洋楽シーンをリードしてきた大手レコード会社「ユニバーサル ミュージック」が、アーティストの楽曲を通じて英語教育を促進するプロジェクト「UM English Lab.」(読み:ユーエムイングリッシュラボ)をスタートした。
3月14日、渋谷区立原宿外苑中学校で記者会見を開き、30人の生徒にレディー・ガガのヒット曲を活用した体験授業も行った。
「洋楽の売り上げ10%以下に」
「UM English Lab.」は、ユニバーサル ミュージックが擁する豊富な洋楽アーティストの楽曲を生かして、オリジナルの英語の副教材を制作し、全国の英語教師に無償で提供。楽曲著作権は同社ですべて負担する。
これまでも学校教育で使われていたビートルズやカーペンターズなどだけではなく、テイラー・スウィフト、ジャスティン・ビーバー、ビリー・アイリッシュ、レディー・ガガらの最新の楽曲を通じて、現在の海外文化と地続きの英語教育を目指す。
ユニバーサル ミュージックが同プロジェクトを立ち上げた背景の一つには、「日本人の洋楽離れ」がある。この数年の国内の音楽チャートでは、J-POPやK-POPが大半を占め、洋楽(英語音楽)の割合が減少していることから、メディアやSNSなどではそうした議論がよくみられるようになった。

記者会見で同社の藤倉尚社長は「1970年代は、会社の売り上げの40%が洋楽によるものだったが、今は10%以下になってしまった。日本の音楽産業にとって危機的な状況で、我々にとっても経営課題の一つだ」とし、これまで以上に洋楽を体験できる機会を積極的に創出することが、「UM English Lab.」の立ち上げた目的の一つだと説明した。
同社の洋楽部門担当の佐藤宙さんは、洋楽離れが進んだ背景として、コロナ禍でアーティストが来日できずコンサート等ができない期間が長かったことを挙げた。
また、教育現場の課題としても、英語の読み書き以外の聴く力や話す力を教える機会の少なさや、教師の人員不足・時間外労働の多さがあるという。洋楽を使った授業に関心があっても曲を探したり教材を作ったりする時間を確保するのが難しいため、同社が授業で活用できる副教材を無償で提供することで、そうした課題の解消も目指す。
会見には、同社所属の歌手のクリスタル・ケイさんも登場。父はアメリカ人、母は在日韓国人で、日本でアメリカンスクールに通い、音楽を通じて英語の表現を学んだと振り返った。

印象に残っている洋楽として紹介したのは、マイケル・ジャクソンの「ヒール・ザ・ワールド」。「洋楽はメッセージが強く、歌詞はシンプルでダイレクト。社会問題もストレートに歌われているので、歌詞を掘り下げて理解すると、他の学びにも広がる」と、自身の体験を交えて話した。
また、音楽で使われている英語表現は、実際のコミュニケーションにも役立つといい、「歌詞は話し言葉やカジュアルな言い回しが使われているので、それを英語で話す時に使ったら雰囲気も和らぐし、伝わりやすい」とアドバイス。英語でのコミュニケーションで大事なこととしては「失敗してもいいからトライする。勇気を持って知ってる単語を使ってみてほしい。世界を見る視野が広がるきっかけになると思うから、がんばってください」と生徒たちに呼びかけた。
「he」が指すのは? 「父親」でも「彼氏」でもなく…
会見後には、生徒30人に対し体験授業が行われた。講師は「合同会社いい教材製作所」代表社員で、「UM English Lab.」の教材の監修を務めている吉川佳佑さんが担当した。
授業に使われたのは、レディー・ガガの2011年のヒット曲「Born This Way」。楽曲を流してフレーズを聞き取りながら、歌詞の日本語訳や、その背景にあるメッセージについてグループで考えるといった内容だ。

たとえば「My mama told me when I was young “We are all born superstars”」という歌詞では、直訳に加え、どういう意図で「スーパースター」という言葉が使われているのかをグループで討論。学生たちからは「私たち一人一人が特別な存在だから自分を信じよう」などの解釈があがった。
また、「“There’s nothing wrong with loving who you are” She said,“’Cause he made you perfect, babe”」という歌詞では「he」は誰を指すのかを考えた。学生たちからは「父親?」「彼氏?」などの声が上がったが、吉川さんは「he=God(神様)のことで、キリスト教文化圏では、Godはheと表現されることがある」と解説した。
1曲の中で同じフレーズが繰り返される意図について、吉川さんは、「ファンが歌いやすく、大勢で歌うことで曲自体がアンセムの力を持つ」などと解説し、「Born This Way」がLGBTQコミュニティへの連帯を示した曲だと総括。英語のリスニングや発音、単語を学ぶだけではなく、曲が生まれた文化的・社会的背景についても探求する授業となり、学生たちも熱心に取り組んでいた。
「UM English Lab.」では洋楽×英語教育に関するウェブサイトを立ち上げ、副教材を配布するだけではなく、洋楽を通じて気軽に英語を学べるコンテンツやアーティストのインタビューなどを発信していく予定だという。