして、性的マイノリティ当事者が国を訴えていた裁判は3月25日、大阪高裁で違憲判決が言い渡された。
これで、札幌、東京、福岡、名古屋、大阪の5つの高裁すべてで違憲と判断されたことになる。
大阪高裁の本多久美子裁判長は判決で、同性カップルの結婚を認めていない現在の民法や戸籍法の規定は「性的指向による差別」で「同性カップルの個人の尊厳を著しく損なう」ものだと認定。憲法14条1項と24条2項違反だと判断した。
一連の裁判では、これまで大阪地裁だけが同性カップルの結婚を認めない法律の規定を「合憲」と判断していたが、今回の高裁判決により覆された。

また、大阪高裁では「同性カップルのために結婚とは別の制度を作ることは、新たな差別を生み出す」というこれまでよりも踏み込んだ判断も示された。
5つの高裁すべてで違憲と判断されたことについて、原告の三輪晃義弁護士は「非常事態だと思っている」と判決後の記者会見で述べた。
「裁判所がこれほど違憲としているのは『何とかしないといけない』という意味です。違憲の法律が放置されている非常事態だと思います。国会、政府はこのメッセージを、真剣に受け止めているのだろうかと危惧しています」

結婚を認めない法律は性的指向に基づく差別と認定
判決後、原告は笑顔と嬉し涙を浮かべながら、「唯一の合憲判決くつがえる」と書かれた旗を掲げた。
原告の坂田麻智さんは「合憲とした大阪地裁判決は間違いだということが示され、ほっとしています」と判決後の記者会見で述べた。
パートナーの坂田テレサさんも、集まった多くの支援者を前に「この裁判は原告だけじゃない裁判と思っています。みんなの声が届いたと感じました」と喜びを口にした。
この裁判の関西訴訟では、3組の同性カップルが、パートナーとの結婚を認めていない民法や戸籍法の規定は憲法24条1項、2項、14条1項に違反すると訴えていた。

一審の大阪地裁は、結婚の目的を「子を産み育てる男女の関係を社会が保護するためのもの」として、同性カップルの結婚を認めていない現在の法律を合憲としていた。
これに対し、大阪高裁は「子どもをもうけることや自然生殖能力があることは結婚の要件とはされていない」として、結婚は子を産み育てるためのものという考えを否定。
結婚の目的は「性愛感情を抱きあう関係自体を保護するもの」で、個人の尊厳の観点から同性同士も異性と同等に扱うべきだとした。
また、「同性カップルは結婚することで得られる人格的生存と結びついた法的利益を享受できておらず、人格的利益が著しく損なわれている」とも判断。
同性カップルの結婚を認めていない法律は同性愛者の個人の尊厳を著しく損なう不合理なもので、憲法24条2項違反だとした。
さらに、男女カップルが利用できる結婚制度を同性カップルが使えず、法的な家族となって結婚がもたらす権利などを享受し、安定した共同生活を送れないことは、性的指向に基づく差別で、憲法14条1項違反だと認定した。

別制度ではダメと判断
これまでに言い渡された11件の判決の中には、現在の婚姻制度とは別に、パートナーシップのような同性カップルのための結婚と類似の制度を作り、差別を解消するという方法もあると判断したものもある。
しかし原告は、別制度を作って異なる扱いをすることは同性愛者を2級市民扱いすることであり、別制度自体が差別になると訴えてきた。
大阪高裁はこの点について、同性カップル用の別の結婚制度を作ることは「性的指向に基づく、合理的な理由のない差異を設けることになり、法の下の平等の原則に反する」と指摘。「新たな差別を生み出す」という懸念も示した。
別制度については、これまで福岡高裁が「異性婚と同じ法的な婚姻制度の利用を認めるのでなければ差別は解消されない」と判断している。
三輪さんは「大阪高裁は、別制度は有害で新たな差別を生み出すと福岡高裁よりさらに一歩踏み込んだ判断をしている。今後作られなければならない法律のあり方に影響を与える重要な内容だと考えています」と述べた。
「注視」はもう十分
大阪高裁は憲法24条2項と14条1項違反とした一方で、24条1項については、「同性婚の法制化を要請しているものとまでは言えない」と判断。
「同性婚の法制化は、24条2項に関する問題だ」という見解も示し、24条1項が違憲か合憲かについては明確な判断を示さなかった。
また、原告は「国が違憲の法律を放置し、結婚が認められなかったことで精神的な損害を被った」として1人当たり100万円の賠償金支払いを求めていたが、この訴えは認められなかった。
大阪高裁はこの点について、地裁の判断がわかれていることや、最高裁の判断がまだ示されていないことなどを理由に、国会が正当な理由なく長期間法制化を怠っていたということはできないとした。
この判断について、原告の川田有希さんは「もっと国会に早く立法するよう伝えてほしかった」と述べた。
川田さんのパートナーで原告の田中昭全(あきよし)さんは、「高裁すべてが違憲判決なので、あとは立法が動くだけだと思っています」と、1日も早い結婚の平等のための法整備を求めた。

2019年に始まったこの訴訟では、11件の判決中、10件で違憲/違憲状態が示されている。
それでも政府は「裁判の行方を注視する」などと答えるにとどまり、違憲とされた法律を改正する姿勢を見せていない。
裁判が始まってから6年の間に、パートナーと結婚をしたいという望みを叶えられなかった原告もいる。
大阪高裁で判決が言い渡された3月25日は、この裁判の東京1次訴訟の原告で、 2021年に亡くなった佐藤郁夫さんの誕生日だった。
三輪さんは、誕生日に良い判決が示されたことを歓迎しつつも「ご存命の間に同性カップルが結婚できる社会を見せることができなかったのは痛恨の極みだと思っています」と述べ、こう訴えた。
「もう注視は充分です。一刻も早く立法に向けた作業を始めてほしいと思います」