
これまで、ディズニーは『リトル・マーメイド』や『美女と野獣』、『アラジン』など、多くのアニメ作品を実写でリメイクしてきた。最新作は、ディズニー映画の原点である『白雪姫』だ。
しかし、『白雪姫』は制作決定から公開まで、物議を醸し続けている。
白雪姫をレイチェル・ゼグラーさんが、邪悪な女王をガル・ガドットさんが演じている同作品。いったい何が公開までの道のりをこれほどまでに波乱に満ちたものにしたのかーー。
時系列で紹介しよう⬇︎
1. 原作のアニメ映画『白雪姫』に関するゼグラーさんとガドットさんの発言
ゼグラーさんが最初に批判を受けたのは2022年。ディズニーのファンイベントD23に出席し、アニメ映画『白雪姫』に対して放った発言がきっかけだった。
ゼグラーさんは米エンタメメディアExtraに「原作アニメは1937年に公開されたもので、それは見れば明らかです。白雪姫と彼女のストーカーのような男性との『ラブストーリー』に大きな焦点が当てられてる。ほんと、奇妙ですよね。だから、今回はその部分は再現しませんでした」と話した。
その内容は、一部の作品ファンにとって「侮辱的」と受け止められた。
また、実写版は「ラブストーリーでは全くなく、それは素晴らしいこと。白雪姫が愛を見つけるかは公開日まで誰も分かりません」と語った。

同じイベントでガドットさんはVarietyに、実写リメイク版では「白雪姫は王子に救われることはありません」と述べ、ゼグラーさんも「彼女は本当の愛に憧れることはせず、亡き父親に伝えられた『恐れず、公正で、勇敢であればなれるリーダー』になることを夢見るんです」と共感し、「世界中の若者が自分を重ね合わせることができる、素晴らしいストーリーなんです」と語った。
こうした発言もまた、「原作を軽視している」と一部のファンに捉えられ、非難の的となった。
ゼグラーさんはその2年後、原作に対する自身のコメントがファンに曲解されたことを「悲しかった」と語っている。
「女性は何でもできると信じています。そして、全部できるとも信じています」とゼグラーさんはVarietyに話し、こう続けた。
「『愛を求めるなら仕事はできない』とか『働くなら家族は持てない』など追いつめるようなことは決してしたくありません。それは真実ではないからです。
実写版には、1937年の原作で主人公が歌った歌曲「いつか王子様が」は登場しない。代わりに、最近公開された動画では、実写版用に書き下ろされたオリジナル曲「夢に見る ~Waiting On A Wish~」をゼグラーさんが歌っている。
2. 配役への人種差別的な批判
原作では「雪のように白い」肌をもつ主人公に、ラテン系俳優のゼグラーさんがキャスティングされたことに不満を持つ人々から批判の声が上がった。
ゼグラーさんは2022年、Varietyに「配役が発表されると人々は怒り、Twitterでは大騒ぎになり何日間もトレンド入りしていました」と語った。
「私が白雪姫を演じるなんて、そんな可能性を1ミリも想像していませんでした。普通、ラテン系の白雪姫なんて見かけませんから」
批判を受けても、「結局、私にはとても嬉しい仕事。だって、ラテン系のプリンセスになれるんだから」と話していた。
しかし、ゼグラーさんとディズニーに対する批判は翌年になっても収まらなかった。
ゼグラーさんはTwitterで「ネット上で私を擁護してくれる人たちからの愛にはとても感謝しています」と述べた一方、「私のキャスティングに関する無意味な談話にはタグ付けしないでほしい」「本当に見たくない」と投稿。
幼少期のゼグラーさんが白雪姫と「美女と野獣」のベルに扮した写真と共に、「すべての子どもが、何があってもプリンセスでなれることを知っていて欲しい」とコメントを添えた。
リメイク版『白雪姫』では、原作童話のいくつかのバージョンにあるように、主人公の名前は、家族と吹雪を生き延びた後、「立ち直る力」を思い出すように両親に名付けられたと明かされる。
3. 小人たちの描写
『ゲーム・オブ・スローンズ』のティリオン役で知られる俳優ピーター・ディンクレイジさんが、実写版『白雪姫』の実写版映画化を「偽善的」と批判した。
低身長の症状がある軟骨無形成症のディンクレイジさんは2022年に出演したポッドキャストで「白雪姫役に誇らしげにラテン系俳優を起用する一方、『白雪姫と7人の小人』のストーリーを語ることに、ちょっと呆気にとられた」と述べ、「ある意味進歩している半面、洞窟で生活する7人の小人という、時代を逆行する様な物語を作っているなんて」と落胆の声を上げた。
これに対してディズニーの広報担当者はHollywood Reporterに、7人の小人たちに関しては違うアプローチをしていく、と声明で述べた。
「オリジナルのアニメーション映画からのステレオタイプを悪化させないよう、低身長症のコミュニティーと相談しながら、7人の小人のキャラクターには違った取り組み方をしています」
結局、7人の小人たちはモーションキャプチャー技術を使ったCGIキャラクターで表現されている。また、小人たちの声優7人のうち、小人症の俳優は1人しか起用されていない。
