
俳優の松重豊さんが今、韓国で人気だ。
監督・脚本・主演を務めた「劇映画 孤独のグルメ」が3月19日に現地で公開されるのに先駆け、テレビやネットの番組に次々と出演。韓国の著名人と食を楽しんだりバラエティに挑戦したりする姿が話題を呼んでいる。
日本出身のKPOPアイドルを除いて、日本の芸能人が韓国の番組に出演するのは珍しいことだという。
松重さんや「孤独のグルメ」人気の背景について、現地報道をもとに考えた。
韓国でも人気の「孤独のグルメ」
同名漫画をテレビ東京でドラマ化した「孤独のグルメ」は、2012年から13年にわたり放送されている。今回の映画版では、松重さんが初めて監督を務めた。
松重さんは当初、かつてから交流のあった「パラサイト」のポン・ジュノ監督に手紙を書き、演出を打診。スケジュールがあわずに実現はしなかったが、「完成を楽しみにしている」と言われ、自分で監督をやることを思いついたと明かしている。
「孤独のグルメ」のドラマは韓国でも人気で、韓国を舞台にしたスペシャルドラマが放送されたこともある。映画版ではロケ地の一つに巨済島(コジェド)が選ばれ、松重さんのオファーでベテラン俳優のユ・ジェミョンさんも出演した。
「孤独のグルメ」の映画は、日本での公開前に、2024年10月の釜山国際映画祭で世界初上映された。
松重さんの出身地である福岡は、海を挟んで釜山とも近い。韓国に関心を持った理由として、「幼い頃から韓国のラジオを聞きながら、日本と近く似たような国だと思っていたが、海を渡ると同じ食材でも味が全く変わることがショックと言っていいほど不思議だった」と話していた。
映画祭の記者懇親会に参加した松重さんは、本作の人気が韓国だけではなく、中国や台湾にも広がっていることに言及。「東アジアの国々は手を携えて歩んでいかなきゃいけないと、心の底から思っている」とコメントし、日韓関係についても「どんな状況になっても、このドラマを愛していただける限り、僕は韓国に来て笑顔を振りまく覚悟はできている。僕が関わったドラマが役に立つのなら、本当にこれからの人生をささげたい」と語ったことも話題になった。
韓国での「1人飯」文化の広がり
「孤独のグルメ」で松重さんが演じる「五郎さん」は、韓国で広がる「1人飯」文化を象徴する存在だと評するメディアも多い。
1人飯は韓国語で「혼밥」(ホンパプ)という。釜山日報は、本作を紹介する記事の中で、五郎を「혼밥 아저씨 고로=1人飯おじさん 五郎」と伝えている。
韓国ではもともと、食事は家族や友人、同僚などと一緒にするものだという慣習が根強かった。1人で食事する人は「友達がいない人」だと冷たい視線が注がれ、実際に、2人以上からしか注文できないメニューが中心の飲食店も少なくない。
しかし、1人世帯が増えたことで、2010年代半ば頃から韓国でも1人飯をする人が増えてきたという。「孤独のグルメ」の人気が広がり始めた時期とも重なり、日本に関する旅行情報メディアは2018年の記事で、日本を「1人飯の聖地」と呼んでいる。
「モッパン」など食コンテンツが人気の韓国
松重さんは映画の公開に伴い、国民的MCのユ・ジェソクさんのテレビ番組「遊んだら何するの?」、コメディアンのキム・デヒさんのYouTube番組「ご飯食べよう」などに出演。多くの著名人が「孤独のグルメ」のファンだと発言している。松重さんは、食事をしながら、日韓の食文化やこれまでのキャリア、韓国への関心などについて会話を弾ませ、現地の人々にも好評のようだ。
3月11日に公開された、BTSのJINさんがホストの番組「Run Jin」の次回予告の動画にも、松重さんが登場して大きな話題になった。「孤独のグルメ」のセリフ「腹が…減った」を韓国語にした「배가 고프다」(ペガ ゴプダ)と言う松重さんが、JINさんともう1人のゲストのカンナムさんと食事やゲームをするようだ。
また、松重さんと歌手のソン・シギョンさんが、日韓のグルメを紹介し合うNetflixの番組「隣の国のグルメイト」の配信もスタートした。美食家で知られるソン・シギョンさんは「孤独のグルメ」のファンで、韓国が舞台のスペシャルドラマ版にも出演。食を通じた交流が広がっている。
このように、韓国には、ゲストと司会が食事しながらトークを繰り広げる番組が多い。食事中の様子を撮影した動画コンテンツは、誰かと食べている雰囲気を味わえるなどの理由でYouTubeなどで人気があるが、もともとは韓国の「モッパン」が発祥だ。
日本の食に関する作品としては、2018年に、五十嵐大介さんの漫画「リトル・フォレスト」がキム・テリさんが主演で、韓国で実写映画化されたこともある。
就職浪人中の主人公が、故郷に帰ってきて農業を営み、友人と四季折々の料理を作って楽しみ、新しい一歩を踏み出すというストーリーが支持された。食を中心に、何気ない日常を丁寧に描く点が「孤独のグルメ」とも共通しており、こうした作品が韓国と相性が良いと言えるだろう。