この小人たちの描き方に、小人症の俳優たちからは反発の声が上がっている。
低身長症のチュン・タンさんは英Dail Mailに、ディズニーの今回のやり方は小人症の俳優の機会を奪っており、「ある意味、差別だ」と話す。
「才能があり、これらの役を演じたかった俳優はたくさんいるのに、私たちの数少ない機会のひとつが奪われてしまった」
今作のタイトルは、原作アニメの『Snow White and the Seven Dwarfs(白雪姫と7人の小人たち)」から、実写版では『Snow White(白雪姫)』だけに変わっており、7人の小人たちのストーリー内での役割が縮小されていることが示唆されている点も注目されている。(※日本では原作アニメ版タイトルも『白雪姫』だけだったが、英語のタイトルは『Snow White and the Seven Dwarfs(白雪姫と7人の小人たち)』だった)
4. イスラエル人俳優ガル・ガドットさんの起用
イスラエル人俳優ガドットのキャスティングもまた、ゼグラーさんとは違う理由で批判を浴びた。ガドットさんは過去にイスラエル軍に2年間在籍しており、中東での紛争が続く中、イスラエル支持を表明しているからだ。
一方、ゼグラーさんは2021からパレスチナを支持を表明している。
2024年に映画の告知動画が配信された際、ゼグラーさんはXで「みんな大好き!たった24時間で動画閲覧数1億2000万回もありがとう」と投稿し、「あと、Free Palestine(パレスチナを解放せよ)を常に忘れないで」と追加でコメントした。
パレスチナへの支持についてゼグラーさんは10月、Varietyに「子どもたちが死ぬのを見ていられない。それが浅はかな考えだとは思いません」と語った。
「私は自分の感じたこと、そしてそれに対する自分の行動にしか責任を持てません」と述べ、「2023年10月7日にハマスがイスラエルへの攻撃を開始してから1年が経とうとしていますが、私はこの紛争も何年も追いかけてきました。多くの人のように、両地域で発生している恐ろしい死者の数に心を痛めています」と話した。
実写版『白雪姫』のガドットさんのキャスティングに加え、『キャプテン・アメリカ』のイスラエル人ヒーローのキャラクターと、その役へのイスラエル人俳優起用を受け、ボイコットや制裁措置などを通じてイスラエルの占領政策に抗議するBDS運動は、動画配信サービス「Disney+」のボイコットを呼びかけた。
イスラエルの学術文化ボイコット運動を呼びかける団体のアリア・マラックさんも英Guardianヘの声明の中で、『白雪姫』のボイコットを奨励し、こう述べた。
「主演のゼグラーさんがパレスチナ解放への支持を公表してくれたことに感謝しています。しかし、イスラエルの”文化大使”の起用によって生じた損害を取り消すには十分ではありません」
5. トランプ氏再選へのゼグラーさんのコメント
2024年のアメリカ大統領選の結果が出た翌朝、ゼグラーさんはソーシャルメディアに「この国は深刻な病気が蔓延してる。トランプの支持者、投票者、そしてトランプ自身が決して平和を知ることがありませんように」と投稿した。
右翼からの反発を受ける中、その1週間後ゼグラーさんは同投稿について、「憎しみと怒りのせいで、私たちは平和と理解からどんどん遠ざかってしまいました。そしてそのネガティブな言説に加担してしまいお詫びします」と謝罪した。
この時期、ディズニーは右翼による批判に屈していると指摘されている最中だった。
トランプ氏によるDEIの取り組み削減の方針を受け、ディズニーは自社のDEIスキームを縮小する予定だと報じられた。
後にDeadlineにリークされ公開された社内メモには、ディズニーの人事が「ビジネス目標と企業の価値観」に集中するため変更が行われたと述べている。
時を同じくして、ディズニーが動画配信プラットフォーム上での時代遅れのコンテンツに対して視聴前に流れる注意喚起を調整していることも明らかになった。
これらの変革の前にはすでに、ピクサー制作の新作アニメシリーズ「Win or Lose(ウィンORルーズ)」から、トランスジェンダーのキャラクターの話が削除されたり、「プリンセスと魔法のキス」の主人公ティアナを題材にしたスピンオフシリーズ作品の制作が打ち切られたりしていた。
6. プレミア上映の縮小
こうした論争の中、ディズニーは実写版『白雪姫』のプロモーションを縮小している。ヨーロッパでのプレミアはロンドンではなく、原作アニメーション『白雪姫』の城のモデルとなったとされているスペインのセゴビア城でメディアを制限し行われた。

ハリウッドでのプレミアも、ヨーロッパ同様に小規模なイベントとなり、レッドカーペットでの俳優へのインタビューも行われなかったとHollywood Reporterは報じている。
実写版『白雪姫』は日本で3月20日から公開される。
ハフポストUK版の記事を翻訳・編集・加筆しました